38
痛くなるほどの沈黙に包まれた甲板。少し視線を落とせば、三つの頭が並んでいた。水色、黒、黒。それぞれ首からカードをぶら下げている。事情を知ったナミの仕業だ。
『預かり物の貴重品を甲板へ持ち出しました』
『サメを餌に大物を釣り上げようと持ち掛けました』
『ぶつかってナツの持ってたものを海に落としました』
正座した三人は 「ごめんなさい」と力ない声を合わせて、餅みたいに腫れ上がったたんこぶ付きの頭を下げた。私は痛そうだなとか、ウソップはともかくフランキーとルフィにまでたんこぶ作れるなんてナミ怖、とか、どうでもいいことを思いながら、感慨なくそれを見下ろす。スマホを落として以降、目の前で起こっている出来事が全て他人事のようで、自分とは無関係の気分で眺めてしまっていた。
「……ね、コイツらも悪気があったわけじゃないのよ、ナツ」
「うん」
宥めすかすように困った顔をするナミに、ほとんど反射で返事をする。誰も悪くない。タイミング悪く不運が重なっただけの、不幸な事故だ。三人に――特にルフィに悪気がなかったことはちゃんと理解していた。
釣りをしていたウソップに当然非はないし、魚と一緒に飛んできたルフィだって私を守ろうとしてくれただけ。
だから今回の件をあえて誰かの責任とするならば、それに該当するのは私自身に他ならないのだ。
もうなにもかも私が悪い。
フランキーにろくな説明をしなかった。大事なものだということを伝えなかった。この世でもう二つとしてない、代わりなんてないものだということを、ちゃんと言わなかった。
「悪かったな、ナツ。開発室まで呼べァよかったよな……」
「ううん、いいの」
「……そういえばお前、俺が拾った時もずっとあれ握り締めてたよな。大事なモンだったのか?」
「大事っていうか、まあ、故郷のものかな」
「おれは初めて見たな。落ちる瞬間しか見てねェけど……結局あれ、なんだったんだ?」
「平たくいえばカメラかなぁ」
口がひとりでに動き、三人の問いを次々答えていく。淡々とした自分の声はどこか上滑りしているように聞こえた。ずっと静観していたゾロがため息まじりで肩を竦める。
「遅かれ早かれ、ワノ国にゃいずれ行くんだ。その時になったらこいつらに新しいの買わせてやれよ」
言葉の意味がうまく飲み込めず、これまで勝手に淀みなく受け答えしてくれていた口が止まってしまった。頭の中でゾロの言葉を反芻する。ワノ国で新しいのって、いや……。
「(そもそも『ワノ国』に行ったって、もうあれは――)」
――違う、そうだ。そもそも私が、嘘なんてつくから。
ゾロを見遣れば、“くだらない”と言わんばかりの、呆れ気味な雰囲気をしていた。まあそうだろうな、彼――彼らにとっては、こんなのくだらないことだろう。……ああ違う、私にとってもくだらないことだった。だってたかがスマホを失くしてしまったというだけなんだ。しかももう使えなかったもの。大騒ぎするほどのことではない。
私の視線に気付いたゾロが顔を上げる。彼はなぜかギョッとした顔をした。
「お、おい」
「ナツ……」
チョッパーからの小さな呼び声が控えめに耳朶を打つ。視線を流せば、最年少からは今にも溶けてしまいそうな瞳を向けられていて、ハッとした。
上で見張りをしていたはずのサンジも、船の中にいたはずのロビンもいつの間にか甲板へ集まってきていて、二人からの気遣わしげな眼差しにまた息が詰まる。ああしまった、変な空気を作っている。せっかくみんな和やかに楽しく過ごしてたのに。罪悪感と焦りに駆られ、私は急いで口角を上げた。
「事故だし、落ちちゃったものはもうしょうがないよ。私は別に気にしてないから、みんなも気にしないで!」
「そ、そうは言っても、いやお前……」
「いいから、ほんとに。……あれ、ねえ、あそこに見えるのって島じゃない?」
「えっ?!」
なんとなく海を見れば遠くに影があった。私の言葉にみんなが驚き、ナミやウソップが手摺へ飛びついて身を乗り出す。ナミの手首にあるログはまだ下――魚人島を指しているし、たまたま航路にあった島らしい。
「……どうする、ルフィ?」
先程から黙っている船長へ、ナミが指示を仰いだ。
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