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『あそぶんだ?!』
『やったー!』
『こっちだよ、こっちだよ』
『嬉しいなあ、嬉しいなあ』
『楽しいねえ、楽しいねえ……』
「死ぬ!! えっ死んだ?」
「生きてます」
間近から降ってきた声にビクッとする。知らない海兵さんに横抱きにされていた。冷静なツッコミをいれた海兵さんは「おはようございます」と生真面目に挨拶してくる。
「歩けますか?」
「あ、はい……あの、私溺れませんでした?」
地面に降ろしてもらい、首を傾げながら尋ねる。海たちが全力で大はしゃぎしてた記憶が体に残っていて、少し痺れていた。体もちょっと濡れてるし。「溺れてましたよ」海兵さんはこくりと一つ頷いた。
「@波止場にいたあなたへコビー曹長が声をかけるAヘルメッポ軍曹とガープ中将がやってくるBガープ中将『おっ麦わらの一味じゃな?! せっかくじゃし一緒に行こう!』あなたの背中を叩くC強く叩かれすぎて海に落ちるDコビー軍曹が助ける、です」
じ、ジジィ……!
分かりやすい説明に、頬が引き攣る。「うちの上司が大変失礼申し訳ありません」言葉通り、心底申し訳なさそうに謝罪する海兵さんに「いえ……」とは言うも、ジジィ! という気持ちはやっぱり捨てきれなかった。説明を聞いて段々思い出してきた。そうそう、話しかけられたかと思ったらなんか人が増えて、背中が破裂したかと思ったら海の中にいて……海、大興奮してたからコビー曹長? さん、助けるの大変だったんじゃないだろうか。お礼を言っておかなきゃ。
「ていうかあの、私麦わらの一味じゃないんですけど」
「え?」
「そもそもここどこ……」
首を回したところで、カキンという鉄が擦れ合う音や、殴打音が響いてきた。つま先立ちになって物騒な音の方を見る。人集りの先にはみんなが休んでいる宿と、二本の刀で座り込む誰かを首元をサンドしてるゾロと――。
「わーっ?! やめてくださいルフィさん!」
「えっ?!」
命の恩人であるコビー曹長さんをのしているルフィの姿が。目が覚めたのはいいけれど、と急いで駆け寄ってコビーさんの隣に膝をついて、ルフィを妨害するように手を広げる。ディーフェンス! である。こんなのルフィが本気になったら無意味だけど。でもルフィは拳を下げてくれた。
「だめですこの人をボコボコにしちゃ!」
「い、いや、おれは別に……!」
「この人は私の――」
私の勢いに狼狽してか、ルフィがたじろいで数歩下がる。「大丈夫ですよ!」肩をポンと叩かれた。
「ありがとうございます、ナツさん!」
「でも……え、なんで私の名前……」
曹長さんはにっこりした。わあ、いい笑顔。
「知ってますよ、麦わらの一味のナツさんですよね!」
「違います!」
「えっ?!」
声を張り上げて否定すれば、色んな方面から声が重なって聞こえた。気にしないことにする。視界の端でゾロが『あーあ』という顔をしていたが、それも見なかったことにして。
ていうかゾロ、一人で宿まで帰ってこれたんだな。本気を出せばあんなに迷うことはないってこと? なら本屋の時も本気をだしてほしかった。
なんだか変な沈黙が生まれたが、まあなんだ、大丈夫というなら大丈夫なんだろう。私は立ち上がって、曹長さんへと手を差し出す。「あ、ありがとうございます……」ちらちらとルフィを見ながらも、曹長さんは手を重ねるだけ重ねてすっと立ち上がった。全然力入ってなかった。親切を無下にはできないしっていう曹長さんの気遣いを感じた。よく考えたらそれはそうすぎる。余計なことしちゃったな。
「……ルフィさん、ゾロさん! お久しぶりです。僕が分かりますか――」
コビー曹長と、それからゾロに制圧されていたヘルメッポ軍曹は、四人とも知り合いらしかった。あとあのジジ、ガープ中将という人はルフィのおじいちゃんらしい。ああはい納得です。ルフィを五倍くらい無茶苦茶にしたらああなるんだろうな……。
「お前の父はモンキー・D・ドラゴン。革命家じゃ」
自分で壊したという宿の壁へトンテンカンテンと釘打ちしながら、ガープさんはさらっと暴露した。
この世界の常識をあらかた知りはしたが、なんていうか『教科書読んで歴史を覚えました』みたいな感覚で、いまいち現実味はない。ので、ルフィの父親の話を聞いても、『誰?』の反応しかできなかった。革命軍がなにかは知ってるしそのトップっていうんだからすごい人なのはわかるよ。ロビンも説明してくれたしね。
「(『知ってる』『分かる』ってだけじゃ駄目なんだろうなぁ)」
飛び上がるほど驚いて震えてる皆をみてそう思う。やっぱりどう足掻いても、私は『この世界の人間』にはなれない。分かっていたはずのことを突き付けられた気分だ。寂しいなんて思わない。だってそれは、当たり前のことだから。
「あの」
「はい?」
宿の壁を部下たちと直し終えたガープさんは先に帰るというので、見送りに外に出る。「惜しめバカ者!」「どうしろってんだよ!」「わしは孫に愛されたいんじゃ!」ルフィとガープさんがなにやら揉めている中、私はそっとコビーさんの側へ寄った。コビーさんたちは壁修理をお手伝いしたりしていたし、まだちゃんとお礼が言えてなかったのだ。
「私のこと助けてくれたって聞きました。ありがとうございます。かなり深くまで溺れちゃったと思うんですけど……」
「あ、いえそんな! 泳ぎの訓練は受けてますし、人を助けるのは当然ですから!」
「わ、わあ……かっこいい……」
コビーさんはサラッとそう言うと、爽やかな笑顔で敬礼をした。こんな誰もが想像する『いい人』の像にピッタリな人いる……? 感嘆しすぎて思わず本音が零れてしまう。他意はない。純粋な、人としてかっこいいな、という本音。「えっ、いや……えっと……」しかもかわいい。先程のキリッとした顔を崩し、照れ臭そうに頬を染めたコビーさんに愕然としてしまう。こんな、こんな存在……!
「だ、ダメだ!」
「えっ」
お腹に圧迫感。体が少し浮いて、ビュンと風を切る速さで後ろに引かれる。ぐえ、苦しい。下を見れば、ぐるぐると、ルフィの腕が四重にもなって腹に巻き付いていた。
「コビーはたしかにめちゃくちゃ良い奴だしスゲー奴だしやる奴だし強いし、でもおれよりは弱ェし、いやこれからもっと強くなるだろうけど、う、でもだとしてもおれの方が絶対強ェし……!」
「はい?」
「っとにかくダメだ!」
「なにが……いたいいたい!」
内臓がでる! バシバシと腕を叩けばほんっの少しだけ緩まったけど、やっぱり解かれることはない。
「安心してください、ルフィさんからナツさんをとったりしませんから」
「う、でもコビーがそう言っても、でもナツが……!」
「え、私?」
私がなんだと困惑するが、ルフィは答えず、またぎゅうっと力を込めた。死ぬ、ちぎれる。絶対お腹に痕ついたこれ。
最初は、あの…………嫉妬的なサムシングかなと思ったけど、そういうわけじゃない感じなのかな。だってコビーさんじゃなくて私が問題っていうなら……うーん、よく分からない。
分かるのは、「ほォ!」と感心したように顎を撫でているガープさんがあらぬ勘違いをしているんだろうなということだけだった。違います、そんなんじゃないです。
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