GUNDAM
貴方を連れに参りました
「ぬう………」
溢れ出てくるのは『嫉妬』、なのだろうか。
私は彼の活躍を見て言葉を濁した。
『「アーリージーニアス(若き天才)」ニルス・ニールセン、世界大会へ!暴れ牛グレコを撃破』
ネットには大々的にニルスのことが書かれている。彼が手を合わせお辞儀している姿が、大きい写真になって私の前に現れる。
記事はどれも賞賛の文。博士号のこととか、あの最後の技はなんなのか、とか。
まあ、ニルスは元から研究雑誌なんかによく取り上げられていた。知り合いがこう記事にされるのは嬉しい。嬉しいよ?だけど、私はもやもやする感情を押さえきれなかった。
パソコンを閉じ、隣に置いてあったプラスチックの塊を見る。
私の精魂込めて作った愛機は片腕がとれ、真ん中に大きく穴が空いていた。塗装だって、ボロボロだ。
……私も、アメリカ予選に出場したのだ。結果は一回戦負けだけど。
これまでに、何度も出場しては初戦敗退。世界大会。行ってみたいけれど、恐らく無理だ。
無理だろうけど、行きたい。ニホンに行って、あの歓声の中、大きな舞台で、私の愛機を見せつけてやりたい。
気持ちなら誰にも負けない。ガンプラ歴だって、私はまだ若いけど10年以上ある。
なのに、たったの3ヶ月で、しかも研究のために世界大会へ進出したニルス。
嬉しいけど、悔しくて堪らない。
「……噂をすれば」
ケータイ電話に『ニルス・ニールセン』の文字。私は電話を取った。
『こんにちは、スイ』
「こんにちは。ネット見たよ、世界大会おめでとう」
『ありがとうございます』
電話越しのニルスの声は、優しい。ニルスはいつも優しいんだ。
『大会のこともあるんですが、ある会社が僕のスポンサーになってくださるので、挨拶に行くために明日、ニホンに向かいます』
「あ、そうなんだ……」
明日って、急な話だな。
なんだよ、もっと早くに言ってくれれば、サプライズパーティーの準備とかできたのに。
というか世界大会までニホンにいるつもりなら、数ヶ月は帰ってこないんだよね?……それならなおさら、前日に言う言葉じゃないよね。
まあ、言わないで出て行くよりはいいけどさ。
「……頑張ってね、応援してる」
私は、胸の中から沸々と湧き上がってくる不平不満を抑えて、苦々しく言った。
『何言ってるんですか。貴方も行くんですよ』
「へ?」
どうして?と聞く前に電話が切れてしまった。
そして、間髪入れずに盛大にドアが蹴破られた。
「ぎゃーーーーっ!!?二、ニルス!?」
「 迎えに来ましたよ、スイ 」
リビングにやってきたニルスは、何故か白い馬に乗ってこう言った。
「む、迎えって?」
「さっきも言ったでしょう。一緒にニホンに行くんですよ」
「へえ!?」
一緒に?ニホンへ?
突然すぎて頭が回らない!!
「行きたかったんでしょう?世界大会」
ひょいと、ニルスは私を馬に乗せた。
「僕が連れて行ってあげますよ」
「ちょ、ニルス!道具とかどうすんの?」
「スイの荷物はすべて準備しましたよ。少々貴方の部屋から持ち出して」
「不法侵入!!」
ニルスは自分の家へと馬を走らせた。
がつがつと馬がコンクリートを蹴る音が響く。痛くないのかな。というか、これすっごい目立つんですけど。
けっこう揺れるから、私はぎゅっとニルスの腰にしがみついた。
「……僕が、ただ研究のためにガンプラをやっていたわけではないんですよ」
振りかえったニルスは、すごくきれいな顔で笑った。
ああ、きっと本心だろうな。
私を、本気で世界大会に連れて行きたかったんだ。
それがわかったとたん、嫉妬なんて吹っ飛んでしまった。
「でも、なんで馬?」
「免許もってませんから」
あ、そっか。ナルホド。
なんだかんだでニルス、まだ13歳だもんね。しっかりしてる子だから、そんな感じしないもん。
「『暴れん坊将軍』が、たしかこんな感じでしたよね?」
「ん?うーん……」
ニコニコしながら私に問いかけるニルス。正直、暴れん坊将軍がなんなのかわかんない。
でも、私のことを考えてくれたこと。私を世界大会に連れて行ってくれること。それがすごく嬉しかったから、言わないことにした。
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