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 意識を取り戻した頃には、船はもうスリラーバークを出発して数日が経過していた。

「覚えてねェのか?! なにも?!」
「うーん、ごめんね」

 私はなにも覚えてないということで押し通すことにした。だって教えたってなんの意味もない。全てはこうして済んだことなんだから。
 サニー号の病室。清潔なベッドに枕を背もたれにして起き上がり、一味の面々に囲まれる中、いけしゃあしゃあと上辺だけの謝罪を口にして白々しく眉を下げて笑う。怪我人だからかみんなもそれ以上は強く出てこれないらしく、彼らは困ったように顔を見合せた。

「それよりブルックさん、仲間になってくれたんだね。よかった、嬉しいです」
「ヨホホ、私もあなた達と旅を共にすることができて嬉しいですよ」

 ブルックはひょいと軽くシルクハットを――被ってたことに今気付いた。完全にアフロと同化してた……――持ち上げ、流麗な仕草で一礼した。「新参者なので、どうぞ気兼ねなく接して頂けると助かります」あ、敬語外せって? う、うーん。でもめちゃくちゃ目上の方ですし……私は台詞の意図に気付いてないふりをして、笑顔で誤魔化した。

「……あっせっかくなのでパンツ見せて貰ってもよろしいですか?」
「無理です」
「怪我人にセクハラすんなァ!」

 サンジによって壁にめり込んだブルックを見て、チョッパーが回る椅子の上で「診察室で暴れるなよ!」とぷんぷんしている。船医さん、そこなの? 怪我人増やすな、とかでなく? ブルック、この数日でかなりみんなと打ち解けたんだな、すごい。あとちょくちょく気になってたんだが、骨なのに怪我して大丈夫なんだろうか。治るの……というかそもそも痛覚とかあるのか?

「――ナツ」

 船長の声を呼び水に、糸がピンと張ったような空気が診察室を漂う。反射的に声の方を見て、私はひどく後悔した。血の温度が数度一気に下がったような、薄ら寒さが全身を這う。

「お前、おれを守るって前に言ってたよな」
「……うん」
「じゃあその傷は、おれを守ってできたんじゃないのか」

 覚えてないともう一度言えばいい。嘘をつけばいいのだ。証拠はないんだから、バレやしない。

 しかし真っ直ぐ突き刺さるルフィの静謐な眼差しに、さっき立てたばかりの意思が、簡単に揺らいでいく。ルフィの瞳に特別な色はない。ただの事実確認というような、平坦な相貌をしている。
 けれどどうしてか『嘘をついてはいけない』という気持ちにさせられ、緊張で乾いた唇が勝手に細かく戦慄いた。見つめられれば見つめられるほどに後ろめたさが募り、不誠実さを責められているような感覚になり、罪悪感がじくじくと神経を苛んでいく。ルフィと目を合わすことが出来なくなって、私は視線を顔ごと手元へと逃がしてしまった。そうして逃した先で自身の指が震えていたことに気が付くので、もう救いようがない。

「……きかない、で」

 張り付いた喉から、そんな返事にもならない音をたどたどしく絞り出す。重苦しい沈黙が包帯に覆われてない僅かな肌を刺し、喉をきつく締めた。

 真実を答えられない。でも嘘はつけない。
 だから――言いたくないから、聞かないで。
 こんなの、子どもの駄々だ。それに結局なにかあったって言ってるようなものだとは分かっている。でもこれ以上の返事が、今の私には思いつかなかった。

「……分かった」

 ガタンと椅子が揺れる。「おい、ルフィ!」ウソップの呼びかけに声は返らず、代わりに診察室の扉が閉じられる音が響いた。
 

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