よく三人で部活の帰り道話し合った。今日のプレー、後輩の事、明日のメニュー、その他にもたくさん。
「幸せって何だろうねぇ〜」
及川がそう言った事をよく覚えている。
インハイ予選。決勝。
因縁の相手、白鳥沢学園高校……
この3年、ただ全国に行くため、白鳥沢を倒す為最善を尽くしてきた。
だけどどうしても越えられない壁。
運命かの如く叩き潰される。
『…及川。』
きっとその辛さから彼は言ったのだろう。
だけど私の隣にいた彼は前だけを見つめて言った。
「小さな幸せにすら気づけねぇのに、大きな幸せなんか掴めるもんかよ。」
「え?」
「お前の幸せって何なんだよ。白鳥沢に勝つ事か?全国に行く事か?そりゃー幸せだろうな、最高の気分だろーな。」
太陽はどんどん傾き、暗闇が私達を包み込む。
「俺は…このチームでバレーが出来る。これだけで幸せだべ。」
ハッとしたように及川は顔を上げる。
「んな顔すんな!!まだ終わってねぇだろ!」
多分、こんなにもお互いを分かり合える人はこの2人以外にいないと思う。
「そうだね。」
吹っ切れた顔をした彼にホッとする。
『さて、1週間後のテストはとりあえず赤点とるなよ〜お前ら2人!』
そんな事を言えば及川はこんな時に言わなくても〜!と言い、岩泉は赤点とるなよクソ川。なんて言う。
笑いながら家を目指す。それが1秒でも長くあるよう願うだけの私。
それは数ヶ月後に終わってしまう事を知らずに。
神様は残酷な人
ねぇ、幸せってなんだろう。
多分ね、私達が幸せになれるのはまだまだ先だと思うんだ。
春高予選準決勝。
烏野高校VS青葉城西高校
青葉城西と言えばあの及川徹率いるーーとまで言われるほどの強豪校。
白にペールグリーンのラインが入ったジャージを身にまとい、堂々と歩く姿はもう…
「及川さーん!!」
「キャー!!カッコいいー!!」
……という感じです。
「いや〜モテるな〜俺!」
『一、及川がうざいんだけど。』
「それはいつもだ。」
「まったまた〜嫉妬はよくなっっ痛いよ!!殴らないで!あと岩ちゃんはハジメなのに俺はなんで及川なの!!」
「うるせぇ!」
こんなにもヘラヘラしているがこの部の主将。
そしてそんな主将の隣をいつも歩いているのが副主将。
「烏野高校か〜」
「そうだなー。」
ドリンクを飲みながらそう言う花巻。
『嫌だな〜』
「なんで。」
『いや〜なんかさ、あのチームってインハイ予選では伸び代たっぷりチームだったわけ、この夏、絶っっ対に大成長していたはず。まぁ、もう調査済みで大成長していた事が分かったけれどね。』
「美月の調査済みとか怖いな〜」
人をおちょくるようにそう言う松川。
『んな事言って、私がいなかったらあのクソ川君がオールして赤点とって補習で部活できないじゃない!!』
「確かに。」
「あいつの赤点はやばいからな。」
「なんせ、受験を知らない推薦野郎だからな。」
花巻、松川、岩泉とテンポよく言われた言葉が彼の心をえぐったようで、
「みんなヒドイ!!!」
と言いながら泣くふりをして、国見になんとも言えない眼差しで見られていた。
そんな事を言いながらも体育館に足を踏み入れれば一変しさすが強豪校と言ったように貫禄がでる。
[んー…』
「どうした?」
私が悩むとすぐ反応するのが岩泉。
『どうやったらあのちびっ子と影山の速攻を止められるかと思ってさ……』
「青城の策略家も手を焼くか。」
『ちびっ子と同い年なら絶対一年もあれば見つけられたんだけどな〜』
試合1分前、いつものお決まりの言葉を及川が口にしようとする。
「「「「「信じてるよ、キャプテン」」」」」
すると岩泉からどんどん応援の言葉…よりは脅しにも見える言葉がどんどん流れる。
『徹。』
「え!?美月が久しぶりに徹って言った!?!?」
そんな及川を無視し、言葉を発する。
『誰がなんと言おうと、あんたが世界一のセッターだよ。』
ーーさぁ、行け、クソ川!!
クソ川!?違うよね!?
「美月、勝つからさ。見ててよね。」
『当たり前でしょ。』
腰に手を当てながら言って見せると満足そうな顔をしてコートへと向かう。
『京谷、そんなムスッとしない。』
「……。」
『はぁ〜返事が聞こえないんだけど。』
「……。」
『おい』
「いつ出してくれるんすか。」
『あんたがいい子にしてたらね。』
「それ、ホントですか。」
『部活にこなくなったあんたを毎日連れ戻そうとした恩師の私の言葉を信じられないと?』
「いや、それは…」
『少なくとも、出られないことはない。出たいならちゃんと見ときな。』
‘‘狂犬ちゃん”と及川から呼ばれるほどの問題児の眉間の皺をとり、溝口コーチの隣に座る。
試合が始まってからはドキドキと心臓の音が鳴り止まなかった。いろんな意味で……
『何やってんの京谷、ふざけてんなら殴るわよ。大体、試合に出れなくてそんなことするとかどこまで幼稚なの。私はいつまであんたのお守りをすればいいの。金田一大丈夫?痛いとこない?』
「あ、大丈夫っす!」
金田一のトスを無理矢理奪って、挙げ句の果てにアウト。1セット目を落とした。
「おー、京谷もやっぱ美月にはかなわねーな。」
「狂犬ちゃんが従うのは岩ちゃんと美月だけだよね。」
「ひゃー怖い。」
「おー怖い。」
一と及川はいいよ、花巻、松川お前ら私を怒らせたいのか?
『そこの3年組!1セット目取られたんだけど。私、昨日のミーティングでいったよね、1セット目は何としてもとれって。』
勢いよく飛び出した言葉に及川は焦っているようだ。
「いや…でもね、」
『でもじゃない!!ストレートで勝ってやろうと思ってたのに……!!!』
「まあまあ。」
まあまあって、松川が言ってきたので思いっきり睨んでやった。
「あのチビちゃんは止めてるしね。」
「次とればいいわけだし。」
『はー、取らなかったらあんたら暫く私の執事ね。』
「ははっ!そーはならねーべ!」
うん、知ってる。
きっこファイナルセットまでいく宿命。
きっとこのセットは私達がとる。
『一、私はコートに出られないから、あの及川と京谷を世話するのは大変だと思うけど…』
「おう、任せとけ!」
清々しく笑う彼を見て私も笑顔になる。
青城のエースって小さいよな。
よく耳にした言葉。そしてその言葉を実力で見せつける。
及川が天才セッターなら一だって…
『最高にかっこいいスパイカーだよ。』
見た目だけならなんとでも言える。
だけど、その闘志、努力は見てわかるものではない。
「美月、お前もな。」
『え?』
「最高のマネだべ。」
『!!』
「おーし、行くぞ。」
「岩ちゃん、スパイクどんどん打ってよね〜」
「当たり前だ。」
阿吽の呼吸。
中学のときに影山が言った言葉。本当にそうだと思う。こんなにも信頼している。それってすごいことではないだろうか。
2セット目は私達がとり、とうとうファイナルセット。
君たちは強いよ。
監督はやっぱり監督だ。
彼らが今一番何を言ってあげられれば良いのかを分かっている。
『みんな、頑張れ。』
*
*
*
*
「卒業ってやっぱり悲しいよね〜」
『まぁ、普通はそうでしょ。』
「でもまさか大学も同じになるなんて思わなかった……」
『及川のせい。』
「だな。」
「そんなこと言って嬉しいくせに〜!」
うるせぇ!うるさい!
と照れ隠しに言いながらも部室へと向かう。
『あ、花巻と松川!』
部室の前で卒業証書を手に、2人が手を振っている。
「おせーよ、阿吽トリオ。」
「なんだその呼び方。」
「お前ら阿吽の呼吸じゃん。」
『それは及川と一だけじゃん。』
「「いや、お前もだよ。」」
「マッキーとまっつん、いいねいいね〜!」
そして、扉を開くとそこにいたのは後輩たち。
ご卒業おめでとうございます!
矢巾と金田一は涙目だ。
「これ、後輩からです。」
国見から渡された色紙に思わず涙が溢れる。
『ありがとう…』
「……次こそは青城がインハイも春高も行くんで。」
『英がそんな事言うようになるなんて思わなかった。』
俺だっていいますよ。
と少し消えかかりそうな声で言う。
「及川さんも岩泉さんも花巻さんも松川さんも美月さんも、また見に来て下さいね!」
ボロボロに涙を零しながら訴えるように言う金田一。
「金田一泣くなよ〜」
「及川も泣いてるけど。」
「ははっ…」
『最高にいい後輩だね。』
「頑張れよ、金田一。」
「はい!」
『さ、練習しておいで、1日だって無駄には出来ないんだから!』
そう言い、部室を後にした。
『花巻、松川はここでお別れか…』
「俺らは地元だしな〜。」
「いつでも帰ってこいよ。」
「俺と岩ちゃんと美月の晴れ舞台見に来てね☆」
「お前、本当にうぜえな。」
しっかり飯食えよ。
ちゃんと休めよ〜
及川を頼んだぞ。
そう言いながら別れを告げる。
『残酷。神様は残酷よ……』
「うん、でも…」
「俺らは幸せだったべ。」
「マネ、ありがとね。まぁこれからもだけど。」
「次は日本一になるから。」
『うん』
神様は残酷な人。
頑張ってきたこの2人をいつだって蹴落として、全国へは行かせてくれなかった。
上手くなりたいの一心で痛めた膝。だけど、そんな素振りを見せず常に大きい背中で皆を安心させた。
天才とも、優等とも言われなかったが、毎日誰もいない道を走り、みんなが疲れても動けるように努力した。
そんな彼らがどうしても報われなかった。
「及川!!!」
「岩ちゃんラスト!!」
だけど、それでも、彼らは毎日毎日諦めなかった。
そして今ーー
「よっしゃーーー!!!!」
「しゃっー!!!!」
なんと!あの牛若、影山、日向率いるあのチームに勝ちました!今の気持ちは!!
「最高です!!」
岩泉さん、最後のスパイクを打つ時、どんな気持ちでしたか!?
「もう、決めてやろうと思い、打ちました。」
ーーでは、最後に。誰に一番この思いを伝えたいですか!
「それはもう……」
「一人しかいねーよな。」
「「いつも支えてくれた日本一のマネージャーに。」」
神様、貴方という人は本当に。
残酷で憎たらしく
マネージャーの吉村さん、今のお気持ちを…!
『…チームのみんなに感謝しかないです。』
以上、勝者のインタビューでした!!
『徹、一!おめでとう!そして、ありがとう。』
そして、感謝しきれない人です。