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 またコイツは厄介ごとを呼び込んで。

 ロビンからの献上品である宝石を用心深く検品していたナミは、外から聞こえてきた物音に肩を跳ねあげさせた。宝石の類を手早く、そして慎重に金庫に保管してから、急いで甲板へ飛び出す。

「お前、海に住んでんのかァ?!」

 見覚えのない少女をくるくる掲げて大興奮しているルフィと、抵抗もろくにできず目を回している少女。そしてさらにその後ろにほっぽかれたなぜか大破しているベッドを見て、真っ先に浮かんだのはそんな感想だった。



「ちょ〜っと怪しいんじゃないの?」

 夜も更けた頃、言葉の通じぬ少女をなんとかシャワー室へ案内してから、ナミは女部屋にて枕を抱き締め、顔を顰めて空を睨んだ。

 数時間かけても、一味は少女から名前を聞き出すことすら敵わなかった。ルフィからの拙い説明で、『どうやらなにもかもうちの船長が悪いらしい』ということは、辛うじて分かった。が、言葉も話せず文字も読めず、いったいあの少女はこれまでどうやって生きてきたというんだ。
 ナミの口から、自然と疲れと憂いを孕んだ息が洩れた。

 見るかぎり普通の、ナイフも握ったことがなさそうな平和ボケした少女に見える。腕だって、ミカン箱一つ持てば折れそうなほど細かった。だからといって油断はできない。ここは偉大なる航路。なにが起こるか分からない海なのだ。そう簡単に気は抜けない。

「ねえちょっと、ロビンもそう思わない?」
「さあ……どうでしょうね」

 適当な相槌を打ちながら、ロビンは細い指で茶色く色褪せた薄い紙の最後の一枚を捲る。もう何度か読んだから分かっていたけれど、やはり今更新たな発見は得られなかった。ロビンは読み終わってしまった古い本を閉じ、ベッドサイドのテーブルに積んだ。ロビンは何も言わなかったが、その様子で察したナミは困ったように眉を下げる。

「ロビンでも収穫なし、か」
「ごめんなさい」

 持っていたどの歴史書の中にも、異なる言語を扱う民俗の話は載っていなかった。謝罪を口にしながら、ロビンは思考の手慰みに、置いたばかりの革製の表紙を撫でた。飛び出した短い糸のほつれを特に意味もなく摘む。

 この海は広い。地域によって異なる慣習や風土があり、様々な人種が――時には“ヒト”でない場合もあるが――いることは考古学を学んでいるロビンとしてもよく知るところだ。例えば、そう――『巨人』だとか。
 懐かしい友人が脳内で笑い、それにつられてロビンも同室の女性にバレない程度にひっそりと頬を緩めた。

「(……でも)」

 込み上げた郷愁を打ち消し、代わりに悄然と立ち竦んでいた少女の姿を思い描く。
 あの少女は、もしかしたら見た目がヒトの形をしているだけで、私たちとは別の種族なのかもしれない。しかし種族が違うのだとしても、訛りなどの郷土独特の特徴とは違い、全く通じない言葉なんて。ロビンは思考に耽って花唇へ軽く曲げた指の関節を押し付けた。

「(まともな教育を受けていない、とか)」

 こんな世の中だ。可能性としてはおかしくないし、なんなら最も説明のつけやすく納得できる理由だ。見た目が普通でも、過去に何かあったのかもしれない。文字を学べる環境になかったか、もしくはそんな暇がとれないほど『なにか』に追われていたか……。

 しかし昼間にかち合った、困ったような、けれど利発そうな眼差しを思い出すと、物をなにも知らない無知な少女のようには思えなかった。後ろめたい過去があるようにも、同様に。

 だからロビンは、思い浮かんだ最も有力な可能性をどうにも口にする気になれなかった。代わりに、不安そうな航海士へ、いつものようにゆったり微笑みを向ける。

「海は広いから、なんとも言えないけれど……もしかしたらこれから行こうとしている空島の言葉なのかもしれないわ」

 空島。
 行き方どころか、そもそも本当に存在するのかすら分かっていない、空に浮かぶ幻想郷。
 思いもよらぬロビンの言葉に、ナミはきょとんと目を瞬かせた。

「今のうち習っておくべきかもね」
「……そうね」

 ロビンの言葉を冗談ととったのか、ナミは少しだけ力を抜いて笑った。半分本気なのだけれど。と思ったが、ロビンはそんな本音は心に閉まっておくことにした。
 

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