かき氷を食べよう
あんなに練習していた合唱は、特に集会だとかで披露されることもなく、私の音楽の成績は中途半端な結果に終わった。音楽教諭からのコメントには"もう少しリラックスをしてみましょう"と書き込まれていて何とも言えない。
そんな結果で、気がつけば中学校生活最後の夏休みを迎えてしまった。
夏休み前、最後の音楽の授業で「こうやってお前に菓子貰うのも一旦終わりだな」なんて言われてしまって、折角の夏休みなのにこの長い休暇が残念に思えた。
入学当初から丸井くんの存在は知っていたけれど、明らかに初夏の一件以降、私は丸井くんを意識し始めている。
ずっと関わることのない、ただのクラスメイトだと思っていたのに。
燃えるように赤い丸井君の髪を見れない日々をなんだか物足りなくなっているあたり、もう元には戻れないと自覚する。
「あれ、笠倉じゃん?」
「えっ」
物足りなさ、解消。
「何してたんだ?」
「友達の家に遊びに。丸井くんは……部活?」
「おう。一応引退した身だけどな」
1週間前のことだ。丸井くんが所属するテニス部は、三連覇を目標に今までやってきた。それでも、結果は惜しくも準優勝に終わってしまったらしい。テニス部のファンだという同じ部活の仲間に聞いたのだ。
「……応援、行きたかったんだけど」
「お前も夏休みとはいえ部活だったんだろ? しゃあねえって」
「それでも、丸井くんがテニスしてる姿、ちゃんと見たこと無かったし」
確かに部活動の日程と全国大会が被っていたけれど、日頃行われている練習にすら足を運ぶことができなかったのは、自分があの歓声の輪に入っていく勇気がなかったからだ。テニスをしている彼のファンとしてではなく、丸井くんを個人として好きな気持ちで見に行くのはどうなんだろうと、気が引けてしまったのもある。
「まぁまだ、後輩に指導したりで顔出してるからよ。そういう時に来りゃイイじゃん?」
「うん。そうしようかな」
もうすぐで夕方なのに、まだ日差しが突き刺さるように痛い。アスファルトが熱を吸収して、地面に触れたら火傷をしそうだ。じんわりと汗が滲む。制汗剤だろうか。爽やかな匂いがする丸井くんの隣を歩いてるので、余計に気になってしまう。
丸井くんとの会話に混じって、あちこちから蝉の鳴き声がする。音楽室で聞いた鳴き声の主は、今頃はもう居ないだろう。1週間は早い。全国大会が終わって、もう1週間経ってしまったのだ。
「丸井、くん」
脚が止まる私に、どうした?と振り返るその顔は明るくて、何だか、叫びだしたくなる。
ちゃんと見たことは無かった。無かったけれど、教室で仁王くんと部活について話している姿や下校中に見かけた外周をする姿。勝利に繋がるちょっとした姿を、他のファンだってそうかもしれないけれど、丸井くんを意識してからは私にだって見えている。
「……お疲れ様」
「何だそれ。変な顔してんなって! 試合自体は良いもんだったんだよぃ、楽しかった。でも、うん、ありがとうな。」
準優勝おめでとう、とは言い出せなくて。
お疲れ様なんて簡単な言葉しかかけられない自分が嫌になる。
やっぱり丸井くんは眩しい人だ。
そういう所に惹かれてしまうんだろう。
「なぁ暑くね? そこの通りでかき氷食える店あるから笠倉が良ければ行こうぜ」
丸井くんからお誘いなんて、私は夢でも見てるのだろうか。
「行く!」