育め情緒、育て愛


《半田桃》

 よく飽きないものだ、と感心する。
 チャイムが鳴ったので扉を開けるなり、目の前の男が「聞け! 今日はだな――」なんて話し出してからどれくらい経ったことだろう。この半田とかいう暇人ストーカー公務員は、今日も今日とて知己の友に嫌がらせを仕掛けてきたばかりらしく、「セロリで暖簾を作ってやったわ!」だのをずっと自慢げに語っていた。腕時計をちらりと見て時間を確認する。せっかくのクリスマスをこんなことで潰したくはない。私もそろそろ出掛けたかった。
「悪いんだけど、用事あるから今日はもう帰って」
「ム……言われてみれば貴様、随分と洒落た格好をしているな……友人と飲み会か?」
 そのはずだった、のだが、内一人が『プディングが拗ねてる!』とか意味分からんこと言い出したので、急遽なしになった。でも今日のために色々用意したので、一人で出掛けるつもりだ。
「逆ナンしに行く」
 冗談半分で言い放つと、半田は目尻が切れそうなほど瞳を見開いた。
「は⁈ な、なぜ!」
「人肌恋しいから」
「ふしだらだ!」
「だとしても、半田には関係ないよね」
 誰か、少なくとも知人に迷惑をかけるような行為ではないはずだ。半田と違って。真顔で切り返せば、半田は言葉を詰まらせた。
「そ、そとは」
「うん?」
「雪が降っている、とても寒いぞ」
「防寒はしてるし、すぐ誰か見つけてどっか入るし」
「っ、危険だ、なにがあるか分からん! それに――そうだ、浮かれた吸血鬼に遭遇するかもしれない、無闇な外出は――」
「ねえ」
 捲し立てられる言葉を遮ると、半田の肩がビクッと震えた。
「そんなに出掛けてほしくないの?」
「なっ、ちが、おれ、俺はべつに、そういうわけでは――」
「違うの?」
 半田はなにか言おうとしてパクパクと口を開け閉めし、やがて顎を引いて俯いた。
「ちがわ、ない……」
 消え入るような声が絞り出された。視線が合わないのをいいことにニッコリする。
「どうして?」
「わ、わからない……でも、とにかくいやな気持ちになるんだ」
 お前が、知らない誰かとどこかに行くと思うと。そう萎んでいく半田の声に、笑みが深まっていく。しょうがない、今日はこのくらいで勘弁してやろう。『いや』まで言えたし、この情緒小三男にしてはなかなか頑張ったほうだろうし。
「じゃあ、半田が一緒に居てくれる? お腹空いたし、なにか作ってくれたら、出掛けるのもやめようかなぁ」
 彼は尖った耳をぴくんと動かして勢いよく顔を上げ、蜂蜜色の瞳を輝かせた。


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