青の破軍
5
大きく息を吸って、吐く。
「こうしてコクピットに包まれてると素敵。安心できる……」
心臓がどくどくと脈打ってるのが聞こえる。手が微かに震える。意識して息を整えないと、すぐに過呼吸になりそうなくらい。
安心できると同時に興奮している。
この壁の向こうで、すでに戦闘が始まっているんだ。あと少しで、私もあの中で戦うことになる。
ああ、兵士としてこれほど喜ばしいものがあるだろうか。
『アイリン、カタパルト準備できたぞ。いつでも行け。バルバトスのランスを忘れるな』
「了解おやっさん」
『本当にノーマルスーツは着なくていいのか? 下手したら死ぬぞ、お前』
「そんなヘマはしない。着替える時間がもったいないもの」
『自信満々なのはいいが、何があっても知らねえからな』
おやっさんが呆れた顔を見せて消えた。ちなみにカタパルトは、MSをしゅーって出す機械のことね。
私は操縦管を握りしめた。口元が絶対にやけてる。
バルバトスの装備品である大きい槍を手に、射出体勢に入った。
「アイリン・レアはHi-νガンダムで出る。期待しててよっ……!」
言い終わるや否や、私はスタートした。ロックが外され、Hi-νガンダムはカタパルトにより勢いよく戦艦から射出された。
そう、この感覚! ジェットコースターで急速効果するような、Gが重くのしかかって息のできないくらいの勢い!
私は今、戦うんだって証!
機体に負荷がかからないよう、ゆっくり体制を整えた。射出された勢いを殺さないままミカちゃんのバルバトスの元へ向かった。
さっそく、はぐれた敵MSを一機見つけた。同時に敵も私を確認する。
相手は止まってる。私は前に進んでる。敵が反応する前に、叩く!
私は素早くビームサーベルを取りだし、通りすがりにコクピットからMSを一刀両断した。
MSは、Hi-νガンダムの青いビームサーベルによって真っ二つに別れ、後方で爆発した。
(まず一機!)
もちろん宇宙は真空なので、爆発音は聞こえない。MSのコンピュータがすぐ近くのMSの爆発を知らせてくれるだけだ。だけど、長年戦っていたら爆発音が聞こえてくるような気がするから不思議だ。
「1年待った……。短い年月だが、兵士が腐るには充分すぎる時間……!」
私はビームサーベルを高々と掲げた。
「
宇宙 よ!! 私は帰ってきた!」
あっはははは! あはははははははは!
笑い声が、コクピット内に響く。これはアタシの声だ。
アタシは今、笑っているんだ。
速度をさらに上げた。血がたぎって、嬉しい悲鳴をあげている。このスリルを、興奮を、アタシは求めていた!
Hi-νガンダムはほぼ万能方のMSで、可変もできないから特別スピードが速いというわけではない。それでもただ走ることだけに集中すれば、なかなかの速力を出すことができる。
バルバトスの信号はすでに捉えてある。アタシは途中出くわす敵には目もくれず、バルバトスの元へ急いだ。
とりあえず、ミカちゃんと合流するのが先だ。それに倒す時間はあとでたっぷりある。
ミカちゃんのバルバトスがカメラに映った。斧を持った敵が大きく振りかぶる。
当たらなくていい。いや、威嚇射撃でなくてはならない。命中したらミカちゃんがMSの爆発に巻き込まれる。
私はビームサーベルを、ビームライフルに持ち替え、そのまま撃った。ピンク色をしたビームは敵すれすれに空を切った。
敵が攻撃をやめ、こちらを見る。隙ができた。今だ!
「三日月!」
バルバトスのランスをミカちゃん目掛けて投げた。ミカちゃんは見事にキャッチし、そのまま敵のコクピットをランスで貫いた。
少しだけ敵と離れ、背中合わせにバルバトスとコンタクトを取る。
「ミカちゃん、元気にしてる?」
『その機体……アイリン?』
三日月がやや驚き気味で通信してきた。その驚きは、どうやらこのMSがこんなに早く動けたんだという意味のものらしい。
「三日月、今回は楽していいよ。アタシが全部ぶったぎってやるからさ!」
もちろん、嘘じゃない。アタシはそのつもりだ。
久しぶりにMSに乗れたんだから、ちょっとくらいハデに暴れたっていいよね。
三日月はアタシの気持ちを汲んだのか、それともHi-νガンダムとアタシが信頼に値する実力を持っていると判断したのか、『わかった』と返事が帰ってきた。
『ここはまかす。俺はあっちにいくから』
「おっけい、まかされてっ」
三日月はアタシの背中から離れて、オルガたちがいる戦艦の方へ向かった。
さっき、三日月は一機倒した。残りの数は1、2……10機いるかいないかか。
少し物足りない数だけど、仕方ない。久しぶりだし我慢するか。
「さあて軍人さんたち、訓練いっぱい積んでるんでしょう? 期待してるから、アタシを楽しませてよね!」
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