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「衝撃貝くらい持っといてもいいんじゃねえか?」
「衝撃貝?」
空島名物というタコバルーンを使って舞い降りた地上の青い海の上で、ウソップがそう言って私を指差すので首を傾げる。ルフィが萎んだタコを「ありがとな!」と言って海に戻していたので、(あ、さすがに食べないんだな……)と船長に対してちょっと失礼なことを思っていた時のことでもある。
「衝撃を閉じ込めておく貝のことだよ」
説明されてもいまいちピンとこない。私がコニスたちに教えてもらったのは、音や灯を吸い込む貝だけだ。しかし周りの『それもそうだな』的反応を見る限り、持っていた方がいいらしい。それが民意なら従いましょう、よく分からないけど。
空き樽を持ってきたウソップは、その上に貝殻を置くと、「見てろ〜」と言って楽しげにハンマーを高く振り翳した。
「おりゃ!」
「……あー、今の衝撃がその中に吸い込まれたってことですね?」
「いや物分り良!! そうだけどもっと戸惑ったりしろよ」
そんなつまらなそうに言われても困る。さっきの説明と傷一つ付かなかった樽を見れば大体予測つくもん。「ほれ、樽に当てて撃ってみろよ」言われるがままに、ウソップから渡された貝を、樽の側面につける。
「――あっちょっと待っ、」
ナミが慌てた顔で手を伸ばしてきた。その焦りように、えっと思ったけど、力を入れてしまった指はもう間に合わなくて。カチリと、殻頂が押し込まれる。
「っア?!」
肩が吹き飛んだ。
……と、思うほどの強烈な衝撃が右手から始まって体全体へと走り抜け、私は勢いよく背後に吹き飛んだ。デッキに腰を激しく殴打し、そのまま仰け反って海に落ちかける。多分、ルフィの腕が腰に巻き付いて助けてくれたんだが、余韻で痺れる身体にはその巻き付く振動すら骨に響いてジンジンと痛んだ。
「ぁぁあああっ?! 痛い痛い痛い!!」
「あーあ、言わんこっちゃない……」
床の上でジタバタとのたうち回って叫ぶ。腕もげた腕もげた腕もげた! 視界に映った掌からは、しゅうしゅうと煙が上がっていた。燃えっ、エッ燃えてる?! 待って意識しだしたら急に手が熱い!!
「イヤーッ?! 腕もげた手が燃えた死んだ!!」
「ギャーッ?! 医者ー!!」
「腕もげてたら手は燃えないだろ。お前やっぱ結構愉快なヤツだったりするな?」
この痛みの元凶である平成のシャーロック・ホームズの声がなんか言っていたが、気にしてられなかった。医者であるはずのモフモフに泣き縋られながら、ぐったりと床に臥せる。空島コワイ空島コワイ空島コワイ。
ウソップがサンジにバチボコしばかれ、私の溜飲もだいぶ下がった頃合で――衝撃貝を私が持つかは一旦保留になった。私があまりにもクソ雑魚なため――、空島で得た宝の山分けが始まった。生まれて初めて見る黄金の山に感動して言葉をなくす。ひえ〜目が痛い。鐘楼貰わずに帰ろうとするからいいの? と思ったけど、たしかにこんなにあればもう要らないか。
「まず私のへそくりが八割……」
「いやちょっと……」
「冗談よ。思うんだけど、このお宝は、船の修理に使うのが一番なんじゃないかしら」
ナミの提案にみんなが沸き立つ。ベラなんとかに壊されたり空島で燃やされたりと、色々あったもんね。よかったねメリー。今は声は聴こえないけれど、彼も喜んでいる、ような気がする。
「ゴーイング・メリー号大修繕!」
「大賛成だ!」
おーっ! とロビン以外の全員が嬉しそうに両手を突き上げる。ゾロ、意外とやんちゃだ……。目が合うと、途端に不機嫌そうにしかめっ面をして、顔を背けられた。
「ウソップのツギハギ修理もさすがに限界だしな」
「言っとくがな、おれは狙撃手だ!」
「(あれ……)」
そんなわけで、お宝は船の修理費が決まってから山分けすることになった。話し合いにひと段落つき、和気あいあいと昼食を囲む。私もサンドイッチを一口齧りながら、ふとなにかが頭に引っ掛かった。今更だけど、私が知ってる麦わらの一味の船って太陽? ライオン? みたいな船首だったような……。あれ、気の所為かな。
喉に小骨が刺さったような違和感の正体を探しこんでいたら、自然と顔が険しくなっていたようで、サンジに「口に合わないかな……」と眉を下げられてしまった。サンジの料理が合わなかったことなんて一度もない。ながら食いダメ、絶対。反省して、私はサンドイッチに集中することにした。
そうしてメリー号は、新たなる船員『船大工』を求めて、ちょ〜〜〜う長い島に上陸した。しかし島の住民はおじいさんと馬(?)のみ。船大工どころか私の行きたかった本屋もない。しょうがない、次の島だな。
さて、すったもんだあった末、麦わらの一味は成り行きでフォクシー海賊団とかいう相手とデービー・バックファイトという海賊版花いちもんめに参加することになった。私は人数オーバーと先程の怪我のこともあり、試合参加免除。やったー! いや別に仲間じゃないので元々参加資格もないんですけどね。とにかくラッキーだ。
チョッパーが二回戦のグループだったけどフォクシーにとられてしまったため、相手側から『代わりにその女だしたら?』とかいう提案された時はどうしようかと思ったけど。本来なら選手の補充はNGだが、私があまりにも弱そうだったから舐めプされたらしい。でも私が断るより早く、麦わらの一味全員が――敵陣に行ってしまったチョッパーでさえも――口を揃えて「間に合ってます」と言ったので事なきを得た、私の命が。
その後のゾロとサンジの奮闘ぶりを見て、(出てたら絶対死んでた)と心底、改めて思った。や、ほら、この場合は出場したほうがお荷物になっちゃうのでね。空気でいさせてください。後生だから。
フォクシー海賊団のオヤビン(親分?)も能力者だったようで、最終戦である船長対決はそれなりに大変そうであった。が、ルフィは無事に勝利を遂げた。そこまで実力がある相手ではなかったけれど、しかし罠がいっぱいしかけられた敵船での戦闘だったというのが、ルフィが苦戦を強いられた理由の一つだろう。卑怯だな〜あのシャクレ狐。普通にドン引き。もちろん私が指名されることは無量大数が一にもないとは思うが、それでもルフィが勝ってくれて一安心だ。麦わらの一味の誰一人だってあんな奴らの元に行ってほしくないし。
「おいそこの――今回活躍がなかった地味女!」
「はい?」
失礼だが的確な表現に、私は足を止めて振り返ざるを得なかった。オヤビンは口の端を吊り上げてデカい顎を突き出し、値踏みするような眼差しで私をじろじろ見た。
「ふん……ふんふん……スタイル・顔、どれをとっても、あの二人には遠く及ばない……航海士ほどの快活で健康的な華やかさはなく、ニコ・ロビンほどの妖艶な美麗さ、そして賢さもなさそうだ……」
「(なんで急にディスられてんだ?)」
わざわざ呼び止めておいて、は? なにこの失礼の塊。衝撃貝借りてこようかな。左手をもがれてもいいかなと思わせるほどにはイラッとした。言ってることどれも真実だけど、自分で言うのと、他人の口から言われるのとでは全然違うのだ。失礼な上にセクハラっぽくて腹が立ったので敬語は使わないことにした。
静かにそんな決意を固めている私へ、オヤビンは「だが!」とクワッと目をかっぴらかせた。
「お前には磨けば光る原石のような魅力を感じる! と思う! 俺様の目に狂いはない! 多分!」
「わやっわやじゃん。ていうかだからなに?」
「俺様の船に来ないか?!」
なぜかドヤ顔をしているオヤビンに溜息を吐く。思うやら多分やら、曖昧すぎる。やめとけ、そんなふわふわした理由で勧誘するのは。磨いたって別に光らんから。
「おじさん、ルフィさんに負けたじゃん。ルール違反では?」
「これは個人的な勧誘。つまり強制ではない。ので無問題!」
ならそんなの乗るわけなくない……? この人はどうも、私からの好感度がだいぶ低いことに気が付いていないらしい。
再び重い溜息を吐いた。聞くんじゃなかった。この世で生きてて最も無駄な時間を過ごしてしまった。誘いを断るために、口を開く。
「――だめだ」
すぐ後ろから声がした。かと思ったら、首元を覆うように腕が回り、肩を掴まれる。自然と体が後ろに倒れ、いつの間にか背後に立っていた人物に凭れるような形になった。腹に回る腕は、もう慣れたものだ。だってこの世界に来てから数え切れないほどこうされてきている。けれどいつもよりずっと力が強くて、なんなら少し苦しい。それに密着した箇所から伝わる熱も、普段とは桁違いだった。
「ナツは俺と一緒に行くんだ」
真後ろから放たれるルフィの声は、初めて聴いた声にとてもよく似ていた。静かで、それでいて遠くまで響くような、どこか力強さのある声。
「だからだめだ、絶対」
仲間じゃないんだから、行かないよ。
――とは、とても言えなかった。言う気も起きなかった。情けなく、そして不思議なことに。
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