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空島の時と同じように、島に立ち寄って魚人島についての情報収集を行うことになった。同じようにとは言っても、ジャヤでは私ほとんど寝てたんだけどね……。う、お荷物ちゃん……。思い出して一瞬捻れた胃の痛みをなんとか振り払い、気持ちを修正する。いや、私だってこれを機に脱お荷物するのだ。仲間になると決めたからには、色々腹を括らなければ。
「なあナツ――」
「サンジ、もしよければちょっと着いてきてくれないかな?」
「えっおれ?! ンもちろん喜んでェ!!」
「ぐっ、じゃ、じゃあおれも一緒に――」
「来ないで」
あ、やば。
言い放った途端に甲板がシンとなり、ルフィが凍りつく。私は私で、自分で思っていたよりもずっと冷たい声がでてしまったのでぎくりとしていた。これじゃあまるで、さっきのことを怒ってるみたいだ。ていうか普通にすごく感じ悪い。失態を打ち消すために、すぐさま明るく笑ってみせる。
「ほら、私ってこれまでなんか色々あってまともに島を見て回れてないでしょ? だから今回くらいちゃんと冒険というか、観光したいんだよね。せっかくだし」
「お、おう……?」
「でもただでさえ賞金首になっちゃったのに、いつも元気でわんぱくすぎるくらいわんぱくなルフィが一緒にいたら、もうさらに色々と目立っちゃいそうじゃない?」
「おー……?」
笑顔でペラペラ理由を説明していく。我ながらよく舌が回るものだ。気分は押し売りセールスだった。「んん、つまり……?」ルフィはまだよく分からなそうに、首を長く伸ばして傾げた。
「つまり、邪魔ってことね」
「ウアッ!」
要するにそういうことだ。
ロビンがしてくれた身も蓋もない要約によって、やっとルフィも察してくれた。腰まで伸びていた頭部がガンと甲板の床に落ちる。まあ一応私はオブラートに包んだので……。とりあえず今のうちにと、私はサンジの腕を引いて船から急いで降りた。
街の港では、多くの漁船や商船に紛れて、ちらほらと海賊旗も揺れていた。それに伴い街中にも、明らかにガラの悪そうというか物騒な成りの輩も数多く。しかし街の人達は怯えた素振りなどは見せず、至って普通に過ごしていた。交易が盛んみたいだし、海賊の存在にも慣れているのだろう。街全体の雰囲気は、ウォーターセブンにかなり似ていた。もちろんあの町に比べたら陸感はかなり強いけど。
そんな賑わっている街を歩きながら、サンジが奢ってくれた黒イチジクと木苺のクレープを片手に、今回連れ出したワケを説明する。最初はニコニコ聞いてくれていたサンジだったが、その顔は聞くにつれてどんどん曇っていき、最終的には紙のように真っ白になった。
「いや、いやそんな……そりゃ、おれを選んでくれたことは光栄に思う! 史上の喜びだとも! でもおれにゃ、そんな……!」
「だめかな……受講料はもちろん払うつもりなんだけど」
「そういう問題じゃなく!!」
「お金じゃだめってこと? でも私が渡せるものってもうなにもないしなぁ……食事のお手伝いとかしてもいいなら全然やるけど」
「そういう問題でもなく!! いくらナツちゃんの頼みでもレディを蹴るなんて、おれにはとてもできねェって話!」
サンジが必死な形相で言い募る。私はクレープの最後の一欠片を口へ放り込み、包装をクルクル畳みながら目を眇めた。
「いやでも、サンジは私をレディだと思ってないんだよね?」
「その誤解を解かせてほしい、切実に。おれはいつきみにそんなことを思わせてしまったんだ……」
「さあ、なんでだっけ……忘れた。それよりゴミ箱どっかにないかな」
「それよりって……」
項垂れながらも、サンジは「ゴミなら預かるよ」と手を差し出してきた。いやそれはさすがにと遠慮して、街中をきょろきょろ見回す。何気なく通りがかった路地裏を覗き込めば、少し道を進んだ辺りにゴミ箱がひっそりと二つ並んでいた。
「これ使っていいやつかな」
「多分構わねェと……」
サンジが言葉を不自然に切って、頭上を見上げる。鋭い視線を後方、そして私の背後にも向けた。何事かと聞く前に、サンジの肩越しに映った視界で事情を悟る。彼の後ろでは、黒スーツの男たちが退路を塞ぐように路地へとぞろぞろと入ってくるところだった。少なくとも十人はいるだろう。 ……と、いうことは。怖々自分の後ろを確認する。私の背後にも同じくらいの人数の男たちが控えていた。上見てたってことは上にもいるんだろう。ひぃ、囲まれてる。サンジが落ち着き払った様子で、フーっと煙を吐き出した。場馴れ感がすごい。
「何の用だテメーら」
「麦わらの一味、“災厄の翻訳家”のナツだな?」
「……賞金稼ぎ、かな?」
聞いてみたが、男たちはニヤニヤしているだけで答えなかった。
「一億の首の女が、護衛もつけずに街の男ひっかけてデートたァ、随分余裕だなァ?」
「ばっかお前デートって! よく分かってんじゃねェか」
「街の男……?」
ガラの悪いお兄さんの言葉に首を傾げる。なんでサンジがこの街の人認定されてるんだろう。少し考えて「あ」と呟いた。
「もしかして、あの手配書と今のサンジ、イコールになってないのかな」
「な、なにっ?!」
「よかったね」
「よくなァアァい! いやいっ、う、ぐ……クソっ、ナツちゃんとの楽しい逢瀬を邪魔した上に舐めやがって……!」
狙われないのいいじゃんと思ったが、サンジ的にはだめらしい。怒りで震えるサンジに男たちもちょっと戸惑っていたが、すぐに気を取り直して武器を構えた。
「平和を乱すやつは排除だ!」
「海軍に突き出してやる!」
「待ってください、私たちは別になにも――」
なるべく穏便に、と思ったのに言い切る前に雄叫びを上げた男たちが走ってくる。聞いちゃいねぇ。一億がそんなに欲しいか。分かる、私も欲しい。
さてどうするべきかと思いあぐねていれば、「大丈夫」と背後でサンジが言った。
「きみのことはおれが絶対に守るから、安心して」
「えっ」
そう言うなりサンジは高く飛び上がり、「デートって分かってんなら邪魔すんじゃねェ!」と叫んで敵の中へと突っ込んでいった。サンジは重力を感じさせない動きで縦横無尽に空を駆けて、周囲の敵を満遍なく蹴散らしていく。次から次へと宙を舞う男たち。すごい、シンプルにこわい光景だ。目の前で繰り広げられる地獄絵図みたいな景色に圧倒されて、戦場だというのについぼうっとしてしまう。あと今更だけどデートではないです。
「“首肉シュート”!」
「(船のコックさんなのに肉の技ばっかりだな……)あっ」
他対一でも十分余裕そうではあったが、さすがに意識がいかないこともあるらしい。サンジからちょうど死角になる位置で、一人の男が剣を振りかざしている。私は急いでそちらへ走り、手を伸ばして男の背に触れて男を本へと変えた。急に姿を消した男に、周囲の敵が動揺と警戒でざわめきだす。
「き、消えたぞ?!」
「おい、なにをした!」
「仲間を返せ!」
「はいどうぞ」
斬りかかってきた敵の前へ本を突き出し、能力を解除する。人型に戻った瞬間、わけも分からぬうちに肉壁にされた男は悲鳴をあげて地面に倒れ、悶絶した。
「ナツちゃん、今のは……」
「あの、このくらいの自衛……とアシストなら、一応できる……と思う」
一瞬本にするくらいなら体への負担もほぼないし、近距離戦なら多少は。
早口で補足しながらもう一度近場の敵で実演してみせると、目を丸くしていたサンジは「さすが」と口角を上げてくれた。その反応にちょっとホッとする。これで多少は役に――は、立たないというか基本私のアシストなんてサンジには不要だろうが、でも少なくともめちゃくちゃ足手まといにはならない、はず。よーし、やるぞ! 私は意気込んで腕まくりをした。
しかしそうして戦闘に参戦したはいいものの。
参加した時点で敵は半分以上倒れていたし、その後もほとんどサンジが片付けてくれた。大体三十人ほどいたが、私がやったのは内五人程度。わ、私を狙ってきた人達だったのに、サンジに押し付けてしまった。う、申し訳ない……。
「なーんだ!」
敵を山にして、パンパンと手を払ったサンジが私へ向けてにっこりとする。
「修行なんて必要ないじゃないか」
「今回はサンジがいたからだよ……」
加えて、どうにも敵が私と同じくらい動けないタイプだった。だから私のド素人丸出しのわたわたな身のこなしでもなんとかなったのだ。集団で現れたわりには、統率の全く取れていないグダグダの賞金稼ぎさん達だった。
「相手に触ること前提の能力なのに、本体である私が体術できるとかそういうわけでもないのって、ちょっと致命的じゃない?」
「んー……いや、うーん……」
肯定しづらいのか返事を濁されたが、サンジの声は『まあそれはそうかも』の響きをしていた。押せばいける気がして、私は「お願い!」とパンと手を合わせて彼へ詰め寄った。
「だからサンジに修行をつけてもらいたいの」
本日二度目となる言葉に、サンジは困ったように「いやぁ……」と目を泳がせた。さっきは現状を知らなかったから断られそうになってしまったが、私の動きを目の当たりにして危機感を覚えてくれたのだろう。サンジの顔には分かりやすく葛藤が浮かんでいた。
「それに今のままだといまいち効率も良くないし、遠距離戦にも対応できるように能力が使えたらいいんだけど」
「おれは能力者じゃねェからなァ……そこら辺の助言ならやっぱりロビンちゃんやチョッパーが――」
「――な、なんだァ、これは?!」
路地裏の壁に備え付けてあった扉がガチャリと開き、驚愕したような声が響く。声を上げたのは、エプロンを身につけた、背の低い小太りの男性だった。厨房かどこかに繋がっているのか、魚介類を煮込んだようないい匂いが土煙や鉄で充満していた空間へ漂ってくる。
「ああ、悪ィ。騒がしかったか?」
同職っぽい人だからか、サンジが気遣うように話しかける。が、男性はそれを無視してよたよたと黒スーツの山へと近付いた。
「こ、こいつらをノしちまったのはお前らか?」
「まあそうだ。色々あってな」
「な、な、なんてことしてくれる! うちで雇ってる従業員だったんだぞ!」
「えっ?」
サンジと声を揃えて固まる。差し向けた犯人か? とならなかったのは、そう叫んだ男性が半泣きだったからだ。男性が髪の少ない頭をガシガシと掻き毟った。
なんでも、この男性は店のオーナー兼コックで。今日はずっと念願にしていたバルのオープン記念日で。今気絶している男たちは全員店の用心棒やウェイターさんで。
つまり、この男性たちは賞金稼ぎなどでは決してなかったということだった。
「どうしてくれるんだよゥ……黒服一人いないんじゃ店なんて回せねェよ……」
「で、でもよ、元はと言えばそいつらがいきなり喧嘩を……!」
「そりゃあアンタらが海賊だからだろ?! ああ、そういや最近見たぜ、お嬢さんの手配書! いち、一億って! こいつらは用心棒も兼任してたんだ、そんな大物が現れりゃ、店のために警戒だってするさ!」
だったら話くらい聞いてくれればよかったのに! と思ったけれど、捲し立てられて勢いに押されてしまう。なによりボロボロ泣いてるんだもん、大の大人が……。
「もうダメだ、終わりだ……せっかく、十年以上かけてやっと手に入れた一等地だったのに……初日から営業できねェなんて……」
服が汚れるのも気にせず蹲る男性に、途方に暮れてサンジと顔を見合わせた。サンジも罪悪感でいっぱいの顔をして汗をダラダラ流している。しばらく目で相談しあってから、私は小さな背中にそっと声をかけた。
「あの……もしよければ――」
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