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なんとなく上げていた杯に、みんなのコップが集まってくる。急に揉みくちゃにされたせいで驚いてコップ落としかけて、飲み物をめっちゃ零した。し、どさくさに紛れてめっちゃかけられた。
「ギャアッ、髪にもかかったんだけど! だれ?!」
「ししっ、おれしーらねっ」
「おれも〜」
「私も〜」
「おっおれも!」
ニヤニヤしている、絶対犯人だろという三人を睨む。チョッパーはよく分かってなさそうなのでよし。「やり返しゃいいだろ」とはゾロの言だが、そんなことできるわけない。
「故意に飲み物粗末にしたらサンジに蹴られる」
「えっ、け、蹴らねェよ……?」
「蹴るよ、サンジは私のことをレディだと思ってないから」
「なにそれどういうこと?!」
誰に吹き込まれたのと肩を揺らされる。吹き込まれたっていうか……いや……。自分で言ってたよ(言ってない)、という複雑な気持ちでアハ、と笑って濁した。
「アァッウッ……距離……! おれだけ距離を感じる……! もしや藻か、藻なのか?!」
「藻ではないかなー」
「藻で通じ合ってんじゃねェ!」
ゾロとサンジが喧嘩を始めたので距離をとる。巻き込まれるのはゴメンだ。ゾロはともかく、蹴られてしまうかもしれないので。私は初期スポであるフランキーの隣にそっと戻った。
「……あれ、背中は生身なんだ」
「おう、さすがのおれも手が届かねェからな」
「へェ……繋ぎ目痛そう」
「まァな、ってゥオエッエッ、おま、お前! そう言いながら結構強めにつつくんじゃねェ!!」
エヘ! と笑えば、いつから見てたのか、ウソップに「前から思ってたけど、お前笑えばいいと思ってる節あるよな」と言われた。うん。あるよ。そういう国だからね。そう言うと、「ワノ国には独特な文化があるのね」とロビンに感心された。ウ、ウン、ソウダヨ……。
「ナツ」
ルフィが私の名前を呼んだ途端、急にみんな静かになった。他クラスの子が私を呼びにクラスに来た、みたいな空気感が肌に刺さって居心地が悪くなる。
私が動けないでいると、腕が伸びて巻きついてきた。体が浮いて引っ張られる感覚には、とっくに慣れた。みんなのブーイングがあっという間に遠くなる。
サニーの頭の上に二人で座る。メリーにも二度ほど座ったことがあったけど、メリーより広くて安定していた。フランキー、船首がルフィの特等席って知っててそう作ったのかな。流石だと内心で舌を巻く。
座ってる場所はいつもと違うが、しかし座り方はいつものテディベア抱きだ。ルフィはなにも喋らない。海が囃し立てるようなさざ波を散らし、生暖かい風が煽るようにゆらゆらと包んできている。う、うるさい。おだまり。茶化すな。
「……ねえ、ルフィ」
「んー」
「守ってくれなくていいよ、やっぱり」
「うっ、お前、またそれ……まだ言うのかよ! そりゃおれが悪かったけど!」
「嫌味じゃなくて。あの、まあ……これからは、私がお守りしますから。その……と、隣で?」
そう言って顎を持ち上げ、後ろにいるルフィへ顔を向けた。こちらを見下ろすルフィは目を点のようにしていて、反応がない。珍しい反応だなぁと思うと同時に、それほど意外に思うことを私が言ったんだよなと少し恥ずかしくなる。
や、あの、特別な意味ではないよ。別に違う、ほんと。そういうあれではなく、あの――あれ、船員としての心構え? みたいな? この前のエニエス・ロビーを初陣としていいなら、実績は解除してるわけだし? トロフィーは持ってるわけだし??
「ね、船長」
ルフィがあんまりなにも言ってくれないので、照れ隠しついでに言葉をつけ加えてへらりと笑う。私が『船長』と言った瞬間、ルフィはぱちりと瞬きをした。
不意に頬を手で包まれ、元から上がっていた顔がさらに持ち上げられる。ルフィの存外柔らかい前髪が、サラリと降ってきて鼻先に触れて、擽ったさに目を細めた。
「? ル――」
様子のおかしい彼が不思議で、名前を呼ぼうとした。
けれど残りたった二文字は、当の本人によって蓋をされ、彼の口の中へと飲み込まれてしまった。
…………は?!
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