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 船首から降り、晩酌を続けている甲板へと戻る。「おっ」本を片手に携えて一人戻ってきた私に、フランキーがニヤニヤとしたオッサン臭いいやな笑い方をした。もっとも、いやな笑い方をしているのはフランキーだけではないけれど。

「事情はこいつらから聞いたぜ嬢ちゃん。ええ、オイ? そういうことなら船首にもっとしっかりした階段かなんかつけてやろうか? 手摺とかつけてよ。ああそれか、いっそ個室でも作るか?」
「は? 聞く? なにを? 意味がわからん。お気持ちだけでノーセンキューです」

 船首なんて落ちそうな場所、ルフィに連れて行かれなければまずそうそう近寄らない。ので、ちゃんとした階段なんて不要である。個室に至ってはお気持ちすら要らない。冷めた気持ちでぴしゃりと言いのけて、持っていた本をフランキーの鉄の胸板へと押し付ける。

「ん? こりゃルフィか?」
「そう。なんか急に寝ちゃって。私の力じゃ運べないから、本にさせてもらったの」

 簡単に説明して、空いていたコップに水を注いで一気に飲み干す。ウソップが「コイツ、そんな呑んでたか?」と言いながらおっかなびっくり本を突っついた。

 私の新しい能力については、ウォーターセブンを出たあとに全員へ説明&実践してある。本になっている間もぼんやりではあるが意識自体は一応ある、らしい。これはルフィと、それから実験台になってもらった(強制)ウソップからの体験談だ。彼らは本にされている時の感覚を、昼寝をしていて、起きようか起きまいか悩んでいる時のような感覚だと話していた。


 人を本に変える。

 言葉だけ見ればかなりチートだ。しかし実験の末、今の私では二人までしか同時に本にできないし、変えた人数に半比例して本にしていられる時間も短くなることが判明していた。回数を重ねれば重ねるほど本状態にしていられる時間も短くなり、集中が途切れてしまえば勝手に本から人に戻ってしまう。果てには頭痛や耳鳴りにも襲われ、身体が貧血時のような不調を訴えはじめる始末。おかしい。体調はともかく、エニエス・ロビーにいたときは何人も何人も――それこそ山のようにできたし、あの時は『解こう!』と思わなきゃ本から人に戻ることはなかったのに……。
 前回との差異に首を傾げる私へ、ロビンは神妙な顔で「あれは薬の効果でしょうね」と言った。薬? あー、たしかになんかいれられたなぁ。すごい便利だったんだな、あれ……。ちょっと貰ってくればよかったかも。そう呟くと肩から生えてきた手に頬をぐにぐにされた。ごめんうそ、冗談です。

「まァ元々酒に強い方でもねェしな、こいつ」
「そりゃゾロとナミに比べたら大体の人がそうでは……そういえば、ルフィって幾つなの?」
「あー……十七だっけ?」
「は?」

 なんてことない調子でそう言ったナミは、「ウソップと一緒よね?」と視線を流した。酒瓶を逆さまにして、最後の一滴までしっかりコップへ落としてから、ウソップは「おお」と顔を上げた。

「え? 一緒、ルフィ……え、ウソップ十七?」
「そうだけど……なんだよ、そんな大袈裟な」
「じゅ、いや、え、それ、え、酒……え?」
「んん?」
「……いや『ん?』じゃない!!」

 ことの重要性をまったく理解していない顔のウソップから、慌ててコップをひったくった。

「あっなにすんだ!」
「未成年飲酒?! あっこのせか、ここら辺の成人って二十じゃない……? もっと若い?」
「いや、成人年齢なんてどこ行っても変わんねえだろ」
「つ、つまり変わらず……?」
「二十だろ」
「オギャー?!」

 奪った杯をますます高くしてウソップから遠ざける。「あのなァ」顔を真っ青にさせて叫ぶ私に、フランキーが酒瓶に直接口をつけながら目を眇めた。ココロさんから過去の話とかも聞いてるのでフランキーが二十オーバーなのは確定だ。安心。

「海賊なんだから今更だろ」
「そ――れはそうですけどでもやっぱそれはそれじゃない?! ねえ――」

 誰か同じ考えの人はいないのかと首を回して、そこでちょうど煙草の火をつけようとしていたサンジと目が合う。ライターに指をかけたままギクリとしたよう硬直したサンジに、私もいやな予感がしていた。

「……サンジ、何歳?」
「…………十九」
「?!?!?!?!?!!?!!」
「いやっいやでも、マリモも俺と一緒だから! アイツも同い年だから!!」
「あっおいこら巻き込むんじゃねェ!」
「その人相で?!」
「うるせェよ!」

 反射的に口をついてしまった失礼な反応に、ゾロは歯を剥き出しにしてキレた。そりゃそう。ごめん。でもうそでしょ、強面すぎる。

「そういえば、ナミもまだ十八だったわよね」
「?!?!!!!!」
「あっヤダやめてよ!」
「チョッパーは……十五だったかしら」
「そうだぞ!」

 面白がるように言ったロビンにトドメを刺され、卒倒しそうになった。や、ま、まあ? チョッパーは……チョッパーはど、動物、動物だから人間年齢にしたら成人超えてるといってもいい……のかもしれない。いやけど、けど……! ぴょんと元気よく膝に飛び乗ってきたチョッパーをぬいぐるみのように抱き締めて、帽子に顔を寄せ、悄然とみんなを見回す。大人っぽ、いや、こうして見ると幼いかも……?! 脳が混乱していて、目が回りそうだ。

「三分の二が未成年て……いや、おい……!」

 日本人としての道徳観がギリギリ胃を締め付ける。大人としてどうしたら、いやもう今更だし新参者にそんなこと言う権利ないだろうし郷に入っては郷に従えなのかもしれないけど……けど〜?! 
 ヒィと頭を抱えてぐるぐる考え込む。二十歳未満の飲酒喫煙、ダメ絶対。それは私が生まれてからずっと付き合ってきた常識だ。そんな簡単には割り切れない。う、胃が苦しい。

「……三分の二? 九分の七じゃなくて?」
「ちょっと、ナツ、あんた幾つ?」
「二十二……」
「うそだろ?!」

 ナミからの質問に、俯いたまま答える。なんか周りが驚いている声がしたが、ちょっとスルーさせてもらった。みんな、そんな――ていうかルフィ、十七なのか……。そっか……そう……。

「(いや五つ下は俄然“ない”……!)」

 最後の記憶にあるルフィ――なぜか私より驚愕した顔をしていた彼を思い出す。パニクってつい、ルフィが何か言う前に本にしてしれっと戻ってきてしまったけど。うん、ない、やっぱり無理だな。


 ルフィのことは、元から“そういう相手”として見れないなと思っていた。もちろん人としては好きだ。頼りになるし、締める時は締める、支えがいのあるかっこいい素敵な人だと思う。主人公だし。人間としては尊敬できて、純粋に惹かれる。主人公だし。あとイケメンだとも思う。主人公だし。

 でも“そういう相手”としてはどうしても考えられない。だってなんか、なんていうか、こう――……。

「……タイプじゃないんだもん〜……」
「え、なにが?」

 だから(なぜか恐らく)向けられているであろう好意に困っていたのだけど……こうして年齢を知ったら、そういう倫理的な意味でもやっぱり無理だという思いが強くなった。

 零れてしまった本音に戸惑う周りに、気付かなかったフリをして、さっき奪ったウソップの酒を一気に飲み干した。「ああーっ!」十七歳の長鼻狙撃手から、非難の声があがる。

「おいお前! それおれのだぞ!」
「……ごめんね、ほら、新しいの開けるから……」
「お、おお……いやお前そんな『断腸の思いです』って顔で注ぐな……普通に飲みづらいわ……」

 とりあえずルフィのことは一旦置いておくとして。私は海賊になったのだ。しかも麦わらの一味になってしまった。もう今更酒ごときでグダグダ言ってられない。言ってはいけない。
 長年お付き合いしてきた自身の道徳観と縁を切るために、近くにあった空のコップに酒を注いでウソップに渡す。ウソップはドン引きしながら口をつけた。なんだよ、飲んでるじゃんか。飲みづらいとか言ったくせに……。
 

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