フーズイン?
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メールを送信した。
「ちょっと協力してくれないかしら?」
「……また何か企んでるの?」
「ええ。ようやく見付けた標的を……殺さない理由なんてないでしょう」
「うーん、それは良いんだけど……私が手伝えることなんてある?」
「貴方と私が利害が一致する目的なんて一つしかないでしょ」
彼女の頼みを察した。そういうことならば、応えはもちろん了承だ。
横浜港には不気味な行列が出来ていた。
「季節外れのハロウィンパーティ」それは幽霊船・シーファントム号で行われる仮装パーティのようなものだ。このパーティはただの仮装パーティではなく、映画のオーディションも兼ねているのだ。
現に私も普段では考えられないドレスを着ている。
「綺麗なお嬢さん、お独りですか?」
「……あ、小五郎さん」
「へ?私のことご存知で!?」
「ご存知も何も私は、」
「空映じゃない!もしかして、アンタもこのパーティに参加するの?」
話しかけてきたのは蘭ちゃんの父である毛利小五郎だ。園子ちゃんが私の名前を読んだところで小五郎さんは「なにィ!?」と驚いた悲鳴を出した。
「それで空映のソレは何の仮装なの?」
凄いドレスだけど、と少し引き攣った顔で聞いてきた園子ちゃんに「吸血鬼」と答えた。
「女吸血鬼のエリザベート・バートリーだよ」
「うわぁ、またえげつないもの選んだわね」
「園子ちゃんは魔女?」
「可愛いね」と褒めると「そうでしょ!」と鼻を膨らませた。
因みにハンガリーの貴族であるエリザベート・バートリーをチョイスしたのは私ではなくベルモットの方だ。田舎の娘とは思えない姿に変えてみせるわ、とかいって化粧やら何やらで1時間。「血の伯爵夫人」の出来上がりである。パッと見誰かは判断出来なかったようだが(小五郎さんの反応からして顔を見ただけで私だと判断することは出来なさそうだ)、私は声を変えられる訳では無い。その為に園子ちゃんに正体がバレてしまったということだ。元々隠す気も無かったので誤魔化しはしなかった。
「それにしてもアンタのソレ、まるで別人ね!誰かにやってもらったの?」
「このチケットを押し付けていた知り合いにね。……私の代わりに乗るんだからオーディションも合格しなさいよ、って言われて渋々」
用意していた台詞/言い訳を話す。
オーディションという言葉に疑問を持ったのかどういう事か聞かれる。それに答えたのは私ではなく、メデューサの仮装をした女性だった。
「蘭ちゃんは来てないの?」
辺りを見回すが彼女の姿はない。毛利小五郎宛に出した招待状なのだから彼女も参加すると思っていた。
「ああ……、蘭はこういうの苦手だから」
そういえば蘭ちゃんは怖いものやお化けが思い出した。となると彼女はこの船に乗っていない。乗るわけがなかった。これは不味った。蘭ちゃんを巻き込まない為に小五郎さんに招待状を出したというのに、その彼女がこの船に乗っていないとなると……。否、そもそも彼女が乗っていなかったところでベルモットの作戦に巻き込まれるなんてことは無いだろうし大丈夫だろう。そう願うしかない。
「さあ、者共!出航の時は来た!呪われた七つの海を渡り、愚かで傲慢な人間共に我らが力、思い知らせてくれようぞ!」
それは唐突に始まった。
ゴン、ゴン、ゴン、とシンバルの不気味な音が船内に響く。
亡霊船長の芝居かかった台詞に合わせて、化物達が不気味な声を上げた。成り切る姿は本物の化物のようだ。船長からの指示は船に乗ったときに手渡されたカードと同じカードを持つ7人の仲間を探せというものだった。
私は死神のカードだから……悪魔のカードを持っている園子ちゃんとは別チームというわけだ。
「空映は何のカード?」
「えーと……死神、かな」
「じゃあ私とは違うチームって訳ね」
「負けないからね!」
「望むところよ!」
「死神のカードの方〜」と呼びかけてる男が目に入り、「呼ばれてるからまたね」と言って死神のカードの持ち主を探してる男の元へ向かった。
船長の指示から一時間経過した頃、船内が消灯した。雷が光り、船長の声が流れる。
「どうやらこの魔界のパーティに醜くもなく、魔力もない、タダの人間が混じっているようだ。さあ!運命に定められし同士七人で手を組みその愚か者を見つけ出し、肉を貪り、腸をかきだし、流れ出す血を一滴残らず、飲み干すのだ!」
化物の雄叫びが船内に響く。
船長の声に合わせて扉が開かれる。化物達はその扉に向かって走り出していく。
そして、
「な、な、なんだありゃ!?」
それは逆さまに吊るされたてるてる坊主のように。亡霊船長がタツに吊るされていた。
ポタリと降ってきた血がサプライズなどではなく、殺人だと物語っていた。
「これ、本物の血よ」
メデューサに仮装した女が近くに寄り調べる。
「これは殺人事件、だね」
「……」
「早く!誰か!早く彼を下ろして!」
女がそう叫んだ瞬間。大きな風が吹き、その影響で幽霊船長の身体がデッキに落ちた。船客たちが悲鳴を上げた。
死体に刺さっていたボウガンの矢。そしてボウガンの矢に貫かれた悪魔のカード。被害者はほぼ即死。この広い太平洋だ。凶器など既に海の中にポイだろう。
悪魔のカードを持っているのは七人だけなのだからその中の誰かが犯人というのはほぼ確実。そしてそのカードを持っていない人物が犯人と考えるのがセオリーだ。
しかしそれは余りに出来すぎている。私が犯人ならカードを残すなんてことはしない。カードを持っていないということは「自分が犯人ですよ」と言っているようなものだから。
ならば逆に考えるべきだ。カードを持っていない人物こそ一番怪しくない人間だ、と。その裏をかいてという可能性もあるが普通そこまで考えはしないだろう。
ゲームのやりすぎ?結構。それで免罪を晴らすことが出来るならその知識を生かすべきだ。
「では仏の顔を拝んでみるか」
そう言って幽霊船長の骸骨のお面を外すとそして小五郎が船長のマスクのはずすと有名な映画プロデューサー、福浦千造の顔が現れた。
「……なるほど、そういうことになるんだね」
つまり私は今回、殺人の片棒を担いでしまった。そういうことだと理解した。
先日、父が亡くなった日にベルモットに頼まれていたこと。それはある人物の経歴や身辺について調べてほしいということだった。殺人サイトの掲示板にあった「福浦を殺してやりたい」という書き込み。それを書いたのが今回、福浦千造を殺した犯人だ。本人は冗談半分で書き込んだだけ。
別にそれだけで辿り着いた訳ではない。ベルモットがその書き込みをした人間について調べて欲しいと言ったからこそ、今回の犯人がその男であることが分かった。
犯人が誰なのか分かっている私にとって問題となるのはその男がどの変装をしているかだ。
「……いや、まずは船内を調べること、かな」
デッキに集まる人達は無視。今のところこちらに用はない。欠伸をしながら船内に戻る。
こっそり園子ちゃんたちのチームの動きを聞いておいたから、それに合わせて行動をすれば、何かしら掴めるはず。
確かトイレに寄ったとか言ってたはずだ。
トイレの中に入ると割れた鏡が目に入った。これでは自分の姿を確認するなんてことは出来ない。演出だとしても、これでは鏡を置く意味が無い。
左から二つ目の個室に入るとトイレの蓋は汚れた跡が残っていた。形的には靴の跡だろうか。つまり、この上に乗る必要があったということかもしれない。目的は分からないが、そうする必要があったということだろう。
暫く船内を調べても証拠になりそうなものは見つからず、ホールへ戻ると小五郎さんが気弱そうなミイラ男を犯人にしたてあげようとしているところだった。
「わ、罠だ!これは誰かが私を陥れるための陰謀だ!」
そう喚くが男を介添しようと者は周りにいない。フォローを入れようと思い、声をかけようとした瞬間。
「そいつは見当はずれだ……毛利探偵」
「な、なにィ?」
「それでは真実は闇の中、」
亡霊船長のマイクから聞こえてくる気障ったらしい声。その言葉回し。覚えがある。
「まさか……」
急いでデッキへ向かえば骸骨のお面を被った男が現れた。フフフと笑いながら「私ですよ、毛利探偵」と話しながらお面を取った男は透明人間だった。否、それも変装。「さあ、謎解きを始めましょうか」と言い、顔に巻かれた包帯を全て取り現れたのは工藤新一の顔だった。
「お、お前は!た、た、探偵坊主の!工藤……新一ィ!」
マストの上でほそく微笑む工藤くんに小五郎さんが叫ぶ。
問題提示をだそうとしていた福浦さんを狙って、パーティー会場である下の船室から抜け出し、甲板にでて悪魔のカードを添えたボウガンの矢で射抜く。それが出来るのはアリバイの無いミイラ男だけ。それが小五郎さんの推理だ。
「この推理のどこが見当はずれってんだ、おい!なんとか言ってみろ!」
「……ああ、失礼。ちょっと風邪気味で喉がね」
ゴホゴホと出る咳を口で抑えて笑う。
この流れで分かるが、どうやら工藤くんは事件の真相を理解したらしい。流石。平成のシャーロックホームズという名は伊達ではない。
彼の推理はこうだ。
今回の犯人は自分のアリバイ作りのために、自身と背格好が似ていて、なおかつミイラ男のように顔を隠している仮装をした客をトイレで待ち伏せにし、その客を薬で眠らせた後で自分が被っていた盗聴器付きのマスクを被せる。 こうすることで自分がここにいるとほかの客に見せかけることができる。トイレの蓋に付いていた靴の跡もこれの裏付けとなる。そしてマスクに盗聴器を付けたのは第三者が狼男として接していた時に遠吠えを流す事でその場を誤魔化すためだ。
その間、事件の犯人はマスト上にいた福浦をボーガンで射殺した。 犯行終了後はミイラ男に被らせたマスクを取り、自分が被ればアリバイは完璧というわけだ。この暗い船内の中で、しかも自身をアピールに夢中になっている人たちの中で他の人の様子など見ていないだろう。
「そうですよね?狼男さん」
男は逃れられない。
犯人唯一の失敗は、そのミイラ男が映画スタッフであったことだ。
メニューにも載っていないそのお酒。それを飲んだと言えるのは映画スタッフであり、福浦さんからの指示を受けたミイラ男のみ。つまり、この狼男が飲んだという言い訳は通用しない。
そもそもミイラ男が福浦さんの指示で飲んでいたカクテルは「シルバー・ブレット」という名称であり、その名称の由来となった「銀の弾丸」は狼男の息の根を止める唯一の武器。
「俺は飲んださって……その
顔で言っても説得力ないよ。だって貴方がホラーファンならそんなお酒、飲まないでしょ?だって狼男が銀の弾丸を飲み干すなんて自殺行為だもん」