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 あの後どうなったか? ナミに抱き締められたまま気絶しました。はい、いつもの。最悪お家芸、寝落ち。メリー号の追悼式にも立ち会えなかった。本当に私というやつは……。


 しかし今回ばかりはみんなも疲労困憊だったのか、陸に戻ってからは私のように二日間寝っぱなしだったらしい。ルフィだけはまだ寝てるけれど。寝ながら……食べてるけど……。食い意地とかそういう次元じゃないよな、もはや……。大きな鼻ちょうちんを揺らし、サンジの用意した料理を手当り次第に口に運ぶルフィをしげしげ見てから、私は立ち上がった。

「えっどこ行くんだい?」
「ちょっと本屋に」

 肘のあたりまで料理を乗せたサンジが、困ったように眉をひそめた。

「あー……ちょうど新しい料理を仕込み始めちまったんだよな。どうしようか……」
「え?……ああ、もしよければおつかいしてきましょうか? 本の題名が分かるなら?」
「えっ?」
「えっ?」

 善意の提案だったのだが、妙な沈黙が生まれた。なに? 「……えっと」サンジが言いづらそうに口元を引き攣らせる。

「あの、ナツちゃん? まさか一人で出掛けようとしてるわけじゃねぇよな?」
「出掛けようとしてます」
「ななな何言ってんのォ?!」

 いつの間にか空になっていた皿をテーブルに置くと、サンジは私の前に跪いた。風が吹くほど俊敏な動きに驚いて身を引きかけるも、それより早く手を握られる。

「ひとっひと、ひとりィ?! ぜっっったいだめだよあんなことがあったばっかなのに!」
「いや……でもCP9はもういませんし」
「そういう問題じゃなァアァい!!」

 サンジは大袈裟に泣いている。えー……と思いながらさりげなく手を解こうとしたが、気が付いたら二の腕をルフィに掴まれていた。……寝てるはずじゃ? ルフィを見たが、相変わらずスヤスヤしながら口をモグモグさせている。うん、寝てるなァ……。寝てるとは思えない握力……。

「ぐ、ぅ……ナミさんはまだお眠りだしロビンちゃんとチョッパーはまだ帰ってこねェしルフィはこうだしウソップはウソップだし……かくなる上はしょうがねェ――おい藻!」
「……ハア、わァったよ」

 藻ってなに? と思ったら壁に凭れて座って眠っていたはずのゾロが気だるげに立ち上がった。藻だったんだ、ゾロって……。知らなかった。発覚した新事実を噛み締めていれば、「おら、行くんだろ」とゾロに首根っこを掴まれた。

「オイ! 丁重に扱え!!」
「行、え……えっ? 一緒に?」

 なんで? とまでは口にしなかったが、顔に出ていたらしく、ゾロは返事の代わりに呆れ顔をした。答えてくれる気はなさそうだと、サンジへ視線を投げる。

「悪ィけどコイツのお守りしてやってくれ」
「はあ……分かりました……?」

 ゾロもどこかに行きたかったってこと? 酒屋?
 サンジの言葉を額面通りに受け取ったがいまいち釈然としない。疑問符混じりに了承すれば、ゾロに後頭部を小突かれた。





「……悪かったな、ナツ」
「あ、やっぱりお守りだったんですね、これ」
「ちげェよ」

 ギロリと睨まれたけど、そうかなぁ、と思った。

 宿をでてから三十分。急にどこかに行こうとするのをもう何度止めたことか。最初はそっちが近道なのかとかなにかあるのかとか思って黙ってついていってたけど、行き止まりとか治安が悪そうなところばっかりに辿り着くので(あ、この人壊滅的な方向音痴なんだ)と察してからは腹巻をがっちり掴ませて貰っている。行くなゾロ、もうどこにも。そんなJPOPの気持ちだ。いやほんと切実に。いつになったら本屋につくんだ。

「おれァてっきり、お前が“衝撃貝”を持ったままだと――……いや、そうじゃねェか。持ってたとしても誰かを同行させるべきだった。青キジに遭遇したばっかだったってのに、危機感が足りなかった」

 立ち止まったゾロは横目で私をちらりと見て、「悪かった」ともう一度口にした。少し落ち込んでいるような雰囲気に、なんて返すべきか迷いながら口を開く。

「んん……まあ、私にかんしてはそこまでしてもらう理由もありませんし、別にお気になさ――」
「アァ?」
「…………らず」

 急にバチ切れオーラ全開で睨まれ、顔が強ばる。さっきまでの殊勝な態度はいったいどこへ。

「そりゃどういう意味だ、テメェ」
「(顔面が輩すぎる……)いや、だってほら、私って仲間じゃなくて居候的なあれじゃないですか」
「ほォ?」

 ゾロの目が据わる。失言の自覚はまったくないけど失言なんだなと賢い私はピンときたので、すぐさまゾロの背後に回り、怖い顔から逃げた。

「いやっほらっ――ね、さ、早く本屋行きましょ!」

 そう言って全力で背中を押すも、ゾロの体幹は岩のようでビクともしなかった。靴から生えた釘が地面に刺さってるとしか思えない。

「まあ待て、そう急ぐこともあるめェよ。本屋は逃げねェし、誰かさんたちと違って誘拐されることもねェからな」
「それはそうだけど急ぐことは全然あるんだよ。宿出てからどんだけ経ってると思ってんだ。この調子じゃ日ィ暮れるわ」
「お、いいじゃねェか、その喋り方。そういやメリーで合流した時もそんな話し方してたな、お前。よし、これからそうしろ。そうしたら今の発言は聞かなかったことにしてやる」
「そんな大罪だった……?」
「ルフィたちが聞いたらどうなるかねェ」

 ニヤニヤしていることが声色だけで分かった。しかしニヤニヤはしてるけど、発言の内容は伊達や酔狂というわけでもなさそうで、ごくりと唾を飲む。ど、どうなっちゃうんだ……。




 本屋には無事辿り着いたものの、思えば特に用がなかった。散々やらされた翻訳作業のおかげで、もう“歴史の本文”が読めるヤバさを理解してしまったので。本屋を三秒であとにした今、私は、海辺にいた。ゾロ? 本屋ではぐれた。目を離した三秒の隙をつかれて。もう知らない、私悪くないよこれ。
 波止場から身を乗り出して、海の中へと手を浸けた。くすくす笑う海を、ゆらゆら掻き混ぜる。

「……ありがとね、助けてくれて」
『あそぶ? あそぶ?』
「遊ばない」

 嬉々として聞いてくる海へキッパリ拒絶するも、海はそんな残念そうな素振りは見せない。波を白く泡立たせてレースを作り、ただ機嫌よく笑っていた。


「――危ないですよ、そんな身を乗り出したら」
「え?」

 しばらく海と遊んで(接待)いれば、控えめに声をかけられる。振り返れば、海軍の服を着たピンクの髪の男性が、私に目線を合わせるように屈んでいた。
 

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