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どうしよう。
強奪した船の船員たちが快く協力してくれたお陰で――人によっては『脅迫』とも言うのかもしれないけど……――、エースの処刑には一応間に合った(危ないので着いたらすぐにUターンしていただいた)。
けれど、そうしてマリンフォードに辿り着いた頃にはもう主要メンバーは揃っていた。もう既に至る所に戦火が広がっており、マリンフォードは地獄絵図と化している。
「(どうしよう)」
誰か、あのままじゃお兄さんが――ルフィが。遠く、ほとんどゴマ粒のようなルフィを見つめる。打開策が何も思い浮かばない。遠すぎて、もう私ではなにもできない。
彼らに駆けつける途中で瓦礫に足を取られそのまま浅瀬に転んでしまう。早く立たなきゃと思うのに身体が動かない。だって今更走ったところで結果は見え透いていて、途方もない絶望が体を蝕んでいた。蹲っているだけで冷たい海水が体力を奪っていく。せっかく来たのに、なにもできない、届かないのか、私は。
落ちた視界に、身にまとっている青いスカートが映り込み目を見開く。ルフィが贈ってくれようとした服。ルフィが私のために選んでくれた、大事な服。
「(……ちがう)」
できないじゃない。なにか――なにかをしなければならない。動かなければ。たとえ無茶でも、命を懸けてでも、なにかを成さねば――ルフィのために。
でも、なにを、私には今、いったいなにが――。
『――遊ぶ?』
浸かる指先から伝わってきたそれは、いつもよりずっと静やかで、神経の奥深くに沈み込むような音だった。その音だけに意識を支配される。声を出すために震えながら息を吸い込むと、湿った空気が肺を満たした。
「……ぃ、よ」
途切れ途切れになった声に返事はなく、海はただヒソヒソ笑うだけだった。私は唾を呑み込んで、カラカラになった喉を無理やり潤した。
「いいよ」
遊ぼう。
もう一度繰り返すと、自分の中でも決意が固まった。
『いつまで遊ぼう?』
『どこまで遊ぼう?』
「いつまでも、どこまでも」
永遠に付き合う。時間も体も意識も、あげれるものは、全部をあげる。
「――だから、助けて」
ルフィの大切な人を、助けて。
無力な自分が不甲斐なくて、耐えきれなかった涙が目尻から溢れ頬を伝う。それをチャプンと愉しげに跳ねさせた音が、軽やかに鼓膜を突いた。
『いいよ』
背後で海が大きく翻り、夜のような影が辺りを覆い尽くす。人々の狼狽える声がさざ波のように連動するが、それさえも、嘲笑うような轟音に飲み込まれていった。皆が戦いの手を止め空を仰ぎ愕然としている中、私はゆっくりと立ち上がり、彼方を見つめる。
視線の先では、二人の男が蹲っていた。そのうちの一人、麦わら帽子の男と、目が合う。
彼と私は、かなりの距離があった。
それなのに私は、たしかに彼と視線を交錯させたと思った。目は別に良くないし、しかもこんな混乱した状況で、所々で煙が立ち昇っていて、視界も涙で判然としなくて。
だからこんな距離から彼の瞳なんて、到底見えるはずもない――ないのに。
「(最初と一緒だ)」
「 」
ああ、呼んでいる。
見えないはずのものが見えて、聴こえるはずのない声まで聴こえる。変なの。そう思うけれど、声はたしかに私の名前を呼んでいた。幻聴だとは思わない。絶対にあの人は、私の名前を紡いだ。それを不思議と確信していた。それが嬉しくて堪らなくて、ひとりでに頬が綻ぶ。
「……ルフィ」
ねえ、ルフィ。
私、月が綺麗かどうか、この期に及んでまだ分からないの。ルフィのことは大切で、大好きだけど、それがそういう意味かどうかまではやっぱり断言できない。
でも一つだけ。
確信を持って言えることが、一つだけある。
それは、私を見つけてくれたのが、ルフィでよかったってことだ。
「ありがとう、ルフィ」
この広くて大きな海で、ひとりぼっちだった私を見つけて、抱き締めてくれてありがとう。
「ナツ」
あ、うそ、言えること、もう一つあった。
名前。
ルフィに名前を呼ばれるの、好きだったな。屈託のない笑顔を咲かせたルフィに名前を呼ばれるのが、この世界で一番好きだった。
もしかしたらこれが答えでもよかったのかもしれない。
これだけで月が綺麗と言ってもよかったのかもしれない。
「ナツ!」
もうなにもかも遅いけれど。
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