嗚咽の幻を見た気がして





最近、露草を見ない。
クラスを覗いても登校している形跡が無かった。
また、何かあったんやろか。家のことやろか。きちんと寝る場所を確保してるんやろか。
出会ってからというもの、露草のことを考えてばかりの俺が居る。



ふと時計を見ると今は夜の八時で、もしかしたらまたフラフラと出歩いとるんかもしれへんなんて、嫌な希望に頼るしかなかった。


初めて会ったときのコンビニに来るもその姿はない。ふと、あの日俺がこのコンビニに来てへんかったら、まだ露草はああやってだれとも関わらずにおったんかと思うと血の気が引いた。



地元の駅から定期をかざして改札を抜け、丁度来ていた電車に乗り込んで電車に揺られる。それほど遠くないと思っていた数駅が、もどかしく感じた。
帰宅ラッシュの人混みをかき分けて氷帝学園の最寄り駅を降りる。駅前の広場にはカフェもあるし、座れるスペースが何箇所かあったはずだ。



駅の入口に立ち、辺りを見回すと遠目ながら壁沿いに佇むシルエットが目に入る。私服だったが間違いなくそれは何日かぶりに見た露草だった。見つかって良かったと安堵した途端、彼女はスーツ姿のサラリーマンに声をかけられている。




「.....じゃあ何して欲しい?」



露草の口が紡ぐその言葉に、俺は向かう足を速めた。