あなたの居ない朝を迎えれば





忍足侑士。
違うクラスだけど同じ学年であるそいつとの出会いは最悪だった。
人のことは言えないけどなんであんな時間に出歩いてるんだ。高校生に見えなさすぎる。大学生辺りだと思って声かけた私が馬鹿だった。



この地域で聞くには違和感のある方言と丸メガネ。氷帝生が出歩いていい時間じゃあらへんよ?なんて言われて腹が立ったのを今でも覚えてる。ブーメランじゃん。しかも同い年なんて、言い返せずにはいなかった。





その出会いで縁を作ってしまったのか、あの日以来忍足侑士に遭遇する機会がどんと増えた。
宿探しが面倒になって公園のベンチで寝て起きた時はびっくりした。は?この丸メガネ何やってんの?で脳内が埋まる程度には。放っておけばいいのに私に構うもんだから、次の日保健室で体調崩している姿を見て苦しくなった。

だって、その日来室者名のリスト見るまでは忍足侑士なんて名前自体も知らなかったのだ。私自身の噂が流れているから向こうは知っていたと思うけれど。実際呼ばれてたし。




ついに色々バレて私もどうでも良くなって、忍足にならいいや、と口を開けば
「家に来い」。
何でそこまでするの、と聞けば
「見過ごせへん」「同い年やろ」。



全くもって理解不能だった。両親は17の娘が一人出歩いていようと無関心だったから、それが私にとっては当たり前になっていたのに。
思いの外その言葉が私には響いたらしく、忍足が寝息を立て始めた後、少しだけ久しぶりの涙が出た。



きっと忍足は優しいんだ。
テニス部のことは全くわからないけど、心を閉ざした侑士は冷たいんだぜ。と最近一緒にいる向日が言っていた。
それでも、根が優しいんだろう。
今だってクラスの女子が落として散乱してしまった筆箱の中身を拾って、気ぃつけや。と微笑んだ。
だからあの優しさは、特別私に向けられたものではないんだろう。
忍足の側を、落ち着くように思い始めているのに。そんなふうに考えては胸が痛んでの繰り返し。
拒否はしない。と言ってくれたけど、それだと私が苦しくなる一方だ。





その優しさの温度に、私は触れていいのだろうか。