25
とりあえず話がしやすそうな人――元海軍で、ほとんど冤罪に近いような罪に着せられていた人だ――を選んで、一人だけ本から人間に戻してみた(気合いで)。が、状況説明に時間を食ってしまったので、それ以上の本を人間に戻すのはやめた。唯一戻した人と協力して、地下と地上を何往復もして、なんとか全ての本を地上まで運びきった。能力は多分そのうち切れると思う、知らんけど。能力かけた本人の私が思うんだからそうだよきっと。多分。
とにかく、全ての本の避難をなんとかやり遂げはしたが、その頃にはもう約束の二十分ギリギリで。私は銃弾飛び交う司法の塔を、全力疾走していた。
一息吸うだけで全身が軋み、手足を動かせば悲鳴が上がる。知らない間に満身創痍だ。例のごとく頭は痛いし耳鳴りはするし、お決まりの嘔吐感とひどい悪寒。けどなんかほらあれ、気分は徹夜明けみたいな。そんな感じで、私はとてもハイになっていた。痛みさえ面白い。わあ、目の前がしろ〜い! 視界がゴミカス〜! ウケる〜!
とかやってたら顔面から転んだ。一度止まるともうダメで、体に力が入らなくて、起き上がれなくなってしまった。そもそもどこへ行ったらいいのかも見えないから分からない。誰か呼んでる、ような気が――だめだ、やっぱり分からない。だってなんか耳も全然聞こえなくて――。
――こっちだよ
「……メリー?」
頭痛を和らげるようなやさしい音に顔を上げた。あっちの方から、となんとかよろめきながら立ち上がって足を進めかけ、その先に仰向けで倒れているルフィを見つける。ふらふらと近付けば、ルフィも私に気付いて瞠目した。
「お、まえ……! なんでまだこんなとこにいるんだよ?! あっちの船にいるはずじゃ……?!」
「や、色々あって……どこに逃げたらいいか分からなくなっちゃって……」
「おーい!」
名前を呼ばれ、声の方へ目を凝らす。折れた橋の先で、ウソップが叫んでいた。
「よかった、お前も間に合った――でも……! なァ! なんとかルフィを運べねェか?! そいつ、動けねェとか言うんだよ!」
「わ、私が?! 分かった、やってみるけど……!」
「おい、いいよ! やめろ、無茶すんなお前!」
口では拒否されるも全く動かないところを見るに、ルフィはどうやら本当に力が全く入らないようだ。
一先ず、と自分の肩にルフィの腕を回そうとしてみるも、腕は伸びるだけで、体までは持ち上げられない。しがみつくようにして上体を起こすまではなんとかできたが、しかしここから立たせて運ぶとなるとかなりの時間を要してしまうだろう。
「(どうしたら……!)」
『第一支柱に一斉砲火用意――麦わらのルフィを抹殺せよ!』
「おい、お前だけでも逃げろ! おれはなんとかするから……!」
そう言うなら、押し返すくらいしてみせてほしい。そんなこともできない相手を置いていけるわけないじゃないか。聞こえてきたアナウンスに焦りが募る。私は一か八かでとルフィに抱き着き、足に力を入れて立ち上がろうとした。
――下を見て。僕がいるよ
喧騒の中、幼い羊がまた穏やかに鳴いた。「下を見る?」理由は不明だが、ルフィにもこの声が聴こえているらしい。
「海へ飛べー!!」
そしてウソップにも。
「……あっ!」
「どうし――」
自分の能力忘れてた。
私はルフィを“訳し”て一冊の本に変えた。本を胸に抱えて海に向かって走り、飛び降りる。
――帰ろう、みんな!
――また……冒険の海へ!
そうして落下の最中で、持っていた本を、私たちをここまで迎えに来てくれたメリー号に向かって思いっ切り投げた。
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