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ルフィのお兄さんのビブルカードが燃え尽きかけているらしい。ビブルカードは生命力に依存しているから、つまり明確な命の危機だ。なにか……それこそ海軍に捕まってしまったのかもしれない。えっ助けに行かなくていいの? ポートガス・D・エースなら私も知っている。囚人の記憶で読んだことがあった。たしか四皇白ひげの部下? とかだった気がする。四皇の部下ならそれ相応の刑が下るはずだろう。最悪死刑も有り得る。というか可能性としては一番高くない? 海賊の人権ないし、地味に中世みたいな世界観だし、この世界。なんか鎖国とかやってる国もあるらしいですけど。
しかし私が寝てる間に、『エースにはエースの冒険がある』ということで綺麗に話がまとまったらしく、オロオロしているのはもう私だけだった。なにその結論……でたよ、という気持ちである。でたよ、海賊理論。それ、いまいち飲み込めないんだよね。私が異世界人だからなのかな。ここばかりは別に溶け込めなくてもいいかなと思う。
「ルフィ」
まあとにかく、そんな理屈では納得がいかないので、私はルフィに直談判することにした。数日ぶりの会話がこれって、仲直りの幸先としては宜しくない気がするが。
船首へ登り、胡座をかいてただ海を見つめている赤い背中へと声をかける。私の存在には気が付いていたのか、驚いたりはしない。……こちらを振り向いたりも、してくれないけれど。
「お兄さんのこと、本当にいいの?」
「いい」
「……シャボンディ諸島と海軍本部はすごく近いよ」
ついでじゃんか軽く寄ってこうよ。いやそんなショッピング感覚で行くところではないけど。「いいって」ルフィの声に抑揚はなく、話しかけてほしくなさそうな雰囲気を感じた。そんな態度をルフィに取られたのは初めてだったので、臆して言葉に詰まってしまった。
「で……でも、ビブルカードも燃え尽きそうって聞いたよ。あれ、生命力と連動してるって……」
「……」
「ルフィの兄弟……家族なんでしょ」
「……」
「……大事な人なんでしょう」
ルフィはうんともすんとも言わないし、ぴくりとも動かない。風も吹いていないから、麦わら帽子の下から覗く襟足が揺れることもない。波の音も心なしか静まっていて、突然時間が止まってしまったような感覚にすらなる。
「……ねえ、なにか言ってよ」
視線が合わないせいで、返事がないだけなのに声が届いているかさえ分からなくて怖くなる。手を伸ばせば届く距離にあるはずの背中がやけに遠く見えた。あの時は――つい数日前は、ルフィの目からあんなに逃げたいと思っていたのに。今は見えないことが不安でしょうがなく、私は心細さから胸元を握りしめた。
不意にルフィがゆるりと動いて緩慢に空気を揺らした。しかしやっと交錯した瞳にホッとしたのも束の間。
「――お前はなにも言わないくせに」
頭をガツンと煉瓦で殴られたような衝撃に襲われ、息が止まった。
『あの話』は、ルフィの中ではまだ終わってなかったんだ。いや、そりゃそうだ。あっちからしたら、意味わからん返答で強引にはぐらかされたようなものだ。終われるはずない。
「ぁ……」
「……」
こちらに向けられたルフィの顔に批難の色はない。なんならこれといった感情は浮かんでいなかった。しかしむしろそれが恐ろしかった。
なにか――どうにか弁明しなきゃと、固まった筋肉を無理やり動かして口を開く。しかし焦れば焦るほど頭が白くなっていき、思考が纏まらなくなる。はくはくと動くだけで声は出ず、どころか呼吸もまともにできなくなってしまった。
無様を晒す私を口を噤んで観察していたルフィが、不意に息を吐きだす。その吐息に『諦め』がありありと含まれていたのが分かってしまって、ヒュッと喉が引き攣った。
「……エースのことはいい。船長のおれがそう決めたんだから、お前も納得しろよ」
瞳を足元へ落として吐き捨てるようにそう言うと、ルフィは帽子を深く被り、私の横を通り過ぎて、甲板へと降りていった。
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