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ひょんなことから旅に同行することになった少女は、基本的に喋ろうとしなかった。どうせ話しても意思疎通は取れないのだから、当然ともいえる。
少女はいつも居心地悪そうにしながら甲板の隅で膝を抱え、じっと口を噤んで、夕陽が沈むまで、ひたすらに海の果てを眺めていた。日差しや船の揺れのせいか時折疲れたように息を吐くので、それに目敏く気付いたサンジがきりもみ回転しながら、花飾りのついた鮮やかなお手製ドリンクを差し入れに行く。しかしサンジがそうすると、少女はたちまち申し訳なさそうに身を縮こませた。
サンジとしてはそのまま好きなように、気楽に、できれば少女の過ごしやすいようにして海を眺めていてほしいのだが、サンジにはそれを伝える術がなかった。そして残念ながら、少女側にも彼の気遣いを察して受け取る心の余裕が設けられていなかった。少女は(あっ、これは『これやるから船入って大人しくしててくれ』ってことかな)と不必要に後ろ向きに解釈し、ますます萎縮した。
そうして(こんな綺麗なドリンクまでわざわざ用意させてしまった……)と肩を落とすところで、涎を垂らしてドリンクを凝視しているルフィと目が合うので、少女は毎度、サンジから恭しく渡されたドリンクを口もつけないでルフィへと渡した。サンジとしては面白くない。面白くないというか、面目ない。なによりも優先すべきレディに、要らない気を遣わせてしまっている。それはドリンクを横流しにされることよりも、丹精込めて味から見た目、グラスにまで気を配ったドリンクを情緒のじょの字も知らぬゴムに一口で吸い込まれるよりも、ずっとずっとサンジの気持ちを落ち込ませた。
「どうにかならねェもんか……」
「ほっとけ」
小ぶりの頭を力なく下げてすごすごと船内へ帰っていく華奢な背中を見送り、サンジは途方に暮れる。苦虫を噛み潰したような渋面のコックへ、マストに凭れて一連の流れをずっと見ていた剣士は、吐き捨てるようにそう言った。極力音を立てないようにと配慮されて閉まった扉を見て、顔を歪める。
ゾロのような手練からすれば、充分な騒音だ。わざとらしいその挙動は、一般人を、もしくは無害を装っているつもりなのだろうか。普段の振る舞いを含めて、ほとほと小賢しいなと思う。ゾロは、ルフィ曰く『突然海に現れた』という言葉も通じない少女を、歓迎も信用もしていなかった。もちろんそれは少女も当然知るところである。だからこそ用もないのにわざわざ甲板に出てきてゾロが監視しやすいようにしているのだが、当の剣士は、さすがにそこまでは気付けていなかった。
しかし、コックにはああ言ったものの――先程有難くもしてやったアドバイス(というほどではないが)は、当然のように無視された。恩知らずなやつだ――、ああして部屋に引っ込まれるのは、正直な話、ゾロとしても困るところだった。なにせ少女が引っ込んでいったのは女部屋。ナミの、ひいてはロビンのテリトリーである。あんな場所に籠られたら、さすがにゾロも監視できない。目の届く範囲にいてくれたほうが、こちらとしても楽なんだが。
ゾロは溜息を吐いて、中断していた昼寝を再開するために瞼を閉ざした。
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