喧嘩するほど仲がいい
大会も終わり、一段落…とはいかない。次に待ち受けているのは飛雄達にとっては最後の大会なのだから。
『2人とも、今日は何時くらいになりそう?』
「いつもどーり。」
「僕もいつも通り。」
『そう、あまり無理はしないでね。』
「ん。母さんも無理すんなよ。行ってきます。」
「安静にしててよね。行ってきます。」
『はいはい、行ってらっしゃい!』
心配してくれる彼らを見送り、リビングに戻る。
彼らが最後の大会へ全力で頑張っている時、私も実はつわりと戦っていた。
「ママ、着替えたよ!」
「気持ち悪い?大丈夫?」
『大丈夫よ。』
心配してくれる我が子をそっと撫でる。
「里紗、今日は俺が幼稚園送りに行くべ!」
『会社間に合う?』
「大丈夫。忠、翔陽、行くべ〜〜」
「はーい!」
パタパタと走って孝支の元へ。
『ごめんね、ありがとう。』
「そんなこと気にすんなよ。家族だろ!」
笑ってくれた彼に微笑み返す。
「無理するなよ?早く帰るから!」
「「行ってきまーす!!」」
『行ってらっしゃーい!』
笑顔で見送り、パタンとしまったドア。
『さてと…』
朝ごはんを片付け、自分用の朝食を準備する。でも食べ物の匂いで吐きそうになるからこのところトマトしか食べていない。
『はぁ、いつになってもつわりには慣れないなぁ。』
トマトを口にいれ、つわりが治ったら何を食べようかなんて考えながら少しゆっくりした朝を過ごしていた。
*
*
*
『あ、もうこんな時間!』
30分だけと誓って昼寝をしたらいつのまにか2時間経っていて、気づけばお迎えの時間。
『急がなきゃ。』
急いで準備をして幼稚園へ。
「あ、こんにちは〜」
『こんにちは〜、翔陽と忠を迎えにきたのですが…』
「少しお待ちくださいね。」
玄関で待っていると、泣いている忠と心配そうに忠を見ている翔陽。
『あらら、どうしたの忠。』
「僕が悪いの!!」
『え?』
見れば翔陽も泣きそうになりながら立っている。
「今日、翔ちゃん友達とサッカーの最中に喧嘩をしまして、その時に忠くんが止めに入ったんです。その時に、関係ないからあっち行っててと言われたようで…」
『そうだったんですね。』
「ごめんなざいーーー!!!」
泣き出してしまった翔陽。
『あらあら、翔ちゃんまで泣いてどうするの。』
ハンカチで顔を履き、先生に抱っこされていた忠を抱き抱える。
『忠、かっこいいことしたじゃない。ママはそんな忠が大好きだよ。』
ギュッとすると忠の小さな手が私の服をキュッと結んだ。
『さ、帰るよ。先生、ありがとうございました。』
お辞儀をして、忠を抱きかかえ、片方の手で翔陽と手を繋ぐ。
『ほらほら、泣かないの二人とも。』
「でもぉーー!!」
『翔ちゃん、後で忠に自分の気持ち伝えればいいから。』
未だに翔陽の方を見ようとしない忠。
少し心配しながらも家に着く。
泣きながら帰ってきたこともあってか、少し疲れた様子の二人。
『手を洗っておいで。』
忠を降ろし、そう伝える。
「ごめん、忠…」
涙をいっぱいに浮かべた翔陽がそう言った。
「…やだ。」
「嫌なこと言ってごめんー!!!」
「…嫌だ!!翔陽、全然分かってない!いつもそうじゃん!!もう知らない!!」
走り去っていった忠は階段を登って行ってしまった。
「忠が許してくれない〜!!!」
わんわん泣きながらそう私に伝えてくる翔陽。
珍しく忠が許さなかったことに驚きもしたけど、初めて自分の想いを相手に伝えたことが少し嬉しくもあった。
『何でだろうね、翔ちゃん。』
「分かんないー!!」
『翔ちゃん、忠と喧嘩って初めてだよね。』
「うん…」
『忠ね、いつも我慢してたんだよ。どんなに翔ちゃんがチクチクする言葉を言っても我慢してたの。』
「我慢?」
『そう、我慢。だからね、今日はその我慢が爆発しちゃったんだね。』
優しく優しくそう伝えれば、優しい翔陽は涙をパラパラと流した。
「忠、もう許してくれないかなあ…」
『きっと許してくれるよ。大丈夫。』
頭を撫でると、翔陽は涙をゴシゴシ拭いて、階段へ向かった。
そんな背中を見て微笑みながらも少し心配なのは本当の気持ち。忠の様子も気になるため、翔陽について行く。
「忠…。」
「…。」
「ごめんね。今まで忠に嫌なこと言って。」
「…。」
「ごめんなさい。」
まだ幼いけれど、素直な気持ちで謝った翔陽。
「…いいよ。僕もいいよって言わなくてごめんね。」
そしてそんな翔陽を許し、幼いのに自分も悪かったと謝れる優しい心を持った忠。
あぁ、もう5歳なんだなあ。昔だったら翔陽は謝ってなかっただろうな。忠は我慢してるだけだっただろうな。なんて感じながら2人の成長に喜びを感じる。
『2人とも、おやつ食べよっか。おいで。』
何事もなかったかのように2人を呼べば、ようやくその泣き顔が笑顔は変わった。そして手を繋いでこちらはやってくるのだから、子どもって面白い。
そんな優しさをいつまでも忘れないでねと心の中で2人に伝えた。