GUNDAM

虜にしてみせて


ああまただ。


どろどろとした感情が体を支配して、胸が締め付けられる。


手足が、頭が、ちりちりと熱い何かで痺れる。


なんで。


なんで、


僕意外の人にそんな顔をするんですか……?







………スイさん」




電気の付いていない、薄暗い部屋で、ロランはスイをベッドに押し倒していた。


彼女の服装は、うすいキャミソールにカーディガンを纏っただけのものだった。今は、ロランの手でカーディガンは半分はだけている。キャミソールも肩の紐が今は腕まで来ていた。

あと一歩、ロランが彼女を激しく動かせば、彼女の豊かな体が露になるだろう。


しかし、スイがもう、大人であるためか、ロランより彼女の方が身長が高いため、その気になれば彼をむりやりどかす事もできるのだろう。スイの顔にあせりは見えなかった。


それどころか、余裕すらあるように見える。


それが、ロランの何かをさらに奮い立てた。


「僕の知らない顔をしてた。グエンさんの前で、貴方は無邪気に笑ってた。僕といるときのスイさんは、いつもはかなげで、優しく笑うのに」


ぎゅ、と、思わず手をきつく握り締める。


「どうしてなんですか?どうして、僕にはああ笑ってくれないんですか?僕は……貴方にとって…一番じゃないんですか……?」


搾り取るような声だった。ひとつひとつ、懸命に取り出すように。


スイは、心の中で笑った。可愛い人だ、と。優しく拘束されている手を解いて、それをロランの顔に持っていった。彼は、少し驚いたように目を丸くした。


「私の一番は、ロランだけよ」


くい、と少し強い力でロランは彼女に近づけさせられた。そのまま、彼とスイの唇が重なる。

スイの、分厚い唇。ロランは胸が苦しくなってきた。でもそれは、先ほどのようなつらいものではなく、何か満たされるもの。

やわらかい、そして、心地がいい。

にゅるりとスイの舌が、ロランの中に入ってくる。スイはキスが上手い。それだけで、もうロランはとろけてしまいそうだった。


そう、本当に彼女はキスが上手いのだ。怒りを他のそれで満たすように。


「ごまかさないでください……!」


ロランは、いつもより短めに、キスをやめた。満たされても、彼はまだ、彼女を許してはいないのだから。


「スイは、僕の事、嫌いなんですか?」

体を起こし、カーディガンが脱げたスイの素肌を両手できゅ、っとつかみ、心配そうに顔を伏せながら、ロランは恐る恐る聞いた。

その様子が、子犬のようで、しかられている子供のようで、なんとなく愛おしかった。


「そのほうがいいの?」


ロランの顔が、さっと青くなった。

スイは、表情ひとつ変えることなく言葉を続けた。


 
「ねえロラン、ロランは私のこと嫌い?」

「そんなこと、ないです。僕、スイさんのこと好きです。本当です。本当に、あなたのことが、……貴方のこと、だいすきで、大好きで……」

「なら、それでいいじゃない」




思わず、スイはロランを抱きしめた。



「確かに、私はグエンと仲がいいけど、でも、それだけ。キスして気持ちいいのは、ロランだけよ」

「……本当に?」



きょとんとした、でも不安そうな顔でスイに聞き返すロラン。


スイは、「本当」と言いながら、またロランにキスをした。今度は、お互い納得して、求め合う長い長いキス。



ああ、彼女は本当にキスが上手い。ロランは本能のままにその快楽を味わった。今度は、怒りも、不安もない、ただ甘いだけのキス。


ロランは積極的に舌を出した。スイも、喜んでそれに答える。

時が止まったかのように思えた。なにもかも忘れて、キスを受けて、この世界に自分達しかいないような。そんな、贅沢な甘い夢。


どうせなら押し倒した次までいけばよかったのに。キスをしながら、スイはそんなことを考えていた。


どれくらい時が経っただろうか、長く、さっきよりも長くキスをしてようやく二人は離れた。

ロランは、とろけた顔のなかに、まだなにか欲を持っている顔をした。



「でも、僕も、スイさんに、あんな風に笑って欲しいです……」



静かに、ロランはスイの肩に顔をうずめた。スイはそれを受け止め、やさしく頭をなでる。

本当に可愛い人だ。


スイは、ロランをやさしく誘導し、自分と目があうようにした。そして、唾液で濡れた彼の唇に、やさしく人差し指を置く。


「じゃあ」、分厚い唇を動かして言葉を紡いだ。




「そこまで言うなら、私を虜にさせるくらいイイ男になってみなさいな」




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