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眠れるわけなくない?
ルフィの身内が――血は繋がってないのかな? レイリーさんの話しぶり的に……ていうかなんでレイリーさんがそんなこと知ってるんだろう――処刑されるかもしれない。ルフィが家族を永遠に喪うかもしらない。くまによってそれぞれ遠くに飛ばされてしまった――海軍大将から逃がしてもらったと言うべきか――から、全員間に合うかは分からない。しかし少なくとも、私ならマリンフォードは目と鼻の先だ。それなのになにもせずに寝てるなんて……。
薄暗い部屋の中、ベッドに横になったまま悶々とする。いつの間にかカーテンの下から薄ぼんやりとした光が射し込んできていて、もう朝になってしまったのだと分かった。どうしよう、一睡もできなかった。絶対今日中にどうにか抜け出すとは決めているけど、少しは寝た方が――。
コンコンとノック音がして心臓が飛び跳ねた。だ、だれ。まだ明け方でしょ多分。レイリーさんか? 様子を見に来た? とりあえず寝たフリをして様子を見ようと布団を鼻まで引き上げる。
ギイと扉が引かれ、廊下から差し込んだオレンジ色の明かりで部屋が少し明るくなった。瞼越しにそれを感じながら、室内に入り込んできたシャッキーさんの煙草の香りを嗅ぎとる。
「ナツちゃん」
「……」
「起きてるでしょ」
謳うような囁きに、なんとなく誤魔化さなくてもいい気がした。瞼を持ち上げれば、扉口で腕を組んで凭れていたシャッキーさんは、「おいで」と手をちょいちょいして手招きした。
「はいこれ、あなたの服」
「えっ……」
私を別室に連れていくと、シャッキーさんは大きな横長の紙袋を渡してきた。
「さすがに寝間着じゃ戦いになんて行けないでしょ」
「……いいんですか」
この問いには二つの意味がかかっていた。この服を借りていいのかという意味と、私の蛮勇を助長させるような真似をしていいのか、という意味だ。あなたのパートナーはばりばり反対してましたけど。しかしどちらの意図にも気付いているだろうに、彼女は「どうぞ」と揶揄うように肩を竦めた。
止めないのなら私は行く。まあ止められたって行くつもりだったが。
とにかくそんな決意の元、私はキッと眉根を険しく寄せて、紙袋の中身を広げていった。
のだけれど。
「な、なんですか、この服」
「あら、かわいー」
「かわいすぎるでしょ」
そりゃあ寝間着じゃ行けないけども、だからってこんな可愛い服でも行けないだろ。髪飾りにピアスまで……可愛いけど、いや戦場だぞ。しかもタグついてるってことはおろしたてじゃん。それになにその『初見です』みたいな反応……。
「あなたの服だって言わなかった?」
「……あの、それどういう意味です?」
「言葉通り。それは私が預かっていた、モンキーちゃんがあなたに買った服」
「な、何を言って」
ここにいないはずのルフィの名前に当惑したが、すぐにピンと来た。そういえばルフィ、シャッキーさんになにか渡していたような。
「コーティングが終わって落ち合う日に持ってきてくれって頼まれてたの。逃げ回ってる間に汚したりしちゃうかもしれないからって」
「そ、そうなんですか……」
こういう時のニヤニヤ笑いって、誰にされても居心地悪いな……。「ほら、早く着てみせて」急かされたので渋々並べた一式を手に取っていく。
「……着ました、けど」
シャッキーさんは上から下まで二巡ほどして、ほう、と感心したように息を吐いた。
「本当に好きなのね」
「いいえ?!?!?!!!」
「モンキーちゃん、あなたのこと」
「あ、そっち……」
一気に脱力したが、「あら、これは否定しないのね」と言われカッと顔が熱くなる。う、うお、しまった、油断してた。熱を持つ頬を隠すように俯き、意味もなくうなじを触る。
「さ、さあ……知らないです、どうなんですかね」
「んふ、かーわい……好きよ、きっと。大好きだわ、あなたのこと」
「……でももう嫌われたかもしれない。喧嘩……というか、私、ルフィを怒らせちゃってたから」
「あら、ふふ。嫌うなんて、それはないでしょ」
「……なんでそう言い切れるんですか」
シャッキーさんは耐え切れないというように、手で口元を覆った。「だって!」ほっそりとした指の隙間から艶やかな唇が綻ぶ。その色っぽい仕草に反して、声色は少女のように弾んでいた。
「好きじゃなきゃ、こんなあなたにピッタリのものを見つけて来れないわよ」
髪飾りもピアスも服も靴も。
なにもかも、あなたのために誂えられたものみたいにお似合いで、とってもかわいいわ。
思うところがあったので、シャッキーさんの言葉に改めて鏡を見つめ、少し考える。鏡の自分はたしかに可愛い格好をしていたけれど、その顔には、腑に落ちないという不満が滲んでいた。
「……そうでしょうか」
たしかに一連のコーディネートはセンスがあるとは思うけど、自分で着るにはちょっと可愛すぎると思う。嫌いじゃないけど、自分では選ばない系統というか。素直に零すと、シャッキーさんはまたクスクス笑った。
「だから言ったじゃない、かわいいって」
「え?」
「そのくらいかわいいのよ、モンキーちゃんにとって、ナツちゃんは」
✲✲✲
レイリーさんは、情報収集のために島を動き回っているとシャッキーさんが教えてくれた。「出るなら今のうちよ」というウインクに見送られ、私はバーを出る。
「出た、はいいけど……」
どうやって海軍本部まで行こう。これでも一応顔面割れてるんだよな、私。うーん、困った。とりあえず通りすがった海兵を本にして、現状把握に努める。
へ〜こういう海賊がいるんだ。超新星……あ、ルフィとゾロ、……えっなんか、私の名前も載ってる……なんで……やめてください……。
「……とりあえず船が必要だよね」
島に集まっている海賊を一通り把握し、私はパンと拳を手のひらに合わせ、気合を入れる。よし、よし……よし!
「やるか、海賊行為……」
超新星とか言われてんなら、もういっそそれっぽく悪いことしーちゃお。
ルフィが私のためにと選んでくれた服を身にまとっているせいか、不思議となんでも出来るような気持ちだ。一歩進むたび勇気が湧いて、なんでも出来るような万能感に包まれる。全身の傷も痛みも、今は気にならなかった。
「(……浮かれすぎでは?)」
スキップしかけた所で我に返り、深呼吸する。ビークール。そうして気を鎮めてから、私は、一番弱そうな海賊の目撃情報がある場所まで向かうことにした。
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