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 海軍大将、青キジと相対して二日。
 メリー号は、ロングリングロングランドの島に未だ留まっていた。記録指針の記録はもうとれたけれど、ルフィとロビンが全身氷にされたし、ゾロとサンジもそれぞれ手足を凍らせられていたからだ。四人とも今は解凍されてるけど、大事をとって、出航は見合わせとなっている。

「あついな……」

 季節は夏なのか、夜になっても空気は少し蒸していた。前髪をくすぐるそよ風が少し物足りなく感じる。

 停泊の状態で、しかもこんな辺境の島で必要なのかは分からないけれど、私は不寝番を買ってでていた。……今回の件は、私のせいでもあるようだし。

「(“災厄の翻訳家”って、私のことだよね)」

 それまではふざけた、でも気のいいオジサンだったのに。私が食べた実の名前を聞いてから、急に態度が変わった。ロビンもロビンで彼と因縁があるようだったけど……。

「どうしよう……」
『――あ、来た』
「え?」
「よっ!」

 風の声が聴こえたと同時に目の前に影が落ちてきた。顔を上げると、ルフィが手摺の部分にしゃがんでいた。

「ルフィ、さん! 体調は……?」

 ルフィは返事の代わりにニカッといつもの笑みを浮かべた。大丈夫らしい。「よかったです」と私も安堵で笑いながら、ルフィのスペースを開けるため、少しおしりを横にずらす。ルフィは見張り台の中へと乗り込んできた。

「寝てなくていいんですか?」
「飽きた!」
「ここにいてもつまらないと思いますけど……」

 昨日と引き続き、船は見えてきそうにない。どこまでもなだらかな水平線があるだけだ。

「でもここにはお前がいるだろ」
「……はあ、そうですね」

 うわ出〜〜〜! 告白みたいなことをこの人は……。リアコ製造機じゃん。こわ〜……ゾッとする。

「お前、今あれ持ってんのか?」
「あれ? ああ、衝撃貝? 持ってますよ」

 念の為、と持たされた貝を取り出すと、ルフィが手のひらを突きつけてきた。渡せ、ということだろうか。推察して貝を乗せると、ルフィはそれを自分のポケットにしまった。あ、没収……はい。別にいいですけど。

「ナツはおれが守るからさ。要らねェよ、これは」
「……あの、前から思ってたんですけど、私を守ってルフィさんになんの得があるんですか?」

 興味本位で聞いてみる。「なんのって」ルフィは『なんで分からないんだ』とでも言いたげに不可解そうな顔をして、口をへの字に曲げた。

「好きなやつ守れたら嬉しいだろうが」
「……すき」
「おう」
「へえ」

 なんの衒いもなくさっぱり肯定される。へえ。すき。へえ、そう。へえ……。

「……えっ?」
「んァ……」

 不意にルフィがちいさく欠伸をした。いつも豪胆なのに、珍しく控えめでなんだかかわいい。ルフィは眠たげな眼を、ゴシゴシと猫のように擦った。

「ほら、病み上がりなんだから、大人しく寝ててください」
「んー……なんかあったらおれのこと呼べよ、絶対」

 分かったなと顔を覗き込まれる。さっきまで蕩けていたとは思えないほど黒く冴えた瞳に思わず息を詰める。

「わ、かりました」
「ん、ヨシ!」

 ルフィは軽やかに手摺に乗り上げ、そのままピョンと飛び降りた。梯子を使え、病み上がり。なんとなく下を覗けば、ルフィは満面の笑みでブンブン手を振っていた。ちいさく振り返すと、満足そうにして船室へ戻って行った。
 

 再び一人になった見張り台で、ふうと息を吐いて、キラキラと星が散りばめられた紺色の空へと視線を伸ばす。この世界は空気がキレイだから、星が眩しいくらいによく見えた。

 息を吸う。澄んだ空気で肺を満たし、少し呼吸を止め、目をつぶった。


――『好きなやつ守れたら嬉しいだろうが』


 もしかして――も、もし、かして。


「ルフィって私のこと、かなり好きなのでは……?」


 しかもあの――そ、“そういう意味”、で。


 まさかまさかまさか! いやまさか! まさか?! は?! まさかな?!?!

 まさかとは思いつつも、震えた声が零れてしまう。ザパーンと強い波が船縁へと打ち付ける音。そして――。

『今ごろ気付いたの〜〜〜?』

 風と海の綺麗にハモった、呆れたような、それでいて愉しんでいるような声が、空へと靡く。お前ら仲良いな! こんな時ばっかり! 普段はいがみ合ってるくせに!

「あーーー……どうしよ……」

 体育座りして、並んだ膝へと額を押し付ける。

 絞り出された声は、最初の『どうしよう』とは全然違う意味で困り果てた声をしていた。
 

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