GUNDAM
Valentine
「……。」
スイは廊下でうろうろとしていた。
「どうしよう……。」
味見はした……けど、彼の口に合うかどうか……少し苦めにしたけど……甘いのが好きだったら……。
今日はバレンタインデーだ。恋する乙女なら誰でも心躍る日。スイもその中の一人で、例に漏れず恋人のためにチョコレートを作ったのだ。
手伝ってもらったヒリングやリヴァイヴには感謝だ(リヴァイヴに関しては半ば強引にだが)そうして丁寧にラッピングして、愛しい彼にさあ渡そうというところで立ち止まってしまった。実際渡しにいくとなると、どうにも緊張してしまうのだ。
彼の部屋にいくか、それとも戻るのかと試行錯誤し、現在に至るのだ。
「でもせっかく作ったんだし……ああでも……うう、私の意気地なし。」
「何をしているんだい?スイ」
「へ!?あ、リジェネ……」
突然のことで変な声を出してしまった、当の本人が来たんだから。
リジェネはどこかへ出かけていたのか、いつもの白いひらひらの服を着てなかった。男らしい格好をしていて、顔がやや女らしいこともあってか、少し不釣合いだと思ってしまった。
ああもう狙ってやってるのかわざとなのか、どちらにしても意地悪な人だ。なんでこのタイミングで来るのだろう。
思わずチョコを後ろに隠してしまった。
「もういちど言うよ。何をしてたんだい?」
「あ……う……。えっと……」
今度は少し強めにたずねてきた。好奇心旺盛で何でも知りたがるリジェネはなにをしてでも聞こうとするだろう。というか、だぶんもう私がなにをしようとしているか知ってる。
リジェネは物色するように私を見る。はずかしい、きっと顔は真っ赤だ。
「ねえスイ、恋人の僕にも言えないことなのかい?」
表情は変えずに、少し首をかしげた。
そうじゃない、そうじゃなくて、むしろ恋人だから言えなくて……。
「ねえ、リジェネは甘いもの好きだっけ?お菓子とか……」
なに言ってるんだ私は。言ってちょっと後悔した。そんなのリジェネの答えになってないじゃないか。彼は私が隠し事をするのを嫌う。こんな逃げるようなこと言ったら彼はきっと怒るだろう。
だけどリジェネは私の考えに反して怒りはせず、少し考えた後、あてずっぽうな方向を向いてつぶやいた。
「あまり好きではないね。というか前にも言った気がするけど。」
「あ、うん。ごめん、うっかりしてて……。」
思わずうつむいてしまった。墓穴を掘った、これでその甘いチョコを渡すなんてただのイジメだ。絶対いろいろ言われる。
どうしよう、せっかく作ったのになんか渡す気分がそれてきた。なんとか理由こじつけてこの場を離れよう。それからこのチョコを処分して……。自分で食べるのも嫌だから、リボンズかリヴァイヴに食べてもらおう。うん。
「ああ、でも今はちょっとお腹がすいたかな。」
「え?」
「そうだね……ちょうどスイが持っているものが食べたいな。」
にやりとリジェネが笑った。
全くこの人は意地悪だ、私が何をしたいか知っていたし。その上どSで、わがままで。
でも私はこの人が好きで、この人のこんなところが愛しくてたまらないのだろう。
私は、笑顔で彼に答えた。
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