建前も本音


《ヨモツザカ》

 今日はクリスマス・イヴだ。
 わざわざ実験の手を止め、部屋のソファで寛ぐ私の目の前に仁王立ちした恋人に眉をひそめつつ、「そうだね」と返す。この研究バカが世間のイベント事をしっかり認知していて、尚且つ自ら私にそれを伝えるなんて、なにかおかしい。
「今街にでれば浮かれポンチが光に集る虫のごとく溢れている……つまりサンプル取り放題バーゲンセール。行くぞ」
「行かせるか」
 キャメルクラッチをしかける。技をかけて五秒も満たないで床がバシバシ叩かれ降参を訴えられた。
「なんだ、デートに誘ってやってる恋人に暴力をふるうとは」
「いつどこの文脈で誘ったんだよ」
「行くぞと言っただろうが聞いとけ。これだから脳筋退治人は」
「あーはいはいすみませんでした、行かない」
 そもそも仮にも退治人の私が、恋人であれそんな凶行を看過できるはずないだろうが睨む。しかし更なる減らず口が返ってくるかと思ったのに、ヨモツザカはむっつり口を噤み、鼻を鳴らしただけだった。草臥れた白衣を翻し、デスクに戻っていく。
「女はこういうイベントに興味があるんじゃないのか?」
 耳に届いた独り言に、思わず目を見開いて彼を凝視する。表情は分からない。けれど、唯一見える広い背中は、心なしか落ち込んでいるように見えた。
 もしかしてこの人は、ただ単純にクリスマスを私と過ごしたかったのだろうか。この人がひねくれた言い方しかできないのを知っているのに一考もせず断るなんて、ちょっと悪い事をしたかも……。
「ヨモ――」
「うまくのせられると思ったんだがな……」
 逆エビ固めした。


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