GUNDAM

気まぐれマイガール


オレの彼女は気まぐれだ。




なにがどうってわけじゃなくて、ホントに気まぐれで気分屋だ。




どう気まぐれかっていうと、例えば俺が本を読んでいたとする。するとあいつは『面白そう』と俺の本棚から(勝手に)借用することもあれば、『本なんて面白くないじゃん』と目をすわらせて俺をじっと見ることもある。


くわえて何の前触れもなく突然に変わるから迷惑な話だ。




「また本読んでるの?」




ひょこっと、本の隙間から彼女が顔を覗かせた。
本を読んでいたからか、考え事をしていたからか、少しびっくりした。たぶん顔には出てないけど。




「オルガってホント好きだよね。暇なときはずっと読んでてさ、疲れない?」



「別に。」



本に集中したかった俺は、そっけなく返事をした。「ふーん」と興味のなさそうな声が聞こえる。そしてタイトルを覗いて「つまらなさそう」と一言。
興味がないなら聞かないでほしい。本を読んでる最中は気をちらしたくない。




「ねえ、今夜空いてる?」



「検査があって無理だ」



「検査が終わった後」



「検査がいつもどの時間に終わってるか知ってるだろ」




「じゃあ夕食の後」



「だから検査だっつってんだろ」





心なしか話しかけるスイの声がイライラしてきてる気がする。というか俺はそういうくだらない会話嫌いなんだっつーの、というか今本読んでるから話しかけんなよ集中できねえ。



ようやく静かになったな、と思ったとたん、本が目の前から消えた。



「あ゛ーーっ!!!!なにすんだよ!!」



「うるさいうるさい!読書なんてするな!禁止だ禁止!!」



「あんだと!?」


さっきまで俺の手元にあった本は見事に彼女の手の中に。
ああああああいいところだったんだよこのやろう、しおりも挟まずに閉じやがって。これじゃあどこまで読んだかわかんねえじゃねえか。後20ページあるかないかの一番盛り上がってる最中だったってのに!




「返せよ俺の本!」



「やだ!返したらオルガ本読むでしょ!」



「当たり前だもうすぐで読み終わるんだから!」


むすっと頬を膨らませて彼女は本を高く上げた。たぶん届かないようにしているんだろうけど俺のほうが断然身長が高いから普通に届く。



イライラしながらも、盗られた本に手を伸ばした(ここでぶちギレなかった俺は偉いと思う。クロトとかシャニとか他の奴らだったら絶対キレてる)が、それを察知したのかスイはぽいとその本を後ろに投げ捨ててしまった。ぐしゃりと本が変な形につぶれる。


流石にぷちんと俺の血管が切れた。




「……ってっめぇ……!!」



「だってオルガが悪いんだもん!オルガが全然かまってくれなかったから!」



突然、がばっとスイが抱きついてきた。勢いありすぎてちょっと腹にダメージが来た。座ってなかったら背中を打っていたところだろう。



ぎゅうっと俺に抱きついて顔を俺の肩にうずめた。




……こいつ、甘えたかったのか……



彼女のクセだ。気まぐれで甘えたいときはこうして抱きついて首を俺にぴったりくっつける。




「……今じゃなくてもいいだろ」




ため息混じりに言うとスイは顔をあげずゆっくりと首を振った。



「今がいい。今かまってほしいの。」



すりっ…と俺の肩に首をすりつける。これもスイが甘えるときのクセ。



ここまでされるとさすがに怒る気にはなれなくなった。こんどは大きくため息をつき、スイの頭を撫でてやった。すると彼女は「えへへー」と声をもらして喜んだ。




彼女は気まぐれだ。でも、その気まぐれも人前ではあまり見せない。ここまで振り回すくらいの気まぐれは仲の良い奴しかださない。事実彼女のこの性格を知っているのは俺と、あとはクロトとシャニくらいだった。




特に俺の前だとそれが一番酷くなる。こうやって彼女の気まぐれに引っ張りまわされることは良くあることだ。




でも、




でも、それが面倒だとは思ったことはあるが、別に嫌いではなかった。



たしかに面倒だし、疲れるし、たまに本気でキレることもあるが、それは俺に心を許してるってことで、それくらい俺に彼女の本性を見せてくれてるってことだ。



それに機嫌が良いときはこうして猫のように甘えてくる。惚れた弱みって奴なのか、やっぱりスイのことは好きだから、そんなしぐさが可愛いと思ってしまう。



まあ、何が言いたいって、とにかく俺は気まぐれな彼女が好きってことだ。






「オルガー、好きだよー」



「……おう」




「オルガはー?私のこと好きー?」




「……好きだよ。」



「どのくらい?」




「そりゃあ……『この世界で一番』ってくらい」




「ほんとに?ホント?オルガってばもうー」



ふにゃりと顔をほころばせて俺の腰に顔を擦り付ける。この上なく上機嫌のようだ。俺はそんな彼女の頭をぐしゃぐしゃに撫でる、ああ、こうやってると俺の顔も思わずにやけてくる。





やっぱり、俺はこいつがすきだ。たまらなくすきだ。




こいつがすっげー気まぐれでも、俺がこんな人間でも、それでも残りの人生をこいつにかけたいくらい、俺はこいつにべたぼれしてやがる。



……なんてはずかしいからたぶん、絶対、言わないけど。





「あ、そうだ。あれ読み終わったら貸してね。なんだか面白そうだから」






ほらな、やっぱりこいつは気まぐれだ。

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