貴方がいた証を胸に

杏寿郎さんの死から4ヶ月が経とうとしていた。柱合会議に出て私は煉獄さんの後任のように柱となった。
炎柱が途切れたのは鬼殺隊始まって以来だったそうだ。そして、新たに雪柱が誕生した瞬間でもあった。
そして、柱となった私は…

『鼻に頼りすぎ。』
「はい!」
『善逸、あと少し頑張れ。』
「も、もう無理…」
『伊之助、あと1000回素振り追加。』
「上等だー!!」

お館様の命により、三人を継子にした。単独の任務に見送ったり、見送られたりしながら鍛錬を重ねてきた。三人は幸か不幸か、強い鬼と出会ったり、死線を潜り抜けてきている。
それはどんな鍛錬にも勝るものだった。

『…宇髄さん、アオイちゃんを離してください。』
「無理だな。」
『…代わりに私の継子三人をかしますから。』

蝶屋敷に用事があって向かうと、叫び声が聞こえた。その声はアオイちゃんのものだと分かった瞬間、全員で走って向かった。
どうやら、宇髄さんは任務で何人か必要だったようで、私がそう提案したのだ。

「えええ!?深雪さん!?俺嫌だよー!!!あんな人について行きたくないよ!!」
『善逸、音柱よ。雷の呼吸の派生である音の呼吸。貴方が一番彼から学ぶことがあると思うわ。』
「で、でも…」
『善逸は出来る子だって私は知ってるよ。』

宇髄さんは案外あっさりと承諾してくれた。善逸はギリギリまで私から離れようとしなかったが、炭治郎、伊之助はやる気でいっぱいだった。

『常に冷静に。頭を冷やして、視野を広くね。』
「そして、心を燃やせ。ですよね。」
『…さすがね、炭治郎。』

いつも言い聞かせてきた言葉を三人に伝える。きっと今回の任務は大変な任務なのだろう。音柱が出向くほどなのだから。

『杏寿郎さん、どうか三人を見守って下さい。』

三人を見送りながら彼の羽織をギュッと握った。

▽▼▽

三人は無事にとはいかないが、生きて帰って来た。上弦の陸との戦いに勝って戻ってきた。しかし、宇髄さんの腕は犠牲となり、そのまま柱から退くこととなった。

『宇髄さん。ありがとうございました。』
「あいつらが強かっただけだ。俺は何もしてねえよ。」
『…そんなこと言って、彼らをこうやって生きて帰してくれたじゃないですか。』

生きて帰ってくることの尊さはどんなものよりも勝る。大切な人が出来ればできるほど、それは強くなる。

「お前、死ぬなよ。」
『まだ、死ねませんよ。』
「…あいつら、お前が死んだら泣くぞ。それだけは覚えとけ。」
『そうですね。』

杏寿郎さんを失って苦しんだように、きっとあの子たちは私のしを目の前にすれば泣いて悲しんでくれるだろう。千寿郎もそうだ。早く彼に会いたかったのに、いつの間にか死ねない理由がいくつもできてしまった。

「深雪さん!」
「深雪!」
「深雪さーん!!」
『さ、みんな鍛錬を始めようか。』

今日も楽しげな声と善逸の叫び声がこだました。

▽▼▽

「時姫はさ、何故今更上弦になったの?」
「単純な話じゃ。まだ死にたくないのじゃ。」
「へぇ〜なんか意外だなあ。」

上弦の陸が倒された。となれば、自然と私に声が掛かるのは必然だった。元々、無惨は私を上弦にするつもりだったのだから。

「だって、上弦になりたくなかったから下弦に留まってたんでしょ?それなりの理由をつけて。」
「其方は頭が回りすぎるから嫌いじゃ。」
「えぇ〜そんなつれないこと言わないでよ。」

上弦の弐、童磨は小賢しいやつだった。何故か私に興味を持って詮索してくる。私なんかよりもずっとずっと前に鬼になった彼は色々なタイプの鬼を見てきたのだろう。だからこの今までにないタイプの私に興味を持ってしまったのだろう。

「それより、上弦の伍と肆…あれは死ぬ。」
「え?何でそんなことわかるの?」
「最近、少し先の未来を視ることが出来てな。あやつらは死ぬ。」

炭治郎がいた。そして禰豆子も。何より、禰豆子の変化はあいつを動かす材料となる。

「近々、大きくことが動くじゃろう。」
「なになに、何が起きるの?」
「もう其方と話すのは疲れた。妾は失礼する。」
「本当につれないなぁ。仲良くしようよ。」
「其方とは一生仲良くはなれんな。」

時姫の視た未来は現実となった。
最後の戦いが今、始まろうとしている。