GUNDAM
my fake
「ただいま、姉さん」
少し高い、ねっとりとした声が私の鼓膜を響かせる。
私は読みかけの本を閉じ、声の主に「おかえり」と返した。
「けがはなかった?二人とも」
「もちろんだよ、姉さん」
「私とオルバが怪我をするはずがないだろう」
オルバの後ろから、彼の頭一部分くらい背の高いシャギアが顔を覗かせた。
オルバならともかく、シャギアほどの身長となると、少し低めに作られたこの家のドアに当たってしまい、頭の半分は見えなくなってしまう。
「そんなこと言って、この間は頭に大怪我したくせに」
本を机に置いて、シャギアたちのほうを向くと、シャギアが申し訳なさそうにまゆを垂れた。
「あのときは本当に申し訳なかったと思っている。姉さんにも、……オルバにも」
「姉さんは僕らと違って意思疎通ができないからね」
意思疎通ができない、それはお互いの状況が極端に判断できにくいということだ。少なくともこの双子はそう思ってる節があるらしく、どうも自分達がすべてを把握していないと安心できない性分らしい。
「だが、もう少し心配して欲しかったな。私としては」
シャギアが私に近づき、ひざまづいて膝に置いていた手を取った。唇につくかつかないかの所までその手を持っていく。
オルバも、シャギアに続くように私に近づき後ろから細い腕を私の首に巻きつけた。
「そりゃあもう、ご飯がのどを通らないくらいは心配したわよ」
唇まで持っていかれた手を、また開いているもう片方の手を、彼らの頬まで持っていった。
「でも、あなた達はこれくらいでは死なないだろう、って思ってたから」
にこりとふたりに微笑みかけると、ふたりとも満足そうに口をあげた。
私は、彼らに幽閉と言ってもいいくらいの扱いを受けている。
この家から一切出ないように、とふたりから硬く約束させられているのだ。
その代わり、家ではとても優遇されている。家では何をしてもかまわないというし、ふたりからはプリンセスのような扱いをされている。
つまり、彼らが私をここに縛り付けておくのは私が大事だからなのだ。
「………私も外に出たいわ。病気になっちゃいそう」
オルバに触れていた手を、頬から下あごまで持っていく。するとオルバは甘えるようにさらにきつく抱きしめ、顔を近づけてきた。
「だめだよ姉さん。姉さんは僕らにとって大事な人なんだから」
「私達にとって、姉さんはお互い意外に唯一大切な人だ。だから少しでも、傷ついてしまったら私達は深く悲しむ」
彼らはお互いを見てにやりと笑った。
「そうだよ、姉さんは新しい時代のイヴになる存在なんだから」
「我々の時代の……な」
きっとふたりだけの、ふたりが確認を取るために言ったセリフなんだろう。
少し、芝居の掛かったセリフ回し。
私は、片腕でオルバの顔を包み込み、もう片方の手でシャギアの頭を自分の太ももにうながした。もちろんふたりとも抵抗することなくそれを受け入れた。
このふたりは、好きだ。
でも、私は、本当はふたりの姉ではない。
ただ単に、施設にいたときにふたりより歳を重ねていただけで、血のつながりは一切ないのだ。
それをふたりが理解しているのかはわからない。なんとなく、それを確認するのはいけないような気がした。
ふたりは自分達でも言ったように、お互い意外には私しか心のよりどころがないのだ。私はふたりが好きだし、大切だから、この関係を壊したくなかった。
そしてなにより、私も、もう彼等なしでは生きてゆけないのだ。
「すき、だいすきよ、ふたりとも」
肌でふれあい、お互いを感じながら、お互いを確かめ合った。
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