シンプル
山姥切国広
本丸に来て初めての仕事は主の性欲処理だった。
鍛刀されたとたん、初期刀で始めてきた刀の世話をしている加州清光からここの本丸の"決まり事"を説明された。そしてそのまま、有無を言わせず主の寝床に放り込まれたのだ。
夜伽を知らぬわけではない。だからこそ最初は耳を疑ったさ。まさか自分が人間の姿になってはじめての仕事が夜伽だとは思いもよらなかったからな。
……まあしかし、よくあることだ。家族の安泰のために大名家に娘を嫁がせたり、仕事を円滑に進めるために女に夜の世話をさせたりすることは、昔からずっと。
その役が写しである俺に向けられただけのこと。だからそれを悲観するわけではない。
写しの俺にはこういう汚れた仕事がお似合いだろう。そうだ、俺が写しだからだ。だから仕方がないんだ。
だから今、俺が夜、主の前で畳に頭を擦り付けているのも仕方のないことなのだ。
「そろそろ、頭をあげて何か言ったら? 私が悪大官みたいじゃない」
先程まで楽しそうに俺を見ていた主が、しびれを切らしたのか口を開いた。その声の調子からも今の状況を楽しんでいることは感じられた。
俺の主人は寝巻き姿で布団の上に寝転がっている。まるでいつでも準備はできてますよと言うように。
審神者というものは、どこの審神者もこういうものなのだろうか。それならば、審神者というものはなんと下品なものなのだろう。
なるほどたしかに主は悪大官だ。そう考えていたら本人が「ま、似たようなものかあ」と言いくつくつ笑った。
「ねえ山姥切国広、貴方って面白い目をして私を見るのね。私のこと軽蔑してる目だわ」
「…………」
「山姥切、顔をあげて。聞けば、貴方自分にコンプレックスを持っているそうじゃない。どうして?」
…………。
言おうか言うまいか迷った。
出会ってまだ半刻も経っていない。ろくに話もしてないくせに、よくそんなことが言える。
本当にこの主は下劣だ。
だが、彼女が俺の主人であることに変わりはない。(会ったことはないが)へし切り長谷部ではないが、主人の命令は絶対だ。
さんざん悩んだあげく、俺はゆっくりと言葉を繋げた。
「……俺は写しだ、本物の刀のな。写しだから、いろんな奴の手に渡り、雑に扱われたり、こうやって……」
「夜伽を手伝わされても当然、そう言いたいわけか」
俺は返事をしない代わりに無言で返した。
くつくつと主が笑う。何がそんなにおかしいというのだ。
「ねえ、山姥切」
主が一歩、近づいてきた。反射的に身を引いこうとしたが、主は俺を逃がさず、あごに手を当てたかと思うとそのまま俺の唇と主の唇を重ねた。
「!!」
数秒ほど時が止まったかのように感じた。俺も主も、ぴたりと動かなかったから。しかし、やがて主のそれは離れていき、また角度を変えて押し付けてきた。
「…っふ……ん、く……」
何度も何度も、同じことをされる。
呼吸がままならない。抵抗しようにも、はじめてのことに混乱して思うようにからだが動かない。
唇が柔らかくてくらくらする。息ができなくて苦しかったせいもあるかもしれない。だんたんとなにも考えられなくなっていった。そのとき、生暖かいものが口のなかに侵入してきた。それは乱暴に口の中をかき回す。口内を犯されながら、俺はゆっくり押し倒された。
ああ、俺はこれから写しの役割を果たす。頭のどこかでそう考えた。
「初めてのキスはどう? 今ね、とってもいい顔してるわよ、山姥切」
主は笑った。目に嫌な光を宿して。
俺は離された唇をおさえ、ゆっくり息を整えた。
体が熱い。頭もおかしくなっている。物事が深く考えられない。
「ねえ山姥切国広。私ね、本物とか、写しだとかどうでもいいの」
主が俺の下半身に触れた。全く油断していたので、驚いてびくりとからだが跳ねてしまった。
下がいつの間にか脱がされている。服は布団の外に乱雑に放り投げられていて下半身が丸見えだ。
主は俺の陰部を掴みながら、「他の審神者みたく、貴方が好きだとか人格の話じゃなくてね」と続けた。
「相手が男ならココさえあればどうだっていいのよ。金持ちだろうがクズだろうが人間じゃなかろうが。チンポをズポズポできて気持ちよくなればそれで」
きゅっと、主が手を強く握りしめた。
体がぴくりと跳ねる。
なんだ、今の。体験したことのない感覚だ。
「っあ……ちょっとまて!」
「国広の気持ちいいところはどこかなー? ここかなー?」
「くあっ……!」
細い指で先を刺激される。陰部を通って頭が快楽を訴えている。あまりにそれがすごいので、大きくのけぞってしまった。
「あはっ、皮を被った童貞チンポは剥いてあげないとねぇ」
「ひっ……」
主の言っている意味はわからなかったが、その物言いや顔からして、本能が危険信号を出した。
やばい。一刻でも早く逃げなければ、戻れなくなる……!
しかし、からだがついていかず、俺は主のなすがままにされてしまった。主が手に力をいれ陰部を勢いよく掻いた。その瞬間、陰部の先っぽがぷるんとあらわになった。
「う……あ……」
「きゃははっ。きれいに剥けましたー、なんてね」
主の手がそこをつんと弄る。するとさっきよりも激しい快楽に襲われた。
あまりに気持ちがよすぎて、腰が抜けてしまうくらいだった。ああ、これではもう逃げることは不可能だ。
主は休むことなく陰部をいじった。からだが熱くなる。何かが、身体中から沸き上がってくるようだ。
「……っ?」
そのとき、俺は違和感を覚えた。
何かが、沸き上がってくるなにかが陰部に集まってきている気がする。そしてそれが、今出ようとしている気がするのだ。
尿意? いや、違う。なにかもっと、別の……。
「主!主! 手をどけろ! 出る、何か出る!」
「あら、もう出ちゃうの。いいわ。くっさいザーメン手にぶちまけていいから、かわいいアクメ顔見せてよ」
「っ……あ……!」
きゅうと、主がさらに陰部をきつくつかんだ。そればかりか、その手を激しく上下に動かし始めたのだ。
違う、俺の求めてるのはそんなんじゃない!
さっきのいじり方でも限界が近かったのに、そんなに激しくされたら……我慢の限界だったのに!
……ダメだ。出る!
「あ、あああああっ[V:8252]」
一気に頭が真っ白になった。それと同時に、尿でないなにかが尿道から出てくる感覚。
それが属にいう精液だとわかったのは、射精してしばらくのことだった。
「あはははっ! 出しちゃった。くっさいザーメンたぁーっぷり。キャハハハッ」
主は手にたっぷり俺の精液を受けてそれを弄んでいた。べったり両手に付けて舐めとっていく。
精液というものを口に含んだことはないが、少なくとも食すものではないということは知っているし、あんな生臭いものを美味しそうに頬張る主の気がしれなかった。
……人間は全員こんなものなのか? ただ俺が知らないだけで?
わからない。
わからないが、なぜだろう、俺から出た体液を頬張る主を見て、からだの奥が熱くなっている。
「山姥切、全部脱いで」
そう言って主は俺の服を全部脱がせた。それから、自分の服も脱ぎ捨てる。
「山姥切国広、これからが本番よ。さあ、私を満足させてよね!」
主が俺の上に股がった。目が今までで一番ぎらついてる。まるでこのときを待っていたかのように。いや、実際待ち焦がれていたのだろう。
ぴたりと俺の陰部と彼女の陰部をくっつけると、一気に腰を落とした。
その瞬間、今までにない快楽が俺を襲った。
「うわああっ!」
思わず声をあらげてしまう。
主がさっきやっていた愛撫とは段違いの快楽が、突然やってきたのだ。
「んっ……」
「あ、主、これは……?」
「これが本当のセックスよ。あなたも知ってるでしょうに、もしかしてあんまり気持ちがよすぎて頭が回らなくなっちゃった?」
すでにとろけた顔をした主が笑って言う。
「きゃははっ、いいわよ山姥切。交尾慣れしてないその顔最高!」
主は、舌を出しながら狂ったように腰を揺らす。彼女が上に下にと動くたび、豊かな胸が激しく踊った。
「ん……あ……んはぁ……ほら、山姥切も腰動かして」
汗だくになりながら、主はぴたりと動きを止めて言った。
……腰を動かす……?
腰を動かすというのは、主みたく、腰を上下させればいいのか?
「っ!!? そう、そうよ!あははっ、私の中に、チンポを打ち付けるようにするの!」
俺が腰をめいっぱい突けば突くほど、主は気持ち良さそうに喘いだ。
それは俺も同じだ。自分で腰を動かせば動かすほど、どんどん気持ちよくなってくる。もう、主が止めろと言っても止めないだろう。
「山姥切っ、国広、気持ちい?」
「っ……」
話す余裕がなかった俺はこくこくと頷くことで精一杯だった。
「あ、主は……?」
「ん?」
「主は、気持ちいのか……?」
「気持ちいいわよ。気持ちよすぎて、おかしくなるくらい」
主の顔が近づいてきたかと思うと、唇と唇が重ね合わされた。
主の柔らかい唇が何度も押し付けられる。気持ちがいい。そのたびにくらくらした。下からせり上がって来る快楽も、接吻するたび増していってる気がする。
「あ、主……」
やめないで欲しい。いや、それどころか、もっと欲しい。
一番はじめの嫌悪感は、とうにどこかに行ってしまった。
今は、ただ、主を……!
「あるじっ、あるじっ!あるじ……!俺、もう、もう……!」
俺がそう伝えると、主が一瞬、ほんの一瞬だけど、優しく笑った。
その笑顔ひとつで、俺は緊張の糸がプツリと切れ、まるでそれが合図とでも言うように陰部に溜まった欲を主の膣内にぶちまけた。
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「主……主……」
「ん、山姥切、そこ、いぃー……」
「んちゅ……はぷ……ちゅ……」
「んあ……」
主の股を、狂ったようにしゃぶる。
主もそれに狂ったように答えてくれる。
それでいい。
写しの俺でも彼女はいいと言ってくれた。この形でなら、俺は写しではなく、ただの「山姥切国広」となれるのだ。
ならばどうして、どうしてこれを拒むことがあろうか。
体だって求めてるんだ。お互いが満足できる、最高の行為だ。
主が俺を認めてくれた。だから俺は、全力でそれを、愛撫という形で、表現するだけだ。
「あ……ふふっ。山姥切、もっと、やって……んっ……」
「ん……」
主が、頭をつかみ自身の秘部へと押し付けた。
もっと強くしろ、という合図。
もちろん俺はそれに答えた。
もっと、
もっともっと、
もっともっともっと、
主が気持ちよくなるように……。
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