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「バルで働かせてほしいィ?!」
「すみません……」

 船に戻った私とサンジは、二人でみんなに頭を下げていた。「島行って三十分でなにしてんだ!」「魚人島はどうすんだよ!」といった非難の声が耳に痛い。う、だって、だって! あんなふうに目の前で悲壮感丸出しにされたらうっかり口も滑ってしまうというものだろう。例えば『代わりに少し入りますよ』……とか。なにより原因は私なのだから、尚更お口がツルツルしてしまう。しょうがないじゃん!

「この島のログは一週間でたまるらしい。だから頼む、六日間だけ働かせてくれ!」
「私も七日目の明け方にはサンジと一緒に船に戻るから!」
「待って、『私も』ってどういうこと?」
「あ、私は店二階の部屋が一つ余ってるから、そこ使ってもいいよって言ってもらえてて」

 せっかくだからお言葉に甘えようと思ってる。
 そう伝えると、ナミは「そ、そうなの」と少し戸惑ったような、腑に落ちないといったような顔をした。
 オーナーは代理を申し出ると、いたく感動してまたわんわん泣いて喜び、『あんたら神様か?!』と大感謝してきた。いや元凶なんですけどね。

「分かった、いいぞ」

 船員たちの反応は芳しくなかったが、しかし船長であるルフィからはあっさり許可がおりて、私もサンジもホッと息を吐いた。助かった、誰がなんと言おうと、もうこれで決まりだ。「なんて店なんだ?」ニコニコと尋ねられ、口を開く。

「バル・ジパングって名前のお店」


 店名は、バル・ジパング。
 小太りで前髪が撤退しつつある、タヌキに似た顔の店のオーナーは、『コルン』と名乗った。

 ――「それじゃあ、これからよろしくな、お二人さん」

 そう言って笑うオーナーコルンの口元には、金歯がキラリと光っていた。
 



 十年来の夢だったと言っていただけあって、店はかなり広かった。たった二人で広いホールを回すのはいくらなんでも無茶だ。とても現実的ではない。オーナーもそう思ったらしく、私とサンジの他にも何人か臨時バイトを雇ってくれた。それでもやっぱり相当はりきって宣伝していたらしく、店は開店から閉店まで一度として人が途切れずの大盛況だった。

「……じゃ、おれはまた昼過ぎになったら来るから……」
「うん、おつかれ……」

 営業時間は午後五時から明け方の四時まで。後片付けや清掃の時間を含めると五時までかかる。今から帰るとか、絶対無理。もう一歩も動けない。朝の街をヘロヘロで歩いていくサンジの後ろ姿を見送る。これで昼過ぎにはまた戻って仕込みの手伝いでしょ? うーわ、しんど……。

 一応、「同じ部屋使わない?」と提案はしていた。どうせ数時間寝るだけの部屋だし、お互い共同生活には慣れているから部屋に他人がいて寝れないなんてことはないだろう。わざわざ往復するのなんて手間だろうし。
 と思ったのだが、オーナーはなぜか歯切れ悪く渋るし、サンジにも真顔で「その気持ちは本当にすごく心から嬉しいけど」と丁重にお断りされた。

 賄いは全部、どれだけ食べてもタダ。いやもちろんそんなにたくさんは食べなかったけどね。でもオーナーがそう言ってくれたのだ。夕食のパエリア、とっても美味しかった。照れくさそうにするオーナーの後ろでサンジが歯軋りしてて怖かったけど。
 しかしそんな旨みがあるとはいえ、この生活を六連勤。さすがにきっつい。正気? 飲食バイトをやってた事はあるけど、これはちょっとブラック過ぎない? 国が、いや世界が違えば法も違うということだろうか。いやでも飲酒喫煙の年齢……深く考えるのはやめよう。

 ふかふかのベッドに寝転がり、青い薄明が覗く窓の外を眺める。安請け合いしたことを早くも少し後悔してしまっていた。……が、まあ。

「一人の時間が確保できるのは、ありがたいかな……」

 この世界に来てから、ほとんど四六時中誰かと一緒だったし。今は特に、あまり人と関わりたくない気分だった。……なんとなくだけどね。特に理由はないんだけど。いや、スマホのこと気にしてるとかじゃ全然ないけど!!

 なんて誰も聞いてないのに必死で言い訳を並べる自分が馬鹿らしくなって、私は一人きりの部屋へ深い溜息を回した。
 

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