青の破軍

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「くっしゅん!!」


突然鼻がむずむずして、私は盛大にくしゃみをしてしまった。

誰かが噂しているのかなあ。ギャラルホルンの人たちが「あいつやばくね?」「やっべーやっべー」って言ってるのかな? それとも前の世界の人たちが「あいついいやつだったのになあ」って言ってる?

後者はなんか複雑だなあ。あっ、いや、違うな。あいつらだったら「あいつ死んだwwww」「青い揺光(笑)とかwww乙www」って言いそうだ。なんか想像してるとだんだんイラっとしてきた。

見てろよ、私は絶対帰ってやるからな。まあ実際に「乙w」とか言ってたわけじゃないけどさ。


「おやっさーん」


私はトドのおっさんが腹に文字を書かれパン一の姿で宇宙へ旅立ったのを見送ったあと、ざっとシャワーを浴びて、ご飯食べて、ちょっと自分の部屋で休んでからMSの格納庫へ来ていた。

格納庫はまさに火の車だった。もちろんバルバトスもだけど、外傷を受けた戦艦(そういえばこれイサリビって言うんだっけ)の修理のため、みんないろんな道具片手にあっちこっち飛び回っている。

おやっさんも私が声をかけるまでタブレットとにらめっこしたり、でかい声で指示を飛ばしたりしていた。


「どうしたアイリン、もう休まなくていいのか?」

「Hi-νガンダムのデータ渡してた方がいいかなーって思ってさ。はいこれ」


私はタブレットに写しておいたデータをおやっさんに渡した。おやっさんは「すまねえ」と、少しやつれた顔してそれを受け取った。

整備、上手くいってないのかな。


「こっちの子の手伝いもしよっか? おやっさん確かMW専門じゃなかったっけ」

「そうしてもらえるとありがてえ。MWとは勝手が違ってよお、つまずいてたとこだ」


私は整備専門じゃないけど、あっちの世界で一通り自分の機体の勉強はしたし、こっちに来てからも1年くらい自分で相棒を整備してたから。大まかなことはわかる、はず。

たぶん、MSの構造は大体似ていると思うしね。

おやっさんは指を素早く動かして、Hi-νガンダムのデータに目を通していく。文字、ちゃんと読めてるのかな。


「……にしても」


おやっさんはタブレットから目を離して、バルバトスの後ろに格納されている我が相棒を見た。


「こっちのほうはほぼ無傷、あるのはシールドに食らった一撃だけか。すげえもんだなお前も」


そう、そうなのだ。

あの戦いの最中、私がもらった傷はアインさんと通信したときに盾で受けた傷ひとつのみ。ほかは弾ひとつかすめておりません。

整備も各備品のチェックと燃料の補充だけでOK。

すごくない、私! 整備班思いっ!

手応えなかったとはいえ、あれだけ乱戦だったのに。もっと褒めてもいいんだよ! これけっこうすごいことだからね!

今そんな事いったらおやっさん達キレそうだから、流石に口には出さないけど。


「ここのパーツで全部まかなえるかわかんないからさ。あのくらいだったら、なんとかなるでしょ」

「少し不恰好になるかもしれんがな」


うーん、不格好になるのはちょっとなあ。


「あれっ、アイリンじゃねえか」


どこからかライドがふわふわと漂ってきた。手の辺りが黒ずんでいて、つんと油の臭いがする。


「MSの修理手伝ってくれるわけ?」

「ちょっとだけね。あっ、おやっさんそれ見せて」


Hi-νガンダムとバルバトスのデータを交互に見るおやっさんに近づいて、バルバトスのデータをとんとんと人差し指で叩いた。


「ここがわかんないの?」

「ああ、ここの繋ぎ方がどうもな。MWだったらこの4つだけですむんだが……」

「うちの子がこんな感じだったから、こうして、こんな感じかな?」


私は指でタブレットに写っているコードを繋げてみせた。


「聞いたか? タカキにも言ってここらへん直してこい」

「了解っす」


ライドはバルバトスを蹴ってタカキの元へ飛んでいった。

あてずっぽうに言ったけど、大丈夫だったかな? 間違ってたらごめんねみんな。


「それじゃあここはどうする」

「ここ? えーっと、これMWだと何に当たるの?」

「確か指を動かす電機経路じゃねえか? MWだと同じ部品使ってるからな」

「じゃあいくつかに分かれるからこんな感じ?」

「いや、それだとショートしちまうからこうじゃねえか?」

「ああー、なるほど」


やっぱり、こっちの機体とうちの機体とじゃちょいちょい違うところあるんだ。

でも、こうやってパズルみたいにMSの構造を解明していくって面白い。改めて勉強になるなあ。

ひとつでも間違ってたら大変なことになるんだけどね。


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