GUNDAM
究極のラヴ・ストーリー 前編*
※Rって言ってもグロいほうのR18。なので気をつけてください。
※文章多め
愛する人が、死んだ。
それは愛することをあまり知らないヒイロ・ユイにとっては衝撃的すぎる事実であった。
彼女とであったのは約2年ほど前の事であった。最初は任務の障害程度にしか思っていなかったヒイロであったが、彼女の優しさに徐々に惹かれて行ったのである。
オペレーション・メテオ時、宇宙に上がった頃からヒイロは自分の思いを打ち明け晴れて『恋人同士』となった。
恋愛感情とは別の意味で大切な存在であったリリーナのこともあったが、無事に戦争も終わり、その後はスイと仲良く暮らしていた。
が、彼女は肺の病気をわずらい、終戦後たったの1年でこの世を去ってしまった。
ヒイロはその通達を受け酷く傷ついた。傷つきすぎたせいか、それとも彼自身が涙が枯れてしまっていたのか、泣くことはなかった。
「ヒイロ……?」
生前、彼女は病院のベッドでこう言った。
「ごめんね…せっかく戦争が終わったのに…もっとヒイロと触れ合っていたいのに、体が重いの…苦しいの……」
「………」
自分とは違い、涙を流している彼女を見て、ヒイロはただ無表情のままスイの手を握った。
「私が死んじゃったら、この体好きにしていいからね……?親戚なんていないし、全然、ヒイロをしあわせにしてあげられなかったから……」
「俺は幸せだ」
ヒイロは、間髪いれずにスイに言った。
「お前と出会えた事、お前に愛してるといわれた事、それだけで俺は幸せだ」
「ヒイロ……」
泣きながら、彼女は笑った。
それが、彼女の最後の笑みだった。
彼女が死んだ後、遺体はヒイロが引き取った。
引き取り、彼女の遺体を棺に入れ、そして庭に埋めた。
墓をつくろうともしたが、それをするにはヒイロの心は深く傷つきすぎていた。作ってしまうと、彼女には本当に二度と会えない気がしたから。
任務のためや自分の身の安全のため、一定の場所にはとどまることはなかったヒイロだったが、彼はずっとそこに住み続けた。そこは唯一スイと暮らしていた場所で、彼女の私物も沢山あった。そこにいることで、彼女を忘れたくなかったし、彼女がいたという現実を確かめる事ができたからだ。
ヒイロはスイと思いが通じ合ってからずいぶん変わった。それは自分でも十分にわかっている。デュオにまで「最初のとげとげしさがなくなってる」と言わしめたほどだった。
それほどまでに彼にとってスイは大きな存在だったのだ。
だから、もう、彼女のいない生活なんて考えられなかった。
しかも、こんな早い段階で。
それ以来ヒイロはどうしようもない感情に襲われた。
胸が苦しい。無性に暴れたくなる。縮こまりたくなる。
それが「恋しい」というものだと知るには、彼はあまりにも感情に乏しく、そして正常な判断ができないでいた。
そんなとき、彼女の使っていたベッドに触れた。ヒイロは彼女が使わなくなってから、一度もそれに触れた事はなかった。
そこは、彼女のにおいであふれていた。
ヒイロの動機は一瞬にして治った。彼女の残り香が、ヒイロを落ち着かせてくれたのだ。
それ以来、ヒイロは毎晩スイのベッドで寝るようになった。彼女の残り香が香るそれに。匂いが消えないように毎日風呂に入り、絶対に布団を洗ったり干したりなんてしなかった。
ヒイロは、だんだんとそれだけでは物足りなくなってきた。彼女の肌に、彼女の髪に、彼女の唇に触れたかった。
彼女に触れたくて、何度庭の棺を掘り返そうかと思ったことか。
だが、それは彼女を思う気持ちと、残り少ない理性でなんとか押さえこんだ。
そんなことをしても、彼女は喜ばない。自分のエゴではないか、と。
ある日、ヒイロはスイのベッドで夢を見た。
暗い、虚無の空間に、スイが悲しそうな顔で立っているのだ。
『私を貴方の元へ連れてって、ヒイロ。ここは暗くて寂しいわ。貴方の傍にいたいの。だからお願い、ヒイロ』
ヒイロはすぐに決断した。棺を掘り返そうと。
真夜中に一人、恐るべきスピードで彼は庭にある棺を掘り起こした。
それをあけると、すでに遺体は腐敗が始まり、目は腐りかけてとても見れるものではなく、体の一部はぐじゅぐじゅに腐っており、腐臭がした。
ヒイロは急いでホルマリンを買いに行き、スイにぶちまけた。汚れた部分も、綺麗に消毒した。匂いも彼女がよく使っていたコロンでごまかした。
それでも腐敗を抑えることはできず、ヒイロは薬を調合して恒温槽に彼女を漬けた。その間、ヒイロは彼女を自分のベッドの隣に置いていた。そのときはスイのベッドで寝るときよりも安心して眠れた。
なんとか腐敗を抑えられるようになると、今度は彼女の外見について細工を施した。
腐り落ちた目に代わり義眼をはめ、腐る内臓はすべて取り出し代わりに吸収剤を入れた。髪はグリセリンで光沢を戻した。顔の肌も完全に取替え、殺菌、除菌も完璧に行った。
体のほうを終わらせたヒイロは、生前の彼女の服を着させた。
ヒイロは感動した。それは自分が長く愛してやまなかった、彼女その者だったからだ。
ヒイロは、「それ」を生前と変わらない、美しい彼女であると思った。
「今まで、寂しい思いをさせた。だが、もう大丈夫だ。これからはずっと一緒だ」
ヒイロは、相変わらず無表情だった。だが、その目は生気に満ち、また狂気に満ちていた。
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