欲してはいけない物に手を伸ばす

 モンキーさんから海賊の誘いを受けて1日が経った。宴はまだ続いていて、あっちこっちでどんちゃん騒ぎする音が聞こえてくる。
モンキーさんの誘いは――断った。わたしに海賊なんて務まるわけがないし、そもそも海賊って犯罪者だし……なによりアーロンさんたちを思い出すと正直海賊にいいイメージがない。モンキーさんたちが嫌と言うわけじゃない。だけどやっぱり、

(海賊はダメだ……)

 わたしはいつかは元の世界に帰るつもりだ。その時いくら違う世界で起こった方とはいえ、民間人を虐げたり襲ったり、他の海賊と戦ったり、海軍の人と争ったり、少なくともモンキーさん達に限って最初の二つは無いとしても、他の海賊の人達や海軍の人たちとの戦うことはあるだろう。その時わたしには戦えない。アーロンさん達と戦えたことは自分でも未だに信じられない。

「おれはあいつを仲間にするんだ!!」
「だーかーら! 本人が海賊やりたくねぇって言ってんだから仕方ねぇだろ!」
「いやだ!! おれがあいつが海賊やりたくねえのが嫌だ!」
「それはお前の勝手だろッ!!」

 病院の外では未だにモンキーさんがわたしがモンキーさんたちの船に乗ることを断ったのが納得行かないのか、ウソップさんと争っている声が病院内にまで聞こえてくる。というよりわたしが断ったのを断るって一体。

「うるさい奴らじゃな。まあ、あれだけの傷を負ってあそこまで元気ならもう心配もいらないだろうが」
「そうですね、羨ましいです」

 ドクターがわたしの横で包帯を変えながら外で騒いでいるモンキーさん達に呆れながらも、元気な事に安心しているようだった。

「うん。もうガーゼや包帯は必要なさそうだが、一応巻いておくぞ」
「はい……あの、聞きたいことがあるんですが」
「――傷の治りの速さについてだな?」
「はい。そうです。あの! おかしいですよね、傷がこんなに早く治るなんて……」

 そう、わたしがアーロンさんに負わされた傷、そしてあの牢屋で負わされた傷、大なり小なりあるが、小さい傷は完全に、大きい傷もほぼ治りかけているのだ。そもそも折られた骨がくっついているのがおかしい。
 わたしの縋るように聞いた疑問に、コトーさんは一度考えるように視線を下に向けたあと、わたしをもう一度見てくる。

「その事についてじゃが、恐らく……いや、絶対悪魔の実が関係していると思っとる」
「悪魔の実ってことは、血液を操る能力の事ですか?」
「そうだ。ここからは推測になるが、まず今外で騒いでいる麦わら帽子の坊主が居るだろう。あれも悪魔の実の能力者だ」
「はい」

 未だに外で騒ぎ続けているモンキーさんの声を聞きながら、コトーさんの話に耳を向ける。

「まず麦わら帽子の能力は体がゴムになるわけだが、本人が能力を使用しようとしまいと、ずっとゴムのままなわけだ。つまり不意打ちで例えば銃弾を打ち込まれたとしても、本人の意志関係なく常時体がゴムなわけだから、銃弾は打った本人に返っていく。ここまでは分かるな?」
「はい。つまり死ぬまで体は本人が能力を使おうと使わないようにしようとか考えるまでもなく、一生ゴムのままって言うことです、よね?」
「そうだ。そしておそらくヒノデの能力も麦わら帽子と同じだと思っている」
「モンキーさんと同じ……」
「と言うよりも、血液という元々体の中で本人の意志関係無しに動いている血液に宿った能力を全く同じということはできないがな」

 確かに。と思う。血液って元々勝手に身体の中で働いていてくれているものだし――ん?

「あの、わたしの能力ってもしかして、私の意思関係なしに体の中で発動しちゃってるとか……」 
「勘がいいな。おそらくその傷の治りの速さもそうだが、折れた骨も既にくっついとる――厳密にはくっついとると言うより、血液が折れた骨と骨の間を凝固させて骨同士を繋ぎ止める役割をしている、と言う感じだな。実際腕を動かせているのがその証拠だ」
「え!? 骨くっついてないんですか! だって痛みも何も……」

 改めて自分の折れた方の腕を見るけれど、折れているようには思えないし、手を握ったり開いたりしても、腕を上下にさせても痛みは全くない。
 しきりに腕を動かしているわたしの疑問に答えるように、ドクターが続ける。

「恐らく痛みが無かったり、動かせたり出来るのは、元々体の中にある血液を使っているからだろう。勿論無理はいかんがな」
「な、るほど……」

 正直体の中がどんな事になっているのか分からなくて恐怖だ。固定されてると言う事は、接着剤みたいにくっついているとみたいな事の筈だ。改めて考えると凄く怖い。
 だけど私が自分の体にどれだけ怖がっていようとも、コトーさんの説明は続く。

「切り傷とかが治っている理由だが、血液と言うのは傷を治す役割を担っているのは分かるな?」
「はい。詳しくは分かりませんけど」
「まあ、傷を治す役割を知っているならいい。恐らく本来の悪魔の実の能力者じゃないものでも血液は傷を治す。なら血液の悪魔の実の能力者なら?」
「能力を使えば早く治る? ですか?」

 わたしの回答にドクターは首を横に振り、わたしを見つめ直す。

「本人の意志関係無しに体が傷ついた瞬間から自動で治療し始める」

 予想以上の能力に驚きそうになるけれど、思い出してみると、確かにトウシンさんを庇って怪我をした時、牢屋に入れられていた時、思い返せば勝手に血液が傷口を塞いでいた気がする。

「さっき、血液は体の中で本人の意志関係無しに動いていると言ったな。体を治すのも血液自体が自動で行っとる。ならヒノデの血液を操る能力が傷ついた体を治そうとしないのはおかしいんだ。推測だがおそらく血液に必要な栄養だけは外から食事などで取らなければならんが、普通の食生活さえしていればヒノデ、お前の体は毒は体内に入った瞬間血液が解毒し始め、体は傷ついた瞬間から血液が体のありとあらゆる細胞や神経に働きかけて治療し始める」
「それって……外部からの治療は必要ないって事ですか?」
「ああ、そうだ。多分牢屋での三ヶ月間もの生活も血液の能力の自己治癒力の高さのおかげだろう。まあ、最後の方は外部から取るべき栄養が少なすぎてうまく能力が機能しておらなかったようだが」

 ドクターの言葉に、漏れそうになる嗚咽を抑え込むように両手で口元を覆う。
 お祖父ちゃんがくれた悪魔の実が、私を救ってくれた。最初は人間が本来持っていない不思議な能力を与えられて、自分はもう元の普通の人間には戻れないって後悔したし、何でそんな事をお祖父ちゃんがしたのか分からなかった。だけど今なら分かる。
 お祖父ちゃんはわたしがこの世界に来てしまうことを見越して戦う力よりもわたしが死なない力を与えてくれたんだ。戦って名を馳せるよりも、何よりもわたしが一人でも何があっても命を繋いでいけるように。わたしに恨まれることになっても、わたしを守るために。
 元の世界に帰ったとしても、もう会えないお祖父ちゃんのわたしへの愛情に、両手の隙間から嗚咽が漏れる。ドクターはわたしが泣いている事にはもう気付いているのかもしれない。でも、わたしが泣いている事には何も言わずに、頭を撫でてくれた。

「世間一般的には決して良い能力とは言えんだろうな。だが、お前の体を守ってくれる能力だ。医者の立場からしたらとても良い能力だ。大事にしないさい」
「……はいッ」

 ドクター慰められながら、ゆったりとした時間が流れる。
 この力が無かったら生きていなかった。この力が無かったら戦えなかった。この力のせいでアーロンさん達に捕まったけど、だけどトウシンさん達を守ることが出来た。良いことも悪いこともあったけど、今はこの能力に感謝してる。
 お祖父ちゃんがわたしを生かすために与えてくれた悪魔の力が宿る果実に――。

 暫くわたしがお祖父ちゃんとの思い出を思い出して泣いていると、いつの間にか外の騒がしさが無くなっている事に気づく。ドクターもいつの間にか外が静かになったことに気づいたのか、わたしと同じくと外に繋がる扉を見ていると、ゆっくりと扉が開かれ、外から姿を現したのは思ってもいなかったけれど、わたしが一番アーロンさん達との戦いの後で気にかけていた人だった。

「ナミさんッ!!!」
「ヒノデ……!!」

 ナミさんもわたしに気づいたのか、ベッドの上で上半身だけを上げて座っているわたしに駆け寄ってきて、思いっきり抱きしめられる。抱きしめられて万全じゃない体は少し痛いけれど、そんな事気にしていられないほど嬉しかった。
 良かった。元気そうだ、幸せそうだ、本当に良かった。ナミさんに本当の笑顔が戻って。
 ナミさんから香ってくる蜜柑の甘酸っぱい匂いに、一度引っ込んだ涙がまた溢れてくる。

「良かったッ!! 目を覚ましたのね……!!」
「ナミさんも良かったぁッ!! ナミさん本当に、本当にッ!!!」

 良かった……!!
 最後の言葉は声にはならずに、泣き声に変わり、わたしの方に預けられているナミさんからも泣き声が聞こえてくる。アーロンさん達の戦いが終わってから泣いてばかりいるのに、それでも涙が枯れることはなくて、さっきお祖父ちゃんがわたしにくれた愛情を感じて泣いたというのに、再び涙は瞳から溢れ出して、ナミさんと一緒にお互いに生きて会えた事に喜びの涙を流した。

◇◇◇

 二回もドクターの前で泣くという失態を演じてしまって、正直本当に申し訳ないと思いながら、ひとしきり泣いて落ち着いたわたしは、横で魚人海賊団の証の刺青を消そうとしているナミさんを見ている。

「消える?」
「完全には無理じゃな。傷は残る。刺青っちゅううのはそういうモンじゃ」
「……うん。一生消せないのにね…」
「ナミさん……」

 テレビでしか聞いたことないけど、刺青と言う物は一度彫ると完全に消すことは出来ないとはやっていたけれど、ナミさんのアーロンさん達と仲間だった証と言うのが消えないという事実は、わたしにはどうしても納得できない。なりたくて仲間になったわけじゃないのに。
 悲しみとも諦めともつかないナミさんの心中をわたしには推し量ることは当たり前だけど出来ない。ナミさんはわたしよりもずっと長い間一人で孤独な戦いを続けていたんだから。
 かけるべき言葉が見つからなくて、押し黙っていると、さっきとは違い幾分明るい声がナミさんから聞こえてくる。

「ねえ、ドクター、彫ってほしい刺青があるんだけど」

 そう言いながらナミさんがコトーさんに見せた紙に書かれていたのは――。

「それって……」
「そ! みかんと風車。彫るならこれだと思って」

 ナミさんが見せた紙に書かれていたのは、風車と蜜柑が組み合わせられた可愛い刺青だった。
 何でまた新たに刺青を彫りなおすんだろう。そんな疑問が頭を掠めるけれど、聞いていいのか悪いのかわからなくて、もごもごと口を開くか開くまいか迷っていると、ドクターがわたしの疑問に意図せず回答をくれた。

「ノジコもナミも不良じゃな」

 そうか、ノジコさんにも刺青が彫ってあった。もしかしたら、わざわざもう一度体に刺青を掘るのはノジコさんにも彫ってあるから? でもノジコさんの刺青はノジコさんが彫りたくて彫ったんじゃないの? そんな疑問が頭の中に浮かぶと同時に一つの答えが浮かび上がる。もしアーロン一味の刺青を入れたナミさんを思って彫ったものだとしたら……。
 だから今ナミさんもきっと、自分のために刺青を彫ってくれたノジコさんの為に、今度は自分が彫るつもりなんだ。風車と蜜柑と言う、ノジコさんとゲンゾウさんをイメージした刺青をアーロンさん達の仲間だった証の上に上書きするように。
 ドクターが刺青を掘るための道具を取りに向かって行ったあと、わたしと並さんの間に穏やかな空気が流れ始める。
 あまりにも穏やかな空気に、どちらとも口を開くことなく終わるかと思ったけど、ナミさんが先に口を開いた。

「なんか、変な感じね。こうやってヒノデとゆっくり話せるなんて」

 しみじみというふうに、優しい口調で語られて、わたしも同じようにゆっくりと話し始める。

「確かに、そうですね。最初にあった時も二回目会った時も海辺でしたし、その後は塀越しでしたし」

 改めて考えても異常だと思う。海辺であった時はわたしは二回ともパニック状態のようなものだったし、その後は塀越しって……本当よく生きていたものだと思う。
 ナミさんもわたしと会った時のことを思い出したのか、軽い笑い声が聞こえてくる。

「ホントよね。基本海で会うか、牢屋で会うかの二択だったものね。普通ならこうやって部屋の中で会って話すのが普通なのに」 
「本当ですよね。それに明るい話とかした覚えも無いですし」

 確かに! そう言いながら二人で笑い合う。こうやってナミさんと二人で、もうアーロンさん達の恐怖も、ココヤシ村の人達の安全も、何のしがらみも考えないで笑い合う事ができるなんて本当に、夢みたいだ。これも全てモンキーさん達のおかげだ。やっぱりわたしなんか居ても居なくても状況なんか変わらなかった。むしろナミさんにもトウシンさん達にも、モンキーさん達にも迷惑を――。

「ありがとね、ヒノデ」
「え……?」

 何でお礼を言われるのか、お礼を言われる理由が見つからなくて、間抜けな声を上げてしまうわたしに、ナミさんは苦笑いを浮かべながらうつ伏せの状態の体を上げて、ベッドの上に座り直す。

「だから、ありがとうって言ってるのよ」
「何で……だってわたし、なんにも」

 出来なかったのに。そう続こうとした言葉は、ナミさんに鼻をつままれて口から出ることは無かった。目の前で私の鼻をつまんでいるナミさんの顔はどこか怒ったようで、わたしは何故ナミさんがそんな怒った顔しているのかが分からない。

「それ以上言ったら、いくらヒノデでも怒るわよ」

 そう、怒気を込めた声で言ったナミさんはゆっくりと鼻をつまんでいる手を離す。

「何も出来なかったとか馬鹿なこと言わないで。少なくとも、あたしはヒノデが居てくれたことに救われたんだから」

 絞り出すように告げられた言葉は、わたしの中では絶対にありえないと思っていた言葉だった。
 救われたなんてわたしにそんな事言われる筋合いはない。
 叫ぶようにわたしはナミさんの言葉に噛み付いた。

「だって、そんな、わたしそんな事言われるようなことしてません! 悪魔の実食べてて、それで、それで、更にナミさんとココヤシ村の人達の首を絞めるようなことしたのにッ!!! アーロンさん達との戦いだって、わたし何もしてない……。ルフィさん達の足を引っ張ったばっかりで」

 そうだ。わたしは本当に何もしてないんだ。足を引っ張るばかりで、皆の首をさらに締めるばかりで、状況をどんどん悪くなるような事しかしてない。疫病神みたいなものだ。
 本当になんて、情けなくて、弱いんだろう。出来ることなんて何もないくせに。
 思い返せば思い返すほど、わたしは状況を悪くするばかりで、ナミさんに何も返すことは出来なかった。
 もう一度わたしが自分のふがいなさを再認識して、謝ろうとしたとき、ナミさんが下を向いていたわたしの顔を無理矢理両手で上に向かせる。突然顔を上に向かせられたことで、改めてナミさんの表情を見ると、涙の膜を目に張ったまま起こった表情をした、ナミさんの姿だった。

「ふざけんじゃないわよ!! 何もしてないわけないじゃない! 救われたのよ本当に、私は救われたんだから……その私の気持ちまで否定しないでっ!!」
「……す、すみません……」

 ナミさんの剣幕に謝ってはいけないと思いつつも、謝罪してしまう。だって謝ったらわたしが言った自分の不甲斐なさを否定してしまうことになるから。認めなくちゃいけない自分の弱さを否定してしまうから。
 言いたいことは言い切ったと言う感じで、スッキリした表情のナミさんはわたしの顔から両手を外し、わたしに右手を差し出す。差し出された右手の意味が分からなくて首をかしげる。そんな私を見てナミさんは苦笑いを漏らした。

「私達ずっと歪な関係だったじゃない。初めて出会ったときから、アーロンパークが壊れるまで」

 疲れたような口調で話された内容にわたしも同じ気持ちを抱いた。確かに初めて会った時からわたしとナミさんの関係は歪だったと思う。特にわたしがアーロンさん達に捕らえられてからは。わたしの方は唯一わたしを対等に扱って、わたしの事を考えてくれていたナミさんに依存していたと言ってもいい。

「そうですね……本当に、歪でした」
「そう。でももうアーロン達の呪縛は無いし、ココヤシ村のみんなも大丈夫。だからもう遠慮することもないと思って」
「遠慮?」
「そ! 遠慮」

 ニコッと悪戯な笑みを浮かべたナミさんは、わたしに差し出した右手を少し上に上げてわたしに再び差し出す。

「――私と友達に、なってくれない?」
「え?」

 予想打にしていなかった、言葉……ううん、申し入れに、わたしは言葉なんかじゃないく、一音の単語しか発せなかった。何でわたしなんかと。

「言っとくけど、何で私なんかととか思ってたら殴るわよ」
「……よくわかりましたね」
「顔に出てる。あんたは少し自分を過小評価しすぎよ。ヒノデは自分が思っているよりも凄く強いんだから、もっと自信を持ちなさい、分かったわね」
「いや、それは――」
「わかったわね……?」
「はい」

 語尾に明らかに怒気を含めたナミさんの言葉に、間髪入れずに即座に返事をした。凄く怖い。アーロンさん達とは別種の意味で。

「それで友達になってくれるの、くれないの?」

 困ったように笑いながら未だに差し伸べられ続けている右手を見る。
 ――友達。それはこの世界に来てから絶対に作れないものだった。わたしはいつか元の世界に帰るべきだし、ここの世界の人とはトウシンさん以外関わるべきじゃない。そう思っているのに、差し出された手は何よりも大切な宝物のようで。

「わたしなんかで良いんですか?」
「私なんかじゃなくて、ヒノデじゃなきゃ嫌なのよ」

 嬉しい。こんなにも嬉しい事がこの世界に来て起こるとは思わなかった。突然この世界に来て、魚人族という元の世界では考えられない存在に奴隷のように支配された島に降り立って、唯一の希望といえばトウシンさんだけで、それでもそれだけでもいいと最初は思っていたのに――。

(ナミさんやロロノアさん達の関係に憧れた)

 馬鹿みたいで、叶いもしない、わたしみたいなこの世界の人間じゃない人が叶えちゃいけない願いなのに……特にナミさん達みたいなこの世界のおそらく中心としているだろう人達とは。そう思うのに、もうわたしの中ではこの世界は漫画の世界では無くなっていて、何より目の前でこうしてわたしが一番欲しかった物を差し出してくれているナミさん達を、わたしは物語の中の住人なんて考えられなかった。ちゃんと血が通っていて、傷ついたりする体もあって、なによりわたしを思ってくれている心があるのに、紙面の中の登場人物だなんて思えない。紛れもなく今のわたしにとってこの世界は現実で、そして目の前に居るナミさんはわたしの大事な人の一人なんだ。
 ダメだって分かってるのに、それでも――。

「わた、しも……ナミさんとお友達になりたい、ですッ!!」
「うん!!」

 固く握られた手からは、生きている人の温かみが私の手にも伝わってきて、駄目だと分かっているのに、嬉しくて嬉しくて、ナミさんの手を手放すことは出来なかった。


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