示された新たな道 死ぬつもりか? と言うゾロさんの口から出てきた言葉に、痛いくらいの沈黙が場を支配して、わたしの笑みが渇いたものから楽しそうな笑い声に変わったことで、ゾロさんが奇妙なモノで見たかのような顔して睨んでいる。 「おい……」 「大丈夫ですよ、死ぬつもりはありませんから」 そうだ、死ぬつもりはない。アーロンに斬られた人に殺されても仕方ないとは思ってるけど、少なくとも自分から命を終えるという選択肢は出来る気もないし、許されるわけもないと思ってる。 「たぶん、アーロンパークでパニックを起こしたことですよね? 大丈夫ですよ、大丈夫……」 大丈夫。そう自分にも言い聞かせる。実際、まだアーロンパークでの日々を思い出すだけで震えが止まらなくなるし、呼吸が苦しくなる。なによりアーロンが言ったあの一言、あれは一生忘れることはできないし、忘れるなんて許されない。わたしが死ぬまで背負っていくものだ。 「刀鍛冶なのに刀が人を斬るものだと思ってなかったのか?」 「……いえ、思ってなかったと言うより、考えないようにしていたんです。多分そうでないと、刀を打っていられなかった……んだと思います」 「よく分からねェな。刀は斬るもんだろ」 「はい、刀は……斬るものです。だけどなんて言うんでしょう、ちょっと説明しづらいんですけど、認識が甘かった……平和ボケしていたと言うか、その流れになったまま、刀鍛冶としての責任を背負おうともしないで、ナミさんの負担にならないように、ココヤシ村に危害が及ばないように、その為に仕方なくアーロン達に刀を打ってるんだって正当化しようとしてたんです」 自分の気持ちを話せば話すほどに、どれだけ他責思考で刀を打っていたからわかる。何も背負おうとせず刀を打っていた、わたしは一番大事な事を忘れて刀を打ってしまっていたんだ。 「刀を打ったことに関して、アーロン達を恨むつもりはありません。自分の命と、アーロンに刀を打つことで起こる事を天秤にかけて、わたしは、自分の命を取りました。刀鍛冶としての責任も、覚悟も背負おうとせずに」 静かに話を聞いてくれるゾロさんに、妙な安心感を覚えてポツポツとわたしもはなしを続けてしまう。慰めることも、責めることもしない、その優しさが今は痛いくらいだった。 「昔、刀鍛冶だった祖父に言われました……。刀鍛冶が出来るのは斬れる刀、折れない刀……守れる刀を打つ事だけだって。誰が持ち手になるか、何を斬るかは、わたし達は選ぶことはできない。なら、わたしがする事は願いを、想いを込めて、守れる刀を打つことだけです」 言いながら自分の両手に視線を落とす。女の子の手とは思えないほど逞しいものになっていた。指は女性特有の細さも繊細さもなくて、節くれだっていて太い。手のひらも薄さは消えて分厚さばかりが際立っている。極め付けは何度も潰れたマメや槌などの道具や刃を扱って出来た傷跡が手のひらや甲で目立っている。とても十代の女の子の手とは思えなかった。正直汚いまである。強いて、本当に強いて言うなら、手の大きさくらいかも、女の子らしいところは。 グッと女の子のカケラも無くなった両手を握りしめる。もうわたしは引き返せない。 「覚悟はもう決めました。それに、わたしはどこまでいっても刀鍛冶だと、あそこに居て思いました。渾身の刀が出来た時嬉しいと、心底歓喜してしまいました」 あの日々でおかしくなっていたのは否定できないけど、それでも渾身の刀が打てた時の高揚感は、多分、嘘じゃなかった。わたしはもう骨の髄まで、刀鍛冶と言う職に囚われてる。 「祖父は、一度でも刀鍛冶として刀を打ったのなら逃げる事は許されない。業も罪も背負って、願いを、想いを込めて、刀を打ち続けるんだと、そう言ってました」 大きく深呼吸して、一呼吸おいて続ける。 「今逃げたら、数多くの刀鍛冶を……祖父を、アーロンパークで刀を打っていた刀鍛冶の方を否定する事なります。それだけは嫌です、出来ない……すみません、やっぱりわたしは、自分勝手ですね」 どこまでも自分本位な自身にゾロさんの方を向いて、自嘲的な笑みが溢れる。ゾロさんは何かを考えるように口を開いて、数秒おいた後、話し始めてくれた。 「別にいいんじゃねェか? むしろ背負すぎだと思うけどな」 「そうですか? だって人を……斬る、刀ですよ」 「それ言い始めたら、極端な話、堅気が仕事で作った銃や銃弾が人を撃つたびに、銃を作った堅気にも罪があるってなるのか? 考えすぎなんだよ、そんなもん言い出したらキリがねェ。結局使う側がどう使うかの問題だろうが、まあ、ただ……」 少しだけ間を空けて、ゾロさんの視線が泳ぐように一度揺らいだ後、わたしの方に顔を向けてくれる。 「ヒノデの刀鍛冶としての覚悟も、筋の通し方も嫌いじゃねェ。何でもかんでも背負い過ぎだとは思うけどな。」 予想打にもしなかったゾロさんからの言葉に、きょとんとしてしまうが、じわじわと言われたことが体の中に染み渡る。人によっては馬鹿にされかねない、わたしの覚悟を、まさかゾロさん、特に刀を扱う人に認めてもらえるとは思ってなくて、嬉しさが心に雪のように降り積もる。 「あ、あり、がとう……ございます……」 滲み始めた視界では、ゾロさんの姿をうまくとらえることはできないけど、今にもこぼれそうな涙を耐えて、引き結ぶ唇に笑みを浮かべる。きっと不細工な笑みだったと思う。 「ありがとう、ござい、ます……そんなこと、言ってもらえるなんて思ってなかったので……」 「別に……本当の事言ってるだけだ。普通ならアーロン達の事恨んで当然だろうが、それに対して恨みもしないところも含めてな」 涙をぬぐう中で、濡れた視界の中で見えるゾロさんは、恥ずかしそうに後頭部を掻いていて、それがまた、関わり合いなんて殆どないのに、らしいなって思ってしまって余計に笑みがこぼれてしまう。 恥ずかし気に後頭部を掻いていたゾロさんは、座っていた両足の太ももを両手で叩くと、立ち上がる。 「行くか」 「あ、はい」 宴会に戻るのかな? と、立ち上がったゾロさんを見上げていると、こちらにゾロさんの片手が差し出された。どうしたんだろう。 「何してんだ、行くぞ」 行くぞ? ってもしかしてわたしも? まさか一緒に行くとは思ってなくて、手を取るか戸惑っていると、痺れを切らしたゾロさんが、溜息を吐きながら、わたしの二の腕を掴んで引き上げてくれる。 「わっ!!」 いきなり立ち上がらせてもらった体は、体制を整えられる時間はなくて、ゾロさんに軽くぶつかってしまう。慌てて離れようとしたけど、ゾロさんが二の腕を掴んだままのせいで、少ししか距離は開けられなかった。頭一つ分くらいの身長差があるせいで、目の前に鎖骨周辺がくるから、目のやり場に困る。 「ご、ごめんなさい!」 言外に掴んでいる手を放してほしいという意味も含めて、ぶつかったことを謝罪したけれど、むしろゾロさんの腕を掴む手はなぜか少し強くなっている。 「お前、やっぱり体調悪いのに病院抜け出してきたな?」 「いや、あの……この前よりは、元気? ですよ」 「疑問形になってんじゃねェか」 うう……何を言っても怒られる気がしてならない。と言うより既に怒っている気がする。表情は怖くて窺えないけど、頭上からの圧がすごい。 「大人しそうな見た目して、その異常な行動力はなんなんだ」 呆れたような物言いに、反論する言葉がない。自分でも無茶している自覚はあるから。 「とにかく行くぞ。今頃病院抜け出したお前を探してるはずだ」 「え? あの……」 二の腕から外された腕は、今度は右手首を掴まれて、引っ張られる。そんなに強い力で掴まれているわけではないけど、突然引っ張られたことに、申し訳ないけどまたゾロさんの背中にぶつかる。 「……歩くの辛いのか?」 「いえ、大丈夫です。何回もすみません」 何かを考えるように、顎に手を当てるとゾロさんはわたしの方に目を向ける。 「背負うか?」 「大丈夫です」 間髪入れずに答える。背負われるのは絶対嫌だ。いま、手首を掴まれているのも恥ずかしいし、何より近くにも居たくない、できれば。ゾロさんが嫌いというよりも、あの……わたし結構長い間お風呂どころかシャワーすら浴びてない。もしかしたら治療の時にドクターか誰かが体を拭いてくれたかもしれないけど、それでも嫌だ。いくら体を拭いてあって、消毒液の匂いが強かったとしても、まともに体を洗えてない状態で誰かと身体的接触? はしたくない。流石に一人の女の子として。 納得のいかない様子のゾロさんの右手がわたしに伸びてくる。 「熱いぞお前。熱もあるだろ」 「うぅ……あの」 触らないでほしい。顔もガーゼと包帯まみれのせいで、素肌が出ている面積自体がすくないせいか、ゾロさんは一度考えるように手を動かした後、包帯もガーゼも無い右頬に手の甲を添えてきて熱を測られる。冷たくて節くれだって乾燥した手の甲が、まだ少し熱を持った頬をじんわりと冷やしてくれて気持ちいいけど、同時に別の意味で熱も上がっている気がする。 「おい、本当に大丈夫か? 顔真っ赤だぞ」 「だいじょうぶ、だいじょうぶですから……」 顔真っ赤なのはゾロさんのせいですよ! そう文句を言いたい。こっちの世界の人のパーソナルスペースどうなってるの? 心配してくれているのは分かるけど、恥ずかしい。 ゾロさんの手から逃げようと、一歩後ろに下がる。右手首を掴まれているから、そんなに距離は取れなかったけど。 まだ全然納得はしてくれた様子はなかったけど、頑ななわたしの様子にこれ以上言っても無駄だと思ったのか、呆れた様子を一切隠しもしてくれなかったけど、再び歩き出してくれた。 「なら、早く病院に戻るぞ。ここで押し門答していても意味がねェ」 「す、すみません……」 「いちいち謝んな」 「すみま──ありがとうございます」 謝罪が口から出ようとした瞬間、振り返ったゾロさんにその鋭い目で睨まれて、慌てて謝罪の言葉を止めて感謝の言葉に変える。すみませんが、ありがとうに変わったのに満足したのか、笑み……笑みというにはちょっと失礼だけど凶悪さが残るけど、笑みを浮かべて宴会の楽しそうな音が響いてくる場所へと向かっていく。 「怒られますかね……」 「逆に怒られないとでも思ってんのか?」 「いえ、怒られそうだな、とは思ってます……」 「お前……本当後先考えてないな」 弁解の余地もありません。終始わたしに呆れているのか諦めているのか、疲れた様子を隠そうともしないゾロさんに、心の中で謝罪する。沈黙が嫌で話しかけたけど、これは話しかけない方が良かったかも。 「人畜無害です。みたいな顔しといて、見た目詐欺か?」 「見た目詐欺……」 見た目詐欺なんて初めて言われた。いや、見た目詐欺って何。 わたしの体調を考えてか、ゆっくりとした歩調のゾロさんに相変わらず手首を掴まれたまま歩いていくけど、若干お説教されてる気がしなくもない。 「大怪我で病院抜け出すわ、うちの船長押し倒して剣突きつけるわ、首に刀突きつけられても引かねェわ……狂犬かよ」 「狂犬……」 狂犬って……見た目詐欺より酷い。流石に一人の女の子としてショックを受ける。……待って、今ゾロさん船長って言った? 「あ、あの……今船長って」 「あァ? ああ……知らなかったか、ルフィだよルフィ。うちの船の船長はルフィだ」 やっちゃった。よりにもよって一船の、ましてや海賊団の船長さんに剣を突きつけるなんて。じゃあ、キャプテンウソップって言っていたウソップくんは何? どういう役職なの? 何も聞こえてこないのを不審に思ったのか、ゾロさんが歩きながらわたしを振り返る。疑問と困惑、そして申し訳なさそうな表情でもしていたのか、合点がいったというような表情をして続ける。 「ルフィが船長、ウソップが狙撃手、あのぐる眉がコックで」 ナミが航海士だ。と続けた。ナミさんが航海士……そうだ、ナミさんは? 「あの、ナミさんは……怪我とかは」 「ナミ? まだ会ってないのか? ナミは無事だぞ、アーロン達はおれ達が倒したしたな」 ちょっと自慢気に笑みを浮かべながらいうゾロさんに、大人っぽい見た目してるけどもしかしてそんなに年齢は変わらないのかな? 色々ありすぎて今の今までココヤシ村が無事だからと、安心していたけど、ナミさんは肩を怪我していたから、ゾロさんの口から無事を確認できてよかった。わたしはアーロン達との戦いの途中で気を失ってしまったから。 改めて考えると情けないな……わたし。自分からアーロンパークに行って見届けるとか言っていたのに、アーロンの一言でパニックを引き起こして……結局最後まで皆さんと、ナミさんと一緒に最後まで居ることができなかった。 「ナミが心配してたぞ。何回か様子を見に来てたみたいだしな」 「ナミさんが?」 今回はこちらを振り向かずに教えてくれる。 「友達なんだろ? なら、心配して当たり前だろうが。それにヒノデを連れ出せって言ってきたのも──」 突然途中で会話を止めたと思ったら、そのまま歩む足まで止めてしまったゾロさんに、今度はぶつからないように慌てて立ち止まる。 「あの……ゾロさん?」 どうしたんだろう……もしかして傷が痛むのかな? わたしよりも遥かに元気そうだけど、半年は普通なら動けない体だって言ってたし、むしろわたしの方が怪我は軽いかもしれない。 心配になって声をかけようとする前に、ゾロさんが眉根を寄せて、決まりが悪そうな顔をして窺うようにしてわたしを見る。え? なに……。 「ヒノデ、お前……あー……アーロンパークから連れ出された時の事、覚えてるか?」 「あの、急にどうしたんですか?」 アーロンパークから連れ出してもらった時? 本当に急にどうしたんだろう。 急にアーロンパークからわたしを連れ出してくれた時の事を話し出すゾロさんに、首をかしげる。正直アーロンパークに囚われていた時の事は思い出したくないし、話したくないんだけど。 「もしかして……わたし何か変な事してしまいましたか? 覚えていなくて申し訳ないんですが、何かしてしまっていたなら、すみません」 「いや、覚えてないならいい」 「でも、もしわたしが何か、ゾロさんに不快なことをしてしまっていたら……」 「何もされて無ェから安心しろ。それに覚えてないんならいい」 でも、と食い下がろうとしたわたしに、ゾロさんは前を向きながら「いいって言ってんだろ」とこれ以上話すことはないみたいに言われてしまったら、もう何も言うことはできない。でも本当にわたしが何かしてしまっていたんなら申し訳ないんだけどなぁ。 もう何も聞くなとでもいうように、再び歩き始めたゾロさんに引っ張られるようにつられて歩き出す。宴会の音頭が大きくなってきて、ココヤシ村に近づいて行ってるのが分かって、気持ちが重くなる。考えなしに出てきちゃったけど、よく考えるとゾロさんの言う通り、わたし色んな人に心配かけてる。 気持ちに比例して重くなっていく足は、手首を引っ張られているせいで止めることも、引き返すこともできなくて、処刑台に連れてかれる罪人のような気持ちで歩いていく。絶対すごく怒られる。 怒られる覚悟を決めながら、ゾロさんと一緒に歩いていると、前から突風でも吹いているのかという勢いで、砂埃を撒き散らせながら誰かが走ってくる。 「めんどくせェ」 「あれって……」 サンジさんだ。 「こんっのクソ剣士――――っ!!!! 誰の許可を得てヒノデちゃんと手をつないでやがる!!!」 弾丸のように走ってきたサンジさんは、オラァッ!!! という掛け声と共に、蹴りがゾロさんめがけて飛んでくる。そのサンジさんの蹴りを、わたしから手を離したゾロさんが腰に差した刀を鞘ごと抜いて受け止めていた。あー……鞘で受け止めないで欲しい。鞘が痛むし壊れちゃう。あと手は繋いでないです、サンジさん。と言うかサンジさんのも大怪我だったはずじゃ。 「宴会に居ねェと思ったら……抜け駆けか!? このマリモ野郎!!!」 「お前と一緒にすんじゃねェ! このエロコック!!!」 目の前で繰り広げられる喧嘩とは思えないほど激しい二人のやり取りに、オロオロと止めるべきかどうかお二人の傍で右往左往としてしまう。 「や、やめてください……!! お二人とも怪我してるんですから、穏便に! 穏便にお願いします!!」 落ち着いて、と両手でジェスチャーしながら、お二人に必死に声をかけると、サンジさんの方が、ゾロさんの持っている刀に足を掛けながらも、一旦は止まってくれたものの、次の瞬間には目にも止まらぬ速さで、わたしの前に王子様のごとく跪いていた。左手までもプロポーズのごとく優しく握られていて、まさかの展開に慄いてしまう。い、いたたまれない……そう言うのはナミさんとか綺麗な人にやって下さい。わたしにやっても、その美しい所作は宝の持ち腐れです。あと、あんまり近づかないでほしい……!! お風呂入ってないんですよわたし! 「見苦しいところを見せてごめんね、プリンセス」 プリンセス……これが元の世界の同級生がやっていたならふざけてるのかな? とか、罰ゲームかなとか思うけど、なまじ金髪のスーツ姿とハスキーな低い声もや相まって、王子様と言うか騎士と言うか所作が似合い過ぎていて、さっきのゾロさんの時と同様に体の熱が上がっている気がする。絶対今顔真っ赤になってる。もしかしたら顔以外も。視界の端に映るゾロさんは引いた顔してるけど。 「あの、大丈夫なので……手、手離してください……わたし今、汚いので」 「汚い!? そんな事ないよ、とても可憐だ」 「いや、あの……」 お風呂入ってないんですって。立ち上がってわたしの右手を両手で持ち直して笑顔を浮かべるサンジさんに、どうすれば手を離して距離を置いてくれるのか。打開方法が分からなくて、助けを求めて近くにいるゾロさんに目を向けようとした時、突然視界がブレたと同時に、二の腕を強く引っ張られた。引っ張られて当たらなかったけど、横を目の前に立っていたサンジさんを巻き込んで、何かが後方にミサイルのごとく飛んで行った。 「あ、ありがとうございます」 飛んできた何かにぶつからないように、腕を引っ張ってくれたゾロさんの顔を見上げてお礼を言う。何でもないことの様に、こちらを見ず気にすんなと言ってくれたゾロさんに倣うように、何かが飛んで行った方向に視線を向ける。サンジさんも一緒に飛んで行ってしまったけど大丈夫なんだろうか。 飛んで行った方向では、サンジさんが座り込むルフィくんに踵を落としていた。怪我がないようで良かったけど、結構な勢いで飛んで行ったのに何で無事なんだろう。普通大怪我だと思うんだけど……この世界の人達頑丈過ぎじゃないかな。あとルフィくんってどうやって飛んで来たんだろう。 疑問が疑問を呼ぶ中、ココヤシ村の方からウソップくんの「お〜い!」という声も聞こえてきて、もしかしてゾロさんを探していたのかなと、申し訳ない気持ちになる。わたしが怪我をしているからゆっくり歩いてくれていたんだろうし。 どうするのが正解なのか分からず、成り行きを見守っていると、サンジさんに怒られているルフィくんがわたし達に気づいたのか、満面の笑みで近づいてくる。ルフィくんの笑顔は眩しいな、こっちまで笑顔になっちゃう……そう言えばわたしルフィくんって呼んでるけど、一船の船長さんをくん付けって良くないよね? 徐々に声が近づいてきてることが分かるウソップくんの事もくん付けで呼んでるし、同級生と話す気安さで話してるけど、多分ダメだよね。親しみやすいから普通に話しちゃってるけど。 心の中で自分の失態に、頭を抱え込む。 「ヒノデ見つけたなら言えよゾロ!!」 「見つけたなら言えって……そんなこと言ってなかっただろうが」 見つけたって事はわたしに何か用があるのかな? 着やすい態度で話すなとか言われるのかな……そんなこと言うような人たちではないと思うけど。こっちに向かってきていたウソップくんも合流して、ルフィくんに置いて行ったことに文句を言っている。海賊の船長ってこんな対等って言うか、文句とか言われていいものなのかな……謎だ。 目の前で繰り広げられる漫才ともいえるやり取りに、眺めていることしかできなかったけど、ルフィくんがわたしに視線を向けたことで、強制的に終了する。相変わらず太陽のような晴れやかな笑みを浮かべたまま、遠慮なく距離を詰められ、逃がさないとも言うように両肩を掴まれて、なるべくルフィくんから離れようと背中をのけぞらせる。本当に近づかないでほしい……絶対わたし臭いから。あと、恥ずかしいから近づかないで。 「ヒノデは刀鍛冶なんだろ!」 「ええ……はい、そうですけど、それが」 なにか? と言う前に両肩を前後に揺らされて、言葉は続かなかった。き、気持ち悪い……勢い良く揺らされたことで、視界も脳みそもシャッフルされて、まだ熱が少しある体にはきつい。 「おい、やめろルフィ! そいつ目回してるぞ」 「そうか?」 ウソップくんの呆れたような静止に、ルフィくんもやっと揺らす手を止めてくれたけど、中々気持ち悪さは消えない。口元を片手で覆いながら、相変わらず両肩を放してくれないルフィくんから、なるべく距離を取りながら口を開く。 「あの、わたしに何かご用ですか?」 「おう! ヒノデは刀鍛冶で、海に出るつもりなんだろ?」 「誰から、その事」 「トウシンってじいさんから聞いた! にしし」 嬉しそうに笑みを浮かべるルフィくんに、トウシンさんが何故わたしが何故海に出ようとしているのかを言ったのか考える……まさか、トウシンさん。 「一緒に海賊やろう!!! 仲間になってくれよ!!」 もしかしたらとは思ったけど、考えもしなかった言葉と、目の前に新たに出来た選択肢に、心が震えたのを感じた自分に絶望して、ルフィくんの顔が見れなかった。 【 章一覧|TOP 】 |