似合う色
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【不死鳥時 守護霊練習の幕間】
「――今日はここまでにしとこうか」
私がそう言ってボガートの鍵を閉めると、ドラコは反発的な顔になる。「まだやれる」表情通りの言葉を紡ぐ彼の口へ、「そうだね〜」と宥めながらチョコレートを押し込んだ。もごもご言っている彼をよそに、杖を振る。椅子にかけられていた緑フードのローブが浮き上がり、ドラコを覆い隠した。
「っ、チョコがつく! やめろ!」
「あ、ごめん」
着て着て早く着てとかわいくじゃれつかれ、ドラコの必死な声がローブの下から響く。そういえばそうでした。いっけね、ともう一度杖を振れば、ローブはぴたりと動きを止めて、ただの布切れに戻った。ブツクサ文句を言いながら、ローブを羽織ったドラコをじっと見つめる。
「な、なんだよ」
「んー……」
少し考えて、私は杖で自分のフードを軽く叩いた。杖が触れた先から、見慣れた深紅がアパッチグリーンへと染まっていく。内側まで完全に色を変えて、その場でくるりとターンしてみせた。
「どう?」
「……どう、と言われても」
ドラコは困惑しているのか、複雑そうに眉をひそめた。突拍子もないことをしている自覚はある。
「似合う?」
「似合うっていうか……いや……突然どうした?」
「なんとなく」
このローブは好き――というか、ずっと憧れだった。だってこれは、『この世界』の象徴みたいなものだし。だからドラコを見てたら、無性にザリンバージョンも着てみたくなった。ので、こんな奇行に及ばせていただいた次第である。ふふ、新鮮。楽しくなってご機嫌に笑ってしまうけれど、ドラコはよく分からなさそうにしていた。
「私ね、ハッフルパフになると思ってたんだよね」
「ああ……分からなくもない。でも今のお前を見てると、レイブンクローの適正もあると思うぞ。妙な勤勉さがあるから」
「妙なって。……でもほら、なんか今はスリザリンで、ドラコと同じ寮生みたいじゃない?」
「それはない」
即答。ばっさり切り捨てられて、ちょっとガッカリする。たらればもダメなの? マグルだから? 彼は決まり悪げに目を逸らしながら、「ネクタイが赤だし」と慰めみたいな言葉を付け加えた。なるほど? 細かい、おふざけにも本気になれってことか。いやそんなキャラだったっけ。
不意にドラコが自身の黒い杖を振る。私のフードの色が、みるみるうちに紅に戻った。
「あ、なにするの」
「お前にはそれが一番似合ってる」
「うーん、それはまあ正直嬉しい……光栄です。ドラコも――……」
緑が一番、と音にしかけて止める。不自然に固まった私に、ドラコは小首を傾げた。
「僕がなんだよ?」
「……ううん。ドラコもその色似合ってるよって」
ドラコは当然だとばかりに鼻を鳴らした。
前世から見慣れている姿なはずなのに口にするのを言い淀んでしまったのは、瞬間的に、ドラコには紅も似合う気がしたからだ。けれどなんとなく口にすることが躊躇われ、そんな本音は飲み込んでしまった。
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