「おい!侑士!」
「なんや朝から」
「お前!さっき露草と一緒に登校してだたろ!」
何やその事か。朝練が無い日やったから、露草と一緒に2年のフロアまで登校すると、俺の数分後に教室に到着した岳人に迫られる。別にええけど、見られてたんか。
「なぁ侑士、露草とどういう関係なんだ?」
「どういうって……友達やな」
「だって露草って、あいつ大丈夫なのかよ」
岳人が怪訝に思うのは例の噂のせいか。
昨晩露草が言っとったことを思い出す。
教室にはまだ登校しとらん生徒の方が多いから無駄に岳人の声が響く。
「そこまで悪いことしとる訳やないんやで。むしろ見ててあげんとこっちが安心出来ひんわ」
「変なの。ワケありか?」
「そう言うことや。俺からは勝手に喋れへんけど」
侑士が言うなら大丈夫なんだろうと、納得したらしい岳人はそれ以上何も追求して来んかった。それからつまらん授業を受ける。授業中も、露草は今教室に居るんやろか。と気になって仕方がなかった。
昼休み、いつものように屋上に繋がる階段で昼食をとりに向かうとそこには先着が居た。
「あ、忍足……と友達?ごめん。今退くね」
俺らが来るとは思ってなかったんやろう。目をまんまるにした露草が購買の袋を持とうとする腕を掴んだ。
「居ったらええって、言うたやろ?」
「……いやいや、気まずいんだけど」
俺より後ろに向けられる視線。そうや、岳人とは初対面や。岳人も岳人で、初めて間近で見る露草にどう接していいか迷っとるみたいやった。
「岳人、大丈夫か」
「まぁ朝の件もあるしな。俺は向日岳人だ。侑士と同じテニス部で同じクラス。気にしないで昼食べようぜ」
「聞いてると思うけど、露草かさね。ありがとう、じゃあそうする」
階段の上段に岳人と並んで、中段に露草が腰掛ける。俺ら2人が弁当なのに対して露草が購買の袋から出したのは小さなパンとヨーグルト。弁当を作ってこれるような環境やないのもわかっとるけど、やっぱり昨日露草の分も頼んでおけば良かったと後悔する。本人が大丈夫だと強く言い張るから無理強い出来へんのやったんやけど。
「パンとヨーグルトだけって腹満たされるん?」
「んー、今そんなに食欲ないから」
プラのスプーンでちまちまと中身を掬う動きを見て、思わず声が出た俺に釣られて岳人も呟く。
「俺らだったら無理だよなー」
「当たり前やん。俺ら運動部やもん」
「だよな。露草これ食うか?」
そう言って岳人は弁当に入っとったであろう冷食のたこ焼きを一つ差し出した。え、何やっとるんお前。露草も露草で、しばらく見つめると「一つなら」とか言うて食べてしもうた。いや間接やん。きっと岳人は露草が細いのを心配しただけで、露草も別にそういうの気にせんのかもしれへんけど。……ちゅーか、何で俺が焦っとるん。
「あれだね、ご飯食べると眠くなるね」
「わかるけど、お前ちょっとしか食べてねーのに眠くなるもんなの」
「なるもんだよ」
岳人と露草は、何かと明るい性格をしとる分打ち解けるんも早かった。俺以外にもそうやって話が出来る奴が増えるんはええ事やから一緒に食うたんは正解やった。それより、昨夜は充分眠れとった気がするんやけど、まだ疲れでも溜まっとるんやろうか。
「硬いので構わんかったら、寝る?」
「お前それは」
「忍足の膝を枕にしろって?」
「露草が良ければなんやけど。疲れてそうやったし、放っといたら床辺りで寝そうやしな」
「うっわ、否定できないな。お邪魔しまーす」
「ん。おやすみ」
膝を貸せば、数分で露草は眠った。
前々から思っとったけど寝るんの早いな。体質か何かか。きっとそれもあってどこでも寝れてしまうんやろうけど。
頬にかかる一房の髪を耳にかける。俺とは違う髪質が、何だか擽ったい気持ちにさせた。
「なぁ、俺すっげえお邪魔じゃねえ?」
「そんなことあらへんわ。岳人が居ったお陰で露草楽しそうやったやん」
「なら良いんだけどよ。侑士、随分とその子のこと気に入ってるんだな」
「……せやなぁ。自分でもびっくりや」
この擽ったさは、何から来るもんなんやろか。
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