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 夕食後、ヨミヨミの実の能力と話を聞いていたら――ブルックのアフロって地毛だったの?! と驚愕したら「驚くところが違うだろ……」とみんなに引かれた。いやだって、被り物だと思ってたんだもん。骸骨に毛根が残るとは普通思わないじゃん!――、船にゴーストが乗り込んできた。もう絵に書いたようなゴーストだった。ちょっとかわいい。

 ブルックが言うには、三角地帯に入る前に拾った『流し樽』の赤い閃光弾のせいで、この船は“ゴースト島”の監視下に入り、標的になってしまったらしい。

「あなた方は今すぐ後ろにそびえる門を何とか突き破り脱出して下さい! 絶対に海岸で錨など下ろしてはいけません!」

 ブルックはこの島にずっと来たかったらしい。話しぶりから察するに、ブルックの影がないのも、この島が深く関係しているようだ。


 つまり、次の物語の舞台はここ、“スリラーバーク”にもう決定だろう。

「(……おばけと戦うの?)」

 手摺に組んだ肘を置いて、遠くに見えるおどろおどろしい陰気な島を眺める。島の真ん中には、大きなお城のような建物が霧を纏って佇んでいた。
 うーん、さっきのゴーストもどうせ悪魔の実なんだろうけど……なんだろ、ゴスゴスの実とか? いやだっさいな。そもそも物理技効かない相手とどうやって戦うんだろ。いや、これがお話に組み込まれてるなら他の能力者もいるか。

「ていうか一生忘れないって言ってたけど、寿命あるのかな、あの人」
「ロビンにまで似てくんな。手に負えねェだろ」

 視界の端で絞め技をかけられているゾロを無視して、海上を駆けて小さくなっていくアフロを見つめる。骨だから軽いので海も走れるって? ハハ、走れてたまるか。

「(ほーんと、なんでもありだな、この海)」
「ねえっ、ナツは行かないわよね?! 船に残るでしょ?」
「え、んー……どっちでも――」
「行くぞ!」

 申し訳ないけど、あんまり楽しそうな島には見えない。ジメジメしてるし虫とかいそうでイヤ……。という気持ちで必死な形相のナミに返事をしようとした。が、私より先にルフィが答える。

「な、行くよな、ナツ」
「……まあ、船長が言うなら」

 虫取り網を片手にしたルフィに満面の笑みで聞かれ、つい頷いてしまった。いやほら、お守りしますって言っちゃったしね? 

「でもルフィ、虫取り網じゃゴーストは捕まえられないと思うよ」
「たしかに!」

 壁をすり抜けてたんだし。そう指摘すると、ルフィはハッとして、同じく上陸組であるフランキーの所へ駆けていった。「すり抜けねェ捕獲道具作ってくれ!」「むちゃくちゃだなオイ!」二人の掛け合いを見ていれば、ナミからの恨みがましげな視線に気が付く。

「……あんた、ルフィに似てきたわね」
「ねえやっぱそれ褒めてないよね?」



 ミニメリー号の試し乗りをしていた残留組のナミ、ウソップ、チョッパーの遠くからの叫び声に、船の空気がピリッと引き締まる。目を細めて様子を伺おうにも、霧でなにも見えない。

「またゴーストに会っちゃったのかな?」
「それともゴーストに呪い殺されたのかしら……」
「演技悪ィ事言うヒマあったら船を近付けるぞ」

 ゾロが言った直後、急に錨がひとりでに下りて、ドボンと飛沫をあげて海へ沈む。船が大きく揺れ、地面が傾いた。船は造ったばかりだし、フランキーはこまめに点検しているから歯車が緩んだりするわけないのに。みんなが動揺する中、今度は勝手にハッチが開く。

「誰か触ったか?!」
「いや……誰も近づいてやしねェ」
「いったいなに――……なにしてんの、ルフィ?」

 困惑していたのに、ルフィがほっぺをぐいーんと伸ばしていたせいで気が抜けてしまった。かと思ったらいきなり転ぶし。なにしてるんだ、あの人。

 なんて呆れていられたのも、それまでだった。ゾロの刀が倒れたルフィに向かって飛んでいったことで、再び緊張が走る。フランキーがルフィを蹴り飛ばしたから事なきを得たけど、下手したら大怪我をしていた可能性もある。

「おれ達以外に……この甲板に何かいるって事か……?!」
「誰かに触られた感覚はあったぞ」
「ならゴーストではなさそう……?」
「さっき猛獣の唸り声を聞いたわ」

 透明の猛獣? なんだかしっくり来ない。ただの猛獣なら知能が高すぎない? 錨を下ろしたりゾロの刀を抜き取ったり……。

「ほげーっ!」

 サンジの叫びにハッと顔を上げる。飛び出そうとしたのにどうしてか船縁に顔をぶつけることになったサンジが、足首を掴まれたようにふよふよと浮き上がってくる。ある程度の高さまで浮き上がると、サンジはなにかに投げ飛ばされたように船に戻された。

「サンジをああいうふうに持ち上げて投げれるってことはかなり背が高い……人……?」
「そうね、四足歩行の生き物ではなさそう」
「冷静かお前ら!」

 サル的な生き物なのかも――。

「あっ……?!」
「どうしたナツ?!」
「わかん、な……なにかが、体を掴んでて……ヒッ?!」

 丸太のように分厚い腕が、後ろから肩と腹に回っていて、両腕を動かせないような体勢で抱き締められていた。肩に回った腕にぐっと力が込められ、上半身が勝手に前へと反り返る。耳元で獣特有の荒い呼吸がして、生暖かくざらりとしたものがべろりとうなじを舐めた。その感覚に、嫌悪感で胃が跳ねるような悪寒が走り、意思に反して声が飛び出る。

「くそっ、オイ! 離せよ!!」
「待てルフィ、闇雲に殴んな! ナツに当たったらどうする!」
「っ……!」
「ぬっ?!」

 なんとか手首を捻って指先を伸ばせば、ゴツゴツしたものに触れた。能力を込めれば一冊の本が落ちる。それと同時に、全身の締め付けが緩んで拘束が外された。甲板に放り投げられながら、落ちた本を手に取る。

「……バズーカ?」

 ていうか今『ぬっ』っつったな。人間? でも肩に食い込む爪の感じは明らかにヒトのそれではなかった。

 鳥肌の残る体を擦りながら辺りを見回す。今度はロビンが襲われていたが、ロビンは手をいくつも使って抵抗していた。わあ、便利。ロビンの能力の使い方本当に上手……。感心しながら、ロビンにのしかかっている透明人間猛獣へ手を伸ばす。しかし触れられそうという直前で消えてしまった。さっき本にしたバズーカも回収されてしまったのか、消えている。くそ、肌身離さず抱えてればよかった。……そしたらまさぐられて奪われるかな。じゃあ放置しててよかったかも。

「ごめんね、間に合わなかった……大丈夫?」
「ええ、なんとか。ナツ、肩のとこ破れてるわ」
「爪がエグかったみたいだね、アレ。舐められて不快だったな……」
「軽くシャワーでも浴びてきましょうか」
「おい、雑談は後にしろ!」

 ゾロに叱責されてそれぞれ持ち場につくも、時すでに遅しだった。塀の中で不自然な海流が起こっていて、為す術もなく船が流されていく。今更錨を上げてももう遅く、サニー号はあっという間に『スリラーバーク』という看板の掲げられた島の入口まで漂着してしまった。
 

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