死臭を撒き散らし褪せて逝く





何故マイナーな映画というものはレイトショーでしかやってくれへんのやろうか。他にやってても朝イチとかな。
これじゃ家に着くんは、部活の夜練をしてから帰る時間とそんなに大差無いんやないかと思う。内容自体はとても良かったので満足はしているが。悪いんは映画やない。映画に罪は無い。



映画館からの近道として高級レストラン街を通って来たんはええものの、流石日曜の夜という事もあって、まわりはカップルや熟年夫婦が歩く姿がよく目立つ。ここに居る人らは俺がさっきまで見ていたラブストーリーを現実でも経験してるんやろなぁ。こんなことを口に出すと岳人辺りに「侑士サムイ」とでも言われそうなので脳内に留めておく。別に今は俺一人やねんけど。



一軒一軒の雰囲気を楽しみながら歩いていると、前方のレストランから露草がスーツを着た年上の男と出て来る姿を目撃した。学校で見るときより化粧は濃いが、あれは露草だ。間違いない。親御さんにしては若い気がする。兄弟か、親戚か。
そんな俺の考えは、一瞬にして砕け散ることになる。



スーツを着た男が財布を取りだし、数枚の紙幣を露草に手渡す。目の前で行われている光景が信じきれへん。状況はわかっているのに俺の体は固まってしまって思うように動かない。
おいおいおい……。あかんやろ。何で店前で渡すねん。店内で渡すか何か入れるなりせえや……。いや問題はそこやない。岳人から聞いたあの噂は本当やったんか。




""色んなオヤジと夜歩いてるの見たって奴が結構いるんだよ。何やってるかまでは曖昧だけど""




「何やっとん」



俺の体が動くようになったんは、作り笑顔のような露草が男と手を振り合っているのを見届けてからやった。全く以て情けない奴や。心のどこかでタダの噂にすぎない、デマやと思い込んどる自分が居た。露草がどういう風に何をしとるかは、これだけではわからん。けれど、嫌やった。露草はもう、俺の友達の一人やからや。




「忍足……」
「何でこんな所にって顔しとるな。たまたま見かけただけや。家からそんな遠い訳でもあらへんし。それとな、金銭の受渡は店前でやらん方がええと思うで?」
「知ってたんだ?私の噂」
「なぁ露草、どこまで……」
「想像にお任せするよ」




どこか吹っ切れた露草の表情になぜか俺の胸が痛くなる。自分からしとることやのに何でそんなに苦しそうな顔をしとるんや。




「もしかして、いつも夜まで居ったり公園で寝とるんは、男が捕まらん時やったりするん」
「そうそう。適当に知り合った友達と遊んだりする日もあるし、気分によっては一人で宿取ったりするけどね。あーあ、今日どうしようかなぁ」




嗚呼、あの時も露草は時間を潰せることを探しながら彷徨ってたって言うんか。
もっと早く出会えとったら、何か違ったんやろか。




「それなら」




レストランで食事をしていたという割には大きな露草の鞄を奪い取る。
考えもなしに、俺の口は言葉を紡いだ。





「俺ん家に来たらええ」