GUNDAM
ベーグルにハムチーズ
ニルスはどこか大人びた雰囲気をしている。誰に対しても常に敬語で話す所や、先を見据えて現実的な考えを持っていたり。時々年上の私でも、彼の言い分に納得したりするし。
そりゃあ、彼の生い立ちを考えれば同年代の子より落ち着きのある性格になるのは仕方がない。それが彼の長所でもあるし、少し子供らしくないと言えば短所になるのだろうか。
「ニールースー。朝ごはん持ってきたよー」
ひょっこり彼の部屋に顔を除かせば、新聞を片手に優雅にコーヒーをたしなむ姿が。もうすっかり朝のお父さんスタイルだ。全くお父さん、なんて歳じゃないのに、そのスタイルが様になっているところが面白い。
そうだ、例えばそこら辺の小中学生が(最近世界大会で上位入賞を果たした有名な青い髪のビルダーや関西の若き天才ビルダーを想像してみるといい)椅子に腰掛け新聞片手にコーヒーをお父さんスタイルで飲んでいる場面に出くわしたとしよう。大抵は違和感を覚えるに違いない。なんとなく、背伸びしたがりの子供に見えてしまうだろう。
しかし、ニルスにはそういう気取った感じがしなかった。
「ニルス、朝ごはんだってば」
「あ、ありがとうございます。そこに置いといてください」
ニルスはちらりとこちらを見て、また新聞に視線を落とした。
確かに様にはなっているけど、大きい新聞が彼の体を半分隠してしまっているのがなんとなくかわいくてたまらない。
「ニルスったらまたコーヒー飲んでるの?」
「……いけませんか?」
「若いうちからコーヒー飲むと大きくなれないよ」
「成長するのにさほど影響はでませんよ。なんなら詳しく説明しましょうか?」
「それはカンベン」
朝っぱらから講座なんて聞きたくない。
ニルスは一通り読み終えたのか、新聞をたたんで朝食をとり始めた。今日はベーグルにハムとチーズ、あとオレンジジュースを持ってきた。彼がコーヒーを飲むのは知ってるけど、ビタミンもちゃんと取ってほしいしね。
私は向かい側に座りニルスが朝食を取る様子を見ていた。いくら物腰が落ち着いていてもまだまだ子供。大人のそれより手も体も、口も小さい。
彼の口の中にベーグルが運ばれていく。彼の一口サイズが私の半分くらいしかなくて、なんだかとてもおかしかった。どうしよう、母性本能をくすぐられてしまう。悪戯したい。
ニルスがコーヒーを口につけたとき、私はニルスの唇に自分の唇を当てていた。
びっくりしているニルスをよそにすぐに舌をいれる。彼の中にあったコーヒーが垂れてきた。私はそれをすかさずすくいとり、自分の口の中にいれた。
ニルスから離れ、こくりと飲み込む。コーヒーはブラックだったけど、少量だし唾液が混じっていたせいか少し甘く感じた。
「……食事中ですよ」
「コーヒーがのみたくなってね」
「それならこっちの方を飲めばいいじゃないですか。わざわざ口の中の方に手を出さなくても」
「だってニルスがそのままで成人したら嫌じゃん」
「またその話ですか」
ニルスはカップをおいて、あきれたように笑った。
「わけのわからない迷信に惑わされて、こう食事を妨害されるとはね……」
ぐいとニルスが顔を近づけた。
もう少しで唇と唇がくっつきそうな、正にマジでキスする5秒前って感じ。
「いけないのは貴方の方ですからね、返していただきますよ」
「上の口の分だけね」
「まだ朝なんですから、さすがに止めましょう?」
「あはは、冗談だって。冗談」
ま、ニルスがいいなら拒絶はしないけどね?
********
「……っていうことがあったわねえ……」
数年後、もうすっかり大人へと成長したニルスをみてぼやいた。
今はもう新聞片手にコーヒーも、完全にものにしていた。この姿でカフェとかにいても全然大丈夫だろう。というかイケメンすぎて思わず振り返りそう。
「なんの話ですか?」
「ニルスが老けたなあって話」
「それを言うと僕より年上のあなたはより老けたということですよね」
「…………」
思わず新聞を丸め彼の頭をはたいた。
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