青の破軍
4
赤い戦艦は、オルクスとかいう商会の船から庇うような形で、シャトルに近づいてきた。戦艦は商会の船に負けず劣らずのでかさで、武器もきちんとついている。シャトルとは大違いだ。
そのシャトルより数倍大きく、分厚い装甲を目の当たりにして、一応首の皮が一枚繋がった気分だった。
大急ぎでシャトルごと乗り込み、艦内に移動する。
私はここに来るの始めてだったから、とりあえずみんなについていって、メインブリッジに来た。ブリッジには既に昭弘、チャド、ダンテが座っていて、せわしなく手を動かしモニターを確認していた。
こういう時に言うのもなんなんだけど、やっぱりブリッジっていいな。このでっかいモニターとか、そこにうつる敵のMSや戦艦とか。緊張感がたまんない。
「状況は」
「後方からオルクスの船がまだついて来やがる」
「ガンガン撃って来てるぞ」
チャド、ダンテが交互に報告した。
「こっちからも撃ち返せ」
オルガは指示を出しながら、ド真ん中の艦長席に腰を下ろした。
艦長席が似合うなあオルガは。リーダーシップっていうか、人の上に立つオーラが滲み出てるっていうか。
今更だけど、オルガのこういう、鉄華団の絶対的なリーダーだって納得させるオーラはすごいと思う。
ビスケットたちも、オルガに習って次々と自分のポジションに移った。
……みんな、戦艦の使い方知ってるのかな? 阿頼耶識のおかげでなんとなーく使いこなせるとか?
ぶっちゃけ私はオペレーター業務とか、ブリッジの仕事はあんまり得意じゃない。
MSとは勝手が違うし、ブリッジのメンバーと息を合わせないといけないこととかあるし、わかっていても避けられない攻撃とか当たっちゃうと、ついイライラすることもあるし。
まあ、できないわけじゃないんだけどね。今はそんなワガママとか言ってられないだろうし。
ただ、みんなよくスムーズに動けるなあって。今までで動かしたことあるのかしら。
「おい! なんでその船がここにいる! 静止軌道で合流だったはずだ!」
シノに捕まったまま連れてこられたオッサンが、入り口で顔を出した。
ここに連れてこられるまでも抵抗したんだろう、アザが増えてる。
「これまでにお前が信用たる仕事をしたことがあったかよ? 倉庫にでもぶちこんどけ」
「許さねえぞぉぉぉぉぉ!!!」
「だあってろボォケ!!」
オッサンの悲痛な叫びがブリッジ内に響いた。それもシノの怒声でかき消されたし、最後まで叫びきる前にブリッジを追い出されてしまったけど。
オッサンと入れ替わりで、お嬢さんとアトラが来た。
二人とも戦いに慣れてないから、別の場所にいた方がいい。メインブリッジは狙われやすい場所だ。
二人に声をかけようとしたら、お嬢さんに一番近いビスケットが変わりに言ってくれた。
「クーデリアさんは危ないから奥にいてください、アトラも」
しかし、お嬢さんはビスケットの注意を聞くことなくモニターを見た。
「私はこの目で全てを見届けたいんです」
モニターの中の点が動いた。
拡大すると、まだあまり損傷していないバルバトスの姿が。
「あ、三日月がっ」
「遠距離で撃ち合ってる内は大丈夫。MSのナノラミネートアーマーは撃ち抜けない」
それも時間の問題だ。射撃が無理だと分かると敵は斬りかかってくる。しかも、数に任せていっぺんにバルバトスを襲うだろう。
ミカちゃんだってスーパーじゃないんだし、さすがに数十機の攻撃を全てかわせはしない。ていうか私も無理だろうしね。
足がむずむずしてきた。身体が、心が、戦いたいって叫んでいる。どう見たって劣勢なこの状況を私のてでひっくり返したい。ううん、そんなことどうでもいい。ただ、戦いたい。
私がぜんぶ、ぜんぶ倒したい。私がやりたい。
私を出して。準備はできてる。
私を使って!
今出なきゃ、いつ私は戦うっていうの!?
…………。
……あっ違う。いつやるのか、今でしょ!だ。(ドャァ…)
ふふん、流行りのものも詳しいのよ、私。まあこれが今でも流行ってるかは知らんけど。
難しい顔をして、艦長席に構えているオルガを見つめていると、彼と目が合った。
「アイリン!」
昨日のすがるような、申し訳なさそうな目じゃない。もう腹をくくってる。
すべて私に任せる。信じてる。そう、言っているかのような目だ。
「行ってくれるか」
行ってくれるか、ですって?
行くに決まってるじゃない!!
「いいの? ほんとに出ていって大丈夫なの?」
私が念を入れて聞くと、オルガは呆れたように笑った。
「ああ。好きなだけ暴れてこい」
「キャホーッ! ありがとうオルガ!大好き!愛してるっ!!」
「いいからさっさと行ってこいよ!」
「言われなくても行きますって!」
ユージンの苦言も全く気にならなかった。
ガンダムに乗れる。それだけで、回りも全く気にならないくらい興奮している。
私は急いで格納庫へ向かった。
……
………………
……………………
あれっ、格納庫ってどこだっけ?
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