GUNDAM

蹴っ飛ばせ!


「くそっ!!」



アウルはその場にあったゴミ箱を蹴った。
中にあったゴミがちらばってしまったがまあそれは気にしない。どうせ誰かが片付けてくれるだろう。




「くそっ、くそっ、また負けた!!」



腹が立つ。これで何度目だ。



「スティングのバカヤロー!!なんでいつもいつもオレより先にスイと一緒にいるんだよ!!」



そう、アウルがいらいらしている理由はこれだった。
自分がなんとかして二人きりになって株を上げたい人物。スイ。出会った頃からずっと気にしてきた。一目ぼれだ。
そこから心の葛藤やら見ていることしかできなかったなんやらで最近やっと思いを伝える努力をしようと思ったらこれだ。気が付けばスティングがいつもスイの隣にいる。


もちろん二人は恋人なんて間柄じゃない。(そこは確認した。)なのになんでかいつも一緒にいるのだ。


それでアウルもアウルらしく二人になろうと暇さえあればスイのところに行くのだがいつも既に手遅れか間一髪のところで遅れる。


今だってそうだった。大急ぎで夕食を食べ終わってガンダムの整備をしているであろうスイの所へ行けばスティングと楽しそうに喋ってた。



「……はあ。」




ひとしきり叫んだらなんか疲れてきた。なんだろうこの脱力感。

…最初は、ただスイを見てるだけでよかったのにな…




「もう…諦めたほうがいいのかな…」



「なにを?」



「つぅおおおおい!!!」



やっべえすっかり油断してたから変な声出しちまったじゃねえか。
勢いあまって海へおっこちそうだった。



「スイ!!」



「やほーアウル」



にっこりと笑ってひらひら手を振るスイ。ちくしょうなんでそんな仕草すらかわいいんだよ。




「な、なにしに来たんだよ。お前いつもこんなところ来ないだろ?」



「えーいいじゃんたまには。気分だよ気分。」




女って気まぐれなもんなんだよ。なんて言いながら海を見るスイ。




「アウルっていつもここにいるの?」



「いつも…っていうかいらいらしたときに、よく来るかな。」



「じゃあ今イライラしてたんだ。」



くすくすとオレの方を見て笑う。自分でも自分の顔が真っ赤になるのが分かる。




「なんかさ…始めてかも、アウルと二人きりで喋るのって。」



「そうだな。いつもスティングのヤロウがべったりだもんな。」



「スティングは心配なんだよ、私のこと。いつ壊れるかわかんないから。」




…スイは僕たちと同じエクステンデットだ。
エクステンデットでも、精神異常は僕たちの誰よりもひどい。言ってしまえば僕らの先輩生体CPUの人達並っていっても言いすぎじゃないぐらい。
その分戦闘能力はすざまじいけどね。



「だからって言っても別にあいつひとりでスイをけーごしなくてもいいじゃん。僕やたよりないけどステラだっているのに。」



「たぶん、心配させたくないんだよ。やっぱり私達の中で一番年上だし。」



「だからって…!!」



「アウルは、私のこと心配してくれてるの?」




一瞬、どきっとした。
なんか、一番見られたくないところを見られたような気がして。



「…心配にきまってんだろうが。」



「ホント?うれしい。」



にこっと笑って、また海を見つめた。



「…スイ?」


ちょっと緊張したけど、一歩、スイに近づいてみた。
そして気付いた。
スイ、震えてる。



「……ごめんね、アウル、心配かけて」


さっきの声とは違い、それは震えてた。



「…私、怖い。毎日自分が分からなくなっていくの。どんどん記憶がなくなっていくの。昔の記憶じゃないよ?みんなといるとき、ふって記憶がとぎれるときがあるの。」


「スイ…」


「でも、どうしようもないでしょ?だからいつもは心の中に閉じ込めてるの。でも…」


強化人間ならだれしも恐れること。
自分がなくなるかもしれないっていうこと。

それは僕もだしもちろん他の二人もそうだと思う。ただ、それを口に出す事すら怖いから言ってないけど。スイは、そのことを誰よりも感じているらしい。
……仕方ないって言えば仕方ないけど。


「大丈夫。スイはスイだよ。」



「…アウル」



「スイには僕がいる。もしスイがスイじゃなくなったら、僕がスイを連れ戻す。」



「……本当?」



「本当。ていうかスイはスティングばっかじゃなくて僕も頼れよな!僕ら仲間なんだからさ。」



「仲間…?」



「あっ、まさか今更?ひっでー今までずっと一緒だったのに。」



「仲間…」



スイは、確認するように呟いた。



「そうだよね。アウルも、仲間…だよね。」



「ああ!スイの不安なんて僕が蹴っ飛ばしてあげるからさ!」



「蹴っ飛ばす…」

そこで、スイは糸がぷつんと切れたように笑い出した。



「あははははははッ!!…アウルらしい…!」


「僕は本気だって!!」



「わかってる!わかってるけど…」

とうとう咳き込みだしたスイ。
2、3回むせた後、顔を真っ赤にして僕の方を向いた。



「ありがとうアウル。」




「…どういたしまして。」



にっこりと笑ったスイ。それはさっきまでとはちょっとちがった笑顔。
僕も、その笑顔に笑顔で返す。



初めて二人きりになった時間は、思った以上に特別な時間だった。






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