ガールミーツマーダー
時は戻り、2月13日。父が死んだ。
その知らせは唐突だった。殺されるには早すぎる。恐らくこれは組織の仕業ではない。警察に現場を無理矢理聞き出して、急いでホテルニュー米花へ向かった。
「あら、空映じゃない」
迷わず2004号室へ向かうとクラスメイトである毛利蘭がいた。
「蘭ちゃん?なんでここに……」
私は父が亡くなったと聞いて駆けつけたが、彼女がここにいる理由は分からない。しかも父の借りていた部屋にいる理由なんて……。
「お父さんの依頼でちょっとね、空映こそどうしてここに?」
「私は……」
父が亡くなったから、そう言いかけた時、私の存在に気が付いた刑事さんが「これで容疑者四人が揃いましたか」と言った。自然死と聞いていたが調査の結果、これが殺人事件だという事実が発覚したらしい。
「よ、容疑者四人?三人じゃないんですか?」
「それは多分私のことだよ、蘭ちゃん」
「なんでお姉さんが容疑者の一人がなの?」
少年の問いに刑事さんが「彼女、毎日板倉さんと連絡していたんだよ」と答える。連絡した履歴もある、といって携帯を見せる。
「毎日といっても、ここ一日二日は連絡してないよ。返信も来なかったから……」
不審そうに見る刑事さんに「なんなら携帯を調べてもらってもいいですよ」といって携帯を渡した。
そういえば他の人たちはどうやって父の居場所を突き止めたのだろう。私は何かあったらここにいるから、と事前に連絡を受けていた。だから宿泊しているのは2004号室だと知っていた。しかしこれから高飛びする父が容易にこの場所を知らせるわけがない。すると何か行動をとったはずなんだけど……。
「何?じゃあ君と同じ手でこの場所を突き止めた奴が他のいるかもしれんじゃないか?」
「いやぁ、しかしこの毛利小五郎と同じ頭脳を持った人物なんて……」
小五郎のおじさんがそう言いかけた時、ほかの刑事が「いました!」と言いながら部屋に駆け込んできた。
「板倉さんのフリをして部屋の電話が通じなくなったと電話してきた不審人物が」
「あ、いたのね……」
なるほど。その手を使えば誰でも簡単にこの場所を突き止めることが出来てしまうという訳なのか。
「でも君は何で板倉さんが将棋とチェスと囲碁の道具をホテルから借りたと分かったんだね?」
刑事が聞くと「メールですよ」と飲み込み顔で答えた。送られてきたメールに将棋盤とチェス盤と碁盤を前にしている父の姿を見たらしい。
「つまり、貴方達三人なら毛利君と同じ方法を使ってこの場所に来ることが可能だったわけですね」
容疑者の一人が「ちょ、ちょっと待ってください!彼女はどうなんですか?」と言って指を指してきた。
「彼女は板倉さんと連絡を取っていたんでしょ!なら彼女にも犯行は」
「……そうだね、私にも犯行は可能になるね。元からここに泊まっていたことは知っていたんだし」
「確かに……。君は部屋番号を初めから知っていたようだしな」
事実なので否定はしない。それに犯人ではないのだから隠す意味もない。「私が部屋番号を知っていた」ということに疑問を抱いたのか、小五郎さんが「速水さん、貴方は何故板倉さんの部屋番号を知っていたんですか?」と聞いてきた。
「そもそもあの人に高飛びを勧めたのは私だよ」
「なに?それはどういうことだね?」
「……仕事が終わらないみたいだし病気も悪化する一方、海外にでも行って休んだらどうかな。って勧めたんだよ。それで高飛びする前に行方を悟られるわけも行かないしホテルにでも泊まればいいってね」
半分事実で半分嘘だ。仕事が終わらないとは聞いていたし、病気は悪化していくだけ。海外にでも行ってきたら。そう勧めたのは本当だ。
しかし仕事は終わらないのではなくて、終わらせてはいけない。海外にでも行ってきたらと勧めたのは、日本にいれば組織の人間に殺される恐れがあったからだ。
実際には、組織とも関係の無い人間に殺されてしまった訳だが。
この時点で有力な容疑者は明らかに私だろう。動機なんてものはいくらでもでっち上げることができる。
「多分、お姉さんは犯人じゃないよ!」
「また君か、なんでそう思うんだね?」
「だってお姉さんが犯人なら電話をする必要が無い。だって板倉さんがここにいることを知っていたんだから!そもそもメールを受け取ってないんだからその電話をすることは出来ないんだよ」
少年の推理を聞いて刑事は「ふむ、確かに……」と考え込んだ。
事実、父が三つの仕事をかけ持ちしていることは知らなかった。しかし組織からの依頼を続けているということは知っている。だから高飛びすることを勧めた。組織の目を逸らすために。
それにしても、この少年。言動が彼にそっくりだ。工藤くんの面影を感じるけれど、隠し子か弟なのかもしれない。