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 あらすじ。


 懸賞金がついた。


「うそだーっ! なんにもしてないのに!」
「したしされたでしょ」
「それは記憶にないのでノーカン」
「ロビンの顔見て同じこと言える?」
「えっ?……うそうそされました辛かったー!」

 辛かったもどうなんだと言ってから思ったし、案の定ロビンの顔はずんと落ち込んだし「ううっ……」と全然予期してなかったルフィにも刺さった。ルフィって意外と気にしいなんだな……。知ったこっちゃないですけどね。
 気を取り直して「あの」と一味に声をかける。

「ちょっといいですか?」
「だめ」
「そもそも私にメリットがないと思うんですよね」
「知るか」
「知るか?!」
「悪いがおれたちゃ海賊。そんな正当な理屈を求めるのはナンセンスだぜ」

 女性の味方のはずで、ゾロとは犬猿の仲のはずのサンジが、あろうことかゾロの暴論に同調するようにニヤリとする。サンジにとって私は女性じゃなくなったらしい。

「それにおれの料理ってのはナツちゃんにとってメリットにならねェかい?」
「グッ、それはかなり揺れる、けど……でもやっぱ私この船での役目がないですし!」
「あら、そうかしら」

 そう言ってロビンが手配書の下部、“災厄の翻訳家”の文字を指す。ああ、うん、たしかに……翻訳家ね……。納得してしまってスンとなってしまった。

「船に乗れば、いずれはワノ国にも帰れるわよ」
「あっやめろよロビン! おい、帰さねェからな!!」
「アンタは黙ってなさい! とりあえず今だけそう言っておくのよ!」
「聞こえてますけど」

 ナミの大声に苦笑する。ていうかそもそもワノ国、別に故郷じゃないしな……。

「なあ、なんでそんなにイヤなんだ?」
「イヤっていうか、んん……」
「……あのな、処方してる薬あるだろ? あれは継続して飲まなきゃ意味がないんだ。だからそういう意味でも、おれは担当医としてナツに船に乗っててほしいよ」

 情に訴えるとはまた別の方法をとってきたのは、意外にもチョッパーであった。専門家、しかも医師の意見。唸るほかなくなる。なんかきかなきゃって気持ちになるな……。表面上は何ともなっていないけれど、私の体はかなりボロボロになっていると、エニエス・ロビーからの帰還後に診察された。へえ、そうなんだーという感じである。

「ね、アンタ、好奇心旺盛で試したがりじゃない。控えめにみえて結構図太いし。気性は海賊ピッタリよ」
「それ褒められてる気がしないんだけど……? でも船旅だって慣れてないし……」
「一ヶ月も乗りゃ十分慣れたって言えるだろ」
「……皆さんにご迷惑をかけると思いますし」

 いつ撮ったか知れない写真――きっとルフィのそばにいるときだろう――をちらりと見る。私の手配書はなぜか【Only Alive】だ。一味の中で一人だけ。ルフィが腰に手を当てて胸を張った。

「なにが来たっておれが守る!!」
「いやそれはうそだったじゃん……」
「ウギャッ!」
「あら、実は気にしてたの?」
「いや全然まったくこれっぽっちも。でもルフィさんは気にしてるみたいだし、これ言ったら引き下がらないかなって」
「悪魔か」

 ゾッとしたようにゾロが呟く。そんな仁義や義理人情をとっても大事にしている剣士を見て、ふと思いつく。この作戦、これならどうだろうか。

「う、あのなァ、お前! オージョーギワが悪いぞ!」
「そんな難しい言葉知ってるんですね。ちゃんと意味わかって使ってますか?」
「失礼だぞお前!」
「すみません。あ、じゃあ『守る』の意味はわかりますか?」
「ううーっ!」

 ルフィは言葉を返せないのか歯軋りしていた。ちょっと涙目だ。弱っじゃなくてごめんね。私だってこんな全く気にしてないことを執拗に責めたくない。でも仕方ないことなの。だって『船長を煽り散らかすことによって船員からの不興を買おう作戦』決行中だから。さて作戦の効果のほどは――と周りの様子をひそかに窺う。……やめます、無駄そう。誰も彼も微笑ましそうにしているだけだった。おいゾロ!!

 期待が外れたとがっくり肩を落とし、次の作戦を脳内で練る。指先を弱々しく引っ張られた。

「冒険」
「え?」
「おれは、お前と冒険がしたい。なにができるできないとかどうでもいいんだ。お前と色んな島行って、そんですっげーもんたくさん見せてやりたい。一緒に見たい。キレイなもんもうまいもんも、楽しいことも、全部……」

 ルフィは一度言葉を区切って、グッと眉と目の幅を狭めて、目を線のようにさせた。なにかを堪えるように、固く結んだ口をもごもごと動かす。

「ぜんぶ、ナツが一緒じゃなきゃいやだ」

 みんな、私のメリットの話をしてくれてたのに、ルフィだけは自分の感情を訴えているだけだ。でもなぜかこの言葉に一番心が動かされてしまい、その事実にうっと顎を引く。

「おれの隣にいてくれ、ナツ」

 そう言ったルフィの黒い瞳がぐらりと波打ったのを見た瞬間、喉の奥がきゅうっと締められたような感覚がして、呼吸が止まった。瞳が、瞳の奥が、音もなく揺れて光って、燃えている。私を穿つルフィの目は青にも緑にも、果てには朱にも見えて、私は目が離せなくなってしまった。耳の横で、心臓がドクンと痛いほどに音を立てる。

 不意にすり、と強請るように指の腹を擦られ、そちらへ意識が向く。握られているのは人差し指たったの一本だけ。こんなの簡単に振り解けるし、なんなら握られていることすら忘れかけていた。だって込められている力も、いつもよりずっと――一ヶ月以上触れ合ってきた中で、最も弱い力加減だ。迷子になって不安がってる子どもみたいな、そんな手探りな力の入れ方。
 それなのに、私の体はピクリともしなかった。このぬくもりを拒絶する機会なんて、きっと今しかないのに。

 けれどそう分かっていても、目さえもう動かせない――ルフィ以外、見ようと思えない。

「(――ああもう、だめだこれ。むり)」

 観念した途端、体から力が抜けた。私が深く息を絞り出すと、ルフィはビクリと少し肩を上げた。

「分かりました」
「え……」
「……私を、仲間にしてください」
「〜〜〜やったー!!」

 そう言うなり、爆発したような歓声で部屋が満ちる。ルフィとナミとチョッパーが抱き着いてきて、尻もちをついてしまった。サンジが私の頭があった場所を通過して、背後の壁に衝突した音を聞きながら、もう一度溜息を吐く。

 はいはい負け負け。私の負け! どうせ懸賞金がついた時点で悟ってはいましたけど!


 
「にしても――初手“一億ベリー”たァ、なかなかやるじゃねェか」
「交換しますか」
「したら上がるぞお前」
「あ、ほんとだ。千二百万ベリーかと思った」
「喧嘩売ってんのか」

 額に青筋走らせたゾロに「買うぞ」と頭蓋を掴まれる。売ってない売ってない。絆されてしまった自分にちょっとムシャクシャしたから絡んだだけ。
 

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