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スプリング
とうとうこと日がきた。
飛雄は最後の蛍は2度目の春季大会だ。
ストレートで勝ち進んだ試合もあれば接戦の上、勝ち進めた試合もある。
「ママ!翔陽もしたい!」
「翔陽、僕たちはまだダメだよ〜」
駄々をこね始めた翔陽をなだめる忠。
「二人とも本当にバレー好きだな〜」
『さすがあなたの子ね。』
そう言いながら観客席からコートに立つ我が子を見る。
「ブロックに追いつかれたら攻撃出来ねえだろ!」
「それでも早すぎて連携取れないのは全然ダメじゃねーか!」
「もっといい方法があるんじゃない?それを試合の中で見つければいい。それが一番効率のいい方法だろ。」
「国見さん、金田一さん、コーチが呼んでます。」
「えー面倒だなぁ。」
「ほら国見行くぞ!」
金田一が国見を押してコーチの元へ向かう。
「何か攻略見つけられた?」
「いや…」
「ふーん。」
ふーんと言った蛍に怒ることすらしない。それほど考え込んでいる。
「飛雄、ブロックに意識しすぎ。もっと仲間一人一人を意識しなよ。分かるでしょ?みんなの力を100%出すために何が必要なのか。」
諭すような言葉に驚く飛雄。
「あ、言っておくけどこれ、僕の言葉にしたいけど、岩泉さんの言葉だから。及川さんに言ってるの聞いた。どんな人でも躓くんだねぇ〜」
国見と金田一が戻ってくる。
「6人で強ければいいじゃん。バレーってそういうことデショ?」
珍しく笑った蛍に飛雄も笑う。
「なになに、この2人が笑うとか…雪でも降るの?」
「そういう国見も笑わねーだろ!?」
金田一のツッコミにそんなことないけど。と冷静に言う国見。
「菅原!勝つぞ!」
「先輩達がいてこそだ。なんて言わせたままはごめんだしね。」
国見も金田一も笑う。
「あぁ、勝とう!」
皆はコートに立つ。ホイッスルが会場全体に鳴り響く。試合開始の合図だ。
相手はあの牛島くんがいた強豪。
『がんばれ…』
「がんばれー!!!」
「がんばってー!!」
大きな声で応援する子供達。
接戦を繰り広げるも1セット目を落としてしまう。
「クソッ…」
「気にするな菅原。次とりかえそうぜ。」
「そうそう、次取れば問題ない。」
「国見はそろそろエンジンかけろよ。」
「言われなくても。」
ホイッスルが鳴り響き、コートへ戻る。
「蛍、あの4番のストレートは必ず止める。」
「はい。」
「蛍も俺と同じでそつなくこなす型だからね〜そろそろ本気出すよ。」
よかった、まだあの子達の目は死んでいない。きっと大丈夫。
『飛雄…蛍…みんな…頑張れ。』
試合が進むと金田一君がマークされているということがすぐにわかった。
「金田一くん、マークされてるな。」
『エースだからね…』
高身長でエースの金田一くんはなかなかスパイクを決めさせてもらえない。
「クソッ…」
「悪い、トス高くねーか?」
「いや、俺が悪い。」
コート内では金田一が焦っているように見えた。
まずい、金田一が折れたら時間の問題だ。しばらく様子を見るか?いや、でも…
「レフト!」
ハッキリと通る声が聞こえる。
「国見…」
呼ばれる方へトスを持っていく。
強打に見せかけた華麗なるフェイントに皆が騙される。
「金田一、取り返せばいい。行くぞ。」
国見から出る言葉は想像を越えるもので、彼から本気が伝わってくる。
「おう。」
北川第一はそこから追い上げ、そのセットを取った。
「最後のセットだな。」
『えぇ…』
「勝つ?」
『分からない。』
相手は強い。だけど、
『飛雄たちだって強い。』
「そうだな。あいつらは強いべ。」
最終セットが始まるホイッスル。
彼らの背中は凛々しかった。
*
*
*
「お疲れ様、みんな。」
「父さん…母さん…」
『みんな、本当によく頑張ったね。』
「でも、負けました…」
「最終セットは手も足も出なかった…」
「だから勝負はバレーは面白いんだべ?」
腰に手を当てて笑う孝支。
「一つでも多く試合をしたいなら勝つしかない。でも必ず負けるチームもいる。だから勝負なんだよ。バレーをもっとしたくなるんだよ。
お前たちは強い。だけどもっと強くなれる。これが最後じゃない。だろ?」
孝支の言葉に下がっていた頭が自然と上がる。
「よし、ご飯を食べよう。金田一くんと国見くんの両親には言ってあるから、家に帰ろう。」
『何食べたい?なんでも作るよ。』
「翔陽、ハンバーグ!」
「ピザ!」
『2人とも、今日はトビオたちに好きなの譲りなさい。』
「パスタが食べたい」
「俺、ハンバーグとピザで大丈夫です。」
「俺もなんでも大丈夫です。」
「ケーキ。」
『了解!さ、帰りましょうか。』
みんなを車に乗せ、翔陽と忠を頼む。
「翔陽も忠もおとなしくな。」
「はーい!」
「わかった!」
車を発進させ、最初は話し声があったものの、突然話し声がピタリと止んだ。
『…お疲れ様。』
スースーと寝息を立てながら寝る子供達を見て微笑んだ。
「忠たちも寝たな。」
『興奮してたから…』
微笑みながら家へ向かう。
今日の主人公達を車に乗せて。