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身体が激しく揺れて浮いて、そして同時に沈んでいた。
――最後の記憶は、それくらいだった。
✲✲✲
シャボンコーティングされたサニー号は、深海の島を目指して進んでいた。海の中に広がる広大な光景に、誰もが声を弾ませる。本来ならば二年前に全員で見ていた光景だ。――そう、”全員“で。待ち望んでいた新世界の美しい景色に胸を打たれながらも、船員たちの心には、消しようのない蟠りが燻っていた。
手首につけたログポースの指針を確認しながら、どこか重たい船内の空気に、ナミはそっと口内を噛んだ。抱く憤りを誰にぶつければいいか、もはや分からない。あの少女にもルフィにも、言いたいことはいくらでもある。
けれど二年前のあの日、あの場所に立てなかった自分自身だって腹立たしくて堪らない。それは、あの場所に行くことが叶わなかった全員が思っていることだろう。
「(……それに、一番悔しいのはきっとアイツだし)」
あの日、マリンフォード頂上戦争は大津波に飲まれて幕を閉じた。ルフィは兄のエースとともに戦場に居合わせた“死の外科医”トラファルガー・ローに拾われ、その後は女ヶ島にてレイリーから一年半ほど稽古をつけてもらったという。原因は不明だが、エースは炎の力を失ってしまったらしい。長年染み付いたロギア系としての戦い方から、非能力者の戦闘方法へ移行するため、兄弟揃って修行をつけてもらったのだと、船員たちはルフィから聞いていた。
ナミはルフィの方へとこっそり視線を送った。ウソップとチョッパーと一緒にシャボンをつついて、けらけら笑っている。楽しんでいるのは演技じゃないだろう。そんな器用なやつではない。しかし思うところがないわけではないというのは、出航前の様子で――名残惜しげに島を見つめる眼差しで、誰もが理解していた。
ルフィの希望で出航はギリギリまで待っていた。砲弾の嵐をいなし、海軍の群れを散らし、粘りに粘って。それでも彼女は、姿を現さなかった。頭の回る賢い子だ。ゾロだって分かった暗号を、あの子が分からないはずがない。つまり、来なかったのではなく、来れなかったのだ。それが意味することは――。
「……あの、皆さん、ちょっとよろしいでしょうか」
そろりと挙手したブルックを、みんなが見つめる。集まる視線の中、ブルックは「ゾロさん、サンジさん」と二人の名を呼んだ。呼ばれた二人は、不思議そうにしながらも少し居住まいを正した。
「スリラーバークでの出来事を覚えていますか」
「ん? ああ……」
「そりゃあもちろん。スケスケの実、ナミさんのウェディング姿、ゲッコーモリアに、それからルフィのゾンビだろ? あとは七武海のバーソロミュー・くま……」
「……そのくまが、我々を大気砲でまとめて吹き飛ばした“あと”のことは?」
「あと?」
意味ありげなブルックに、ゾロとサンジは無言で視線を交わらせた。難しい顔を崩さないゾロのかわりに、サンジは「……いや」と首を横に振る。
「気付いたらくまは消えてて、ナツちゃんが森の奧で倒れていたことは覚えてるが」
「そうですか……」
「それがどうしたのよ、ブルック」
ナミのほうをちらりと見てから、ブルックは「そうですね……」と骨だけの指を悩ましげに口元へ寄せる。ナミの横では、ロビンがハッとしたように息を呑んでいた。
「本来ならばナツさんがご自分でお話するべきことですから、私の口からは余り詳細な話はできませんし、100%の確証があることでもないのですが……」
「な、なんだよ、何が言いたいんだよ?」
ウソップが落ち着かない様子で「早く言えよ」と、ブルックの背をバシバシ叩いた。
「イタタ、ちょ、やめてくださいよォ!……コホン。あー、結論から言いますと、ナツさんは、まだ生きてるはずです」
「!」
ブルックの言葉に、船員たちが全員目を見開いた。
「ナツさんはくまが我々を吹き飛ばした後、ゾロさんとサンジさんにヤクヤクの能力をかけました。能力者の能力は永久的なものではありません。能力者が死亡したら、大抵はその時点で効果が切れるものです。……ですが、お二人にかけられた能力がまだ解けていない――ということは――」
船にいる者全員が、呼吸さえも疎かにして黙り込んでいた。水泡や揺らめいた水がぶつかり合うちゃぷちゃぷと涼やかな音が、船内に満ちる。分厚いシャボンを通して聴こえるそれは、奇妙な反響をしていて、不思議とどこか笑っているようにも聴こえて。
「希望はまだ、あるかと」
ブルックは顔を上げて、船長の方へと顔を向けた。海上から射し込む陽の光が、瞠目するルフィの顔を照らしていた。
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