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数針縫うほどざっっっくりいった手のひらの傷は、一週間弱でほぼ治った。二日目の夜には抜糸もして、今はもうグッパしたらちょっと手のひらが突っ張るくらいかな、程度。うーん、さすがワンピースの世界。大抵の傷は一週間もしないで治るようにできてるようだ。いやおかしいだろ。できてるようだ、じゃねえ。いくらその世界に来たからってその世界の常識が違う世界の私にも適用されるとかそんなんアリ? こわい。なんか……着々と『この世界の常識』が身に染みこんできてる気がする。
私としては恐怖を覚えるほどに驚異的な回復スピードだったのだが、それでもチョッパーを筆頭とした一味の面々は、ずっとそわそわ心配そうな眼差しを送ってきていた。この世界では、きっとこれでも遅い方なのだろう。彼らは、気遣いを分かりやすく行動にだしてくれた。
ルフィによりセッティングされたみかんの木の下――ある時から急にここに置かれるようになった。意図が分からないけど、涼しいからラッキーだ――で、一人ぼーっと海を眺めていたら、ナミがやってきて、みかんをもぎり、なんと皮まで剥いて食べさせてくれた。あーんのオプション付き。餌付けかな。ていうかすごい今更だけどなんで船にみかん畑があるんだ。この世界だとそれが常識なの? へえ、そう……。
他にも謎の手が着替えを手伝ってくれたり――腰から急にニョキニョキ生えてきててきぱき脱がせてくるのでバカビビった――間抜けにも利き手を怪我した私にとっては非常にありがたいことに、食事には手で食べられるメニューが増えた。あとは移動時には必ず誰かしらがさりげなく傍につくようになった。……えっなんかすごい重症扱いじゃない? たしかにちょっと深いけど、いや切り傷、ただの切り傷……。お気遣いは大変嬉しいですけど……。
ともかく、それがここ一週間の彼らの様子だった。頭を抱えてしまう。勝手に怪我した上に要らん神経使わせて、もうほんとに申し訳なさすぎる。あとぶっちゃけると、少しだけ気疲れしてしまっていた。ただでさえ強制ホームステイで居心地悪かったのに……。
船の中でただ一人、いつも通りの態度で接してくれるルフィにホッとしてしまう日々だ。いきなりぶんぶん振り回されるのは酔うから困るし、何言ってるかは相変わらず分かんないけど。船長が楽しそうでなによりだよ。
いつも通りの海を眺めながら、息を吐く。探そうとして覗き込まなければ見つからないだろうという場所に私を配置したルフィは、いつの間にかどこぞへと姿を消していた。
余談だけど、ルフィって私のことをぬいぐるみかなにかだと思っているのかもしれない。だって気付いたら背後を陣取って足の間に置かれてる。あの、(恐らく)同年代で、しかも会ったばかりの男女の距離感とはとても思えないんですけど……。と、最初はいちいち狼狽してしまった。でも当のルフィは何一つとして気にしていなさそうだったので、この距離感バグも、成人女性をぬいぐるみ扱いするのも、この世界だと常識なのかもしれないと割り切ることにした。分かりましたそうなんですねそういうことなら私はもう何も言わないです言えないです。
しかし船の人達には、これだけ色々してもらったんだし、なにかお返しができればいいんだが。海と空の境目を緋色に焦がす大きな太陽を見つめながら、思案を巡らせる。私はほとんど着の身着のままで漂流していたので、金になりそうな手持ちといえばスマホ以外ない。しかし換金方法が分からないというのもあるけれど、さすがにスマホは誰にも見せられない。技術? が違いすぎるし、こんなの見られたら通報とかされそう。
どうしようかなー、サンジのお手伝いとか……でも調理場なんかに私が行ったら、ゾロがバチ切れしそうだよな。あの人、洗濯かごを持とうとするだけで睨んで奪ってくるし。私の手から毒でもでると思ってるのかな。でないよ、多分。それが『この世界の常識』じゃない限り。
「(大人しくしてるのが一番の恩返しかな……)」
この世界では基本共通である言葉が通じない時点で、もう通報されるには十分足る理由であるということを私が知るのは、まだ先の話であった。
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