足音1


身体が重い。動かない。
だけど、何故かフワフワするーー

起きないとそう思うけれど瞼は閉ざされたまま。


おでこにヒンヤリとした感触。

誰…だろう。

そんな事を思いながらまた私は意識を手放したーー

*
*
*
*

重い瞼をゆっくりと開く。
そこは見慣れない天井。

『ここは…どこ…』
「おー、目ぇ覚めたか。」

声のした方を向くと見慣れない男性の姿。

「気分はどうだ。」
『えっと…大丈夫です。』

「そんならよかった。
お前、俺のアパートの前で倒れてたんだぜ?雨の中。なんも覚えてねーのか?」

何が起きたなんて分かるはずもない。てか、もう少しいい状況を想像していた私がバカだった様です。

『ごめんなさい…何も…』
「お前、名前は?俺は黒尾 鉄朗。」
『 森 里紗です。』
「 里紗か。じゃあとりあえずシャワー浴びて来いよ。」
『え…でも…』
「遠慮すんな。今のお前を放り出すなんて無責任なことはしねーよ。」

笑いながら私の頭をクシャリと撫でる。大きいその手はとても優しく感じた。

『ありがとう。じゃあ…お言葉に甘えて。』
「おう。あ、待て。今日はこれで我慢してくれ。」

渡されたのは真っ赤なジャージ。

『音駒高校…』
「俺、音駒高校のバレー部だから。」
『バレー部か〜』
「ん、バレー部だったのか?」
『ううん、バレーは見る専門。いいよね、バレー。一丸となってボールを拾う所とか……』
「だろ?」

そんな他愛もない話だけど彼はすごく嬉しそうな笑顔を見せた。
あ、本当にバレーが好きなんだな…
そう感じた。

「ま、早く入って来い。」
『うん、ありがとう。』

洗濯機とお風呂場を教えてもらい、私はお風呂場へ向かった。

『そういえば、この白いワンピースなんて私着たことないのに。死んだら白いワンピース着るのかな…』

ショート気味の頭をフル回転させているがやはりショート。
熱めのお湯をかぶり、考えるのはやめた。が、しかし。大きな問題がのし掛かる。


『ここを追い出されたら私…終わりだ。』

それこそ本末転倒。

『これはもう頭を下げるしか…私は生きるんだ。せめて1ヶ月でも……』

赤いジャージを来て部屋に戻ると彼はソファに座っていた。
何て呼ぼう…とりあえず…

『えっと…黒尾くん。お風呂とジャージありがとう。』
「おう、あーやっぱりでけぇな。」

ジャージの裾を曲げている姿を見て笑う彼。

「さて、今から飯作るけど食べれそーか?」

時計を見ると19時。

『なら、私が作るよ。えっと…助けてもらったお礼って事で。』
「まじ?」
『うん、何食べたい?』
「いや…何でもいい。…冷蔵庫の中身で作れるものがあるなら…」

何やら困ったような彼を見て首を傾げながら冷蔵庫を見る。

『お茶とトマトとハムと…これは残り物?』

驚く位空っぽの冷蔵庫。
彼は一体何を作ろうとしたのだろうか……

『えーと…パスタとかってある?』
「たしか…」

棚からインスタントラーメンなどを出して行き

「あったあった。」

奥の方にあったパスタを見せる。

『ならパスタを作るよ。黒尾くんは座ってて?』
「本当にいいのか?」
『うん、いいにきまってるじゃない。』

少し心配そうにしていた彼も、それなら頼む。と言ってキッチンから出て行った。

『よし。』

鍋に火をかけ沸騰してパスタを茹で、トマトとハムを切り茹でている間にオリーブオイルで炒め、塩コショウで味を整える。

『冷蔵庫は何もないのにオリーブオイルがあるなんて不思議…』

そう言いながら茹で上がったパスタをトマトとハムの炒めたフライパンの中に入れ、味が均一に着くようにする。

『いや〜一人暮らししててよかった自分!自炊しててよかった〜自分!』

出来上がったパスタを見て心から思う。
パスタを乗せた皿をリビングへと持っていく。

『黒尾くん。出来たよ。』
「おう…まじか。」

驚いたように見る彼。
もしかして…

『ご、ごめん。こういうの苦手だった!?』
「え、いやいやそーじゃなくて…すげえなって…これ、食べていいわけ??」
『え、うん。だって黒尾くんの為に作ったようなものだし…』
「……いただきます。」

パクリと一口食べる黒尾はその後目を輝かせる。

「めちゃくちゃうめぇ。久々にこんなうまい飯食ったわ俺。」
『そんな大袈裟な…でもお口に合って良かったです。』
「謙遜すんなよ、すげーうまいから。」
『あ、ありがとう。』
「…で、里紗はどこの高校出身なんだ?」


きた…
なんと説明したら良いものだろうか。私の学校なんてあるはずがない。

『…信じて聞いてくれますか。』
「信じるも何も、お前の事、俺は何も知らねーからさ。」

不思議そうに私を見る。
言おう、黒尾くんには知っていてもらいたい。

『私は…ここの世界の人じゃないの。』
「……。」

驚くかと思ったが彼は真剣な表情をしていた。
ちゃんと聞いてくれようとしているんだ…

『私は友達の代わりに一度死んでるの。だけど色々あってこの世界で二度目の人生を約束されたわ。ただし条件付きで。』
「条件は?」
『それはこの世界で……っ!』

何故だろう。言葉が出てこない。

「…?どうした?」

もしかしたら、その条件は言ってはいけないのかもしれない。

『ごめん…それは言えないようなの。』

俯きながら言うと大きな手が私の頭を包み込んだ。

『…黒尾くん?』
「まぁ…お前を拾ったのは俺だ。責任はもつ。お前がこれからの事を決めるまでここにいりゃーいい。」
『し、信じてくれるの?』
「こんな嘘なんて誰も言わねーだろ。」

クツクツと笑いながら言う黒尾。

「ま、これからよろしくな。」

優しい目で私を見る彼に

『ありがとう。』

そう言った。



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Noah