GUNDAM
片想いが聞こえる
ときどき、夜中にふと目が覚めることがあると思う。
どういうわけか知らないけど、回りが明るくなったわけでも物音がしたわけでもない。それなのに、目はしっかり覚めてしまってしばらく眠れなくなるんだ。
私はどうしようかと悩んだ。目を瞑っても寝付ける気はしない。水を飲もうか、それとも諦めて仕事をしてしまおうか。
……いや、よそう。慣れない宇宙でいつもより疲れてるんだ、休めるときに無理にでも休まないと。
目を閉じていたらいつの間にか眠れるさ。そう思って寝返りを打とうとしたとき、ふいに部屋のドアが開いて、私は反射的にたぬき寝入りをした。
誰だろう?
まぶたの奥で光っていたものが消えた。
「スイ……さん?」
少し高い声が、恐る恐る私に問いかけてくる。
タカキだ。
「あの、スイさん、起きてますか?」
タカキは囁くように言った。あまりにも小さな声なのに、しっかりと聞こえるのは、きっと彼と私の距離が近いせいだ。息づかいでさえ聞こえてくる。
私はそのまま寝たふりをした。
囁きは私の眠りを確認するものらしい。どうやら、起こしに来たわけではない。さて何をしに来たのやら。
いっそ目を開けてしまおうかと考えた矢先、ふと、何かが指に触れた。それは布団の中をまさぐって、私の手を探り当てようとする。ぎゅうと、指を絡めて握りしめられた。少し、冷たい。
タカキの手が、私の手を握った?
わけがわからなくて寝たフリをするのが精一杯だった。その間に、タカキは私の手を布団から引っ張り出した。
タカキの両手で手を包み込まれ、掌に柔らかい感触。頬っぺただろうか? 私の手を頬に?
タカキは何度も何度も握り返して、私の手に頬擦りした。タカキの手が、少し汗ばんできている。
これは起きるべきだろうか。いや、今この状態で起きたとしたら、きっとお互いギクシャクしてしまう。
目を瞑って、どうしようかと悩んでいると、またタカキの息づかいが近くなった。というか、明らかに耳元で息をしている。
すぅ、はあ。すぅ、はあー。
匂いを嗅いでいるようだ。
しかし、これはやばい。いくらまだ幼いとはいえ、異性の荒々しい息づかいが耳元でダイレクトに聞こえるなんて。部屋が暗くてよかったと思った。だってそうじゃないと、顔が赤くなって唇をきゅうと噛み締めている姿が見られてしまうから。
タカキの吐く息が、私の首筋に当たる。手は未だに握られたままだ。
「……スイさん」
名前を呼ばれたとき、プチパニックでうっかり返事をしそうになった。なんとか口の中を強く噛んで堪えていると、唇になにか柔らかいものが触れた。
タカキの「んっ」という小さくてかわいい声が聞こえた。それは、はじめは軽く触れるだけだったけど、少し角度を変えて深く押し付けられてきた。
始めてのものじゃない。そう感じるくらい、手慣れた感じのするものだった。
あまり長く押し付けられているものではなく、しばらくするとそれは唇から離れた。きっと、お互いふれあってたのは10秒もなかっただろう。
「お休みなさい、スイさん」
さっきとは違い、少し安心したようなタカキの小さい声。
それからタカキは私から離れて、部屋を出ていった。
私はたっぷり間を置いたあと、まるでスイッチが入ったように激しく飛び起きた。
たった数分間の、信じられない出来事がフラッシュバックされる。あの感触が、声が、吐息が、まるで焼き付いたように離れない。
「……えぇー? ……」
思わず唇を押さえてしまう。
偶然にも知ってしまった衝撃の事実に、私は混乱するしかなかった。
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